その2
ヤスオ
ドアノブを回した途端、正面からカゼがふく。
もちろん扇風機や窓からのものではなく、なにかしら精神的ななにかが。
パッとノブから手をはなし、一歩後ずさる。
「あっ...」
慌ててドアをノックする。
「失礼します。入ります」
今度こそ中に入ってみると、やはりあの外国人セムジュさんがいた。
テーブルを挟んで座っているのは社長の奥さんだ。
社長の奥さん
「当人がみえたようですので、失礼します」
こちらを横切るとき、ニヤっとした顔つきで退出された。
ヤスオ
ヤバかった。...あのまま入ってたら、アトでお小言だったろなー。
「前に失礼します。」
と声をかけ、社長と並んで向かい側の席に着く。
セムジュ
外国人にしては「営業スマイルはこうだ」と言わんばかりの笑顔で
「先日は性急な応対を致しまして、申し訳ありません。今回は貴社とあわせて相談にあがりました。よろしくお願いいたします」
どうやら今回はマジモードのようだ
ヤスオ
「私でなく、人材ならばいくらでもみつかるとおもいますが、理由がおわりでも?」
ため息をつきたいが、流石にこの場では諦める
セムジュ
両手の指を組んで、テーブルのうえに乗せる
「どうしても、横井殿が必要なのです。今すぐでなくとも、一年以内を目処に、貴社であらたな人材に引き継ぐまで待つつもりです。
無論、ただとはおもっておりません」
両手をテーブルから下ろし、橫にあったスーツケースを開け、お金の束を2つのせる
「2000万円あります。これを精算分と引き継ぎの費用にお役立てください」
ヤスオ
やばい、こりゃ逃げ道ナシかも。
ふと橫を見れば、社長の顔がもっとやばくなってる!!
まるで海で溺れた子どものようだ。おっさんだけど。
まあ気持ちはわかる
〇外国人
〇引き抜き
〇大金
これだけ揃えばまあテンパるよな。
しゃあない、......
自分で切り開くか。
「こちらのお金を使うかは別として、都合の良い日に、交易の場を拝見しても宜しいですか?」
まあここまでされて、とって喰いはしないだろうし、百聞は一見にしかずだろうしねぇ。
まあ、違う世界を拝んでみるのも人生かな。....
そう考えて(開き直って)顔をあげる
セムジュ
憑き物がとれたような、安堵した顔になる。おれの右手を両手で握りしめる
「では後日、改めて連絡いたしますので名刺か連絡先を頂けますか?」
ああ....そうだった。まだ名刺すら交換してなかったんだっけ。
取り敢えず名刺を渡し、テーブルの上の現金を持って帰って頂いた。
「朝早く失礼致しました」
と一礼して去っていったが、こちとら1日分の疲れがたまったよ。
社長なんかこのままほっといたらマジ呼吸止まっちまう。
なんとか奥さんのいる事務室まで送り届けて、今日の配送&外回りに出掛けるのだった。