第二十二話 ノードとの戦い
ミノタウロスを追って辿り着いたのは、草原の中に異質に佇む、銀色に輝くドーム状の建造物だった。
「なんだここは……?」
ファンタジーな草原から一転、いきなりSF映画のセットのような場所だ。
入り口に近づくと、プシュッという音と共に扉が自動でスライドした。
「自動ドア?」
中へ入ると、内装も完全に未来的なデザインだった。
壁も床も、継ぎ目のない未知の金属で覆われている。
「宇宙船の中みたいだな」
猿田が珍しそうに壁をコンコンと叩いた。
「宇宙船って……発想が子供ね。でも確かに、魔物の巣窟って雰囲気じゃないわ」
ミコトも警戒しながら周囲を見渡す。
「あそこ見て。エレベーターがあるわ」
ミキが指差した先には、透明な円筒状のチューブがあった。
中に入ると、操作もしていないのに浮遊感が襲い、ゆっくりと上昇を始めた。
「これ、上に向かってるのよね? タワーの中の、さらに上の階層ってこと?」
ミキが不思議そうに呟く。
やがてエレベーターが停止し、扉が開いた。
そこは、サッカーコートほどもある広大な空間だった。
そしてその中央に、不気味な物体が鎮座していた。
直径三メートルほどの、完全な黒い球体。
表面には何も映らず、光さえも吸い込んでいるようだ。
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【ノード】
・討伐推奨レベル:99
・スキル:ブラック・ショールズ(未来予知)
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「ラスボス登場って感じだが……オレにもわかるぞ。アイツのレベルは大したことねぇ」
猿田がステータスを見てニヤリと笑った。
レベル99。
一般の冒険者からすれば神の領域だが、レベル100を超えた今の俺たち(特に俺)からすれば、恐るるに足らない数字だ。
「猿田、気をつけろ。ステータスだけが全てじゃない。絶対に何かある」
「ヒサシは心配性だなぁ。レベル99なんて、今のオレ様なら一捻りよ!」
忠告も聞かず、猿田は『黄金の鎧』を発動させて突進した。
「らあぁぁぁッ!」
渾身の力で斧を振り下ろす。
だが。
スカッ!
斧は黒い球体『ノード』の真横を素通りし、床に激突した。
「あン? 避けられた?」
猿田は追撃を加える。横薙ぎ、突き、斬り上げ。
しかし、その全てが紙一重でかわされる。
ノードはフワフワと浮遊しながら、最小限の動きで猿田の攻撃を無効化し続けている。
「ちょこまかと! 止まりやがれェッ!」
猿田の攻撃が激しさを増すが、当たらない。
まるで、こちらの攻撃がどこに来るのか、最初から知っているかのような動きだ。
「……未来予知か」
俺は敵のスキル名を思い出した。『ブラック・ショールズ』。未来を予測して回避しているのか。
「うおおおおおおおお!」
焦れた猿田が、床ごと粉砕するような大振りの一撃を放った。
床の金属片が飛び散り、土煙が舞う。
ジュッ!
その隙をついて、ノードから赤いレーザーが発射された。
「ぐあぁぁぁっ!」
猿田の右肩が貫かれ、鮮血が舞う。黄金の鎧をも貫通する高出力レーザーだ。
「猿田君!」
ミキが悲鳴を上げて駆け寄ろうとする。
「危ない!」
ノードの黒い表面が赤く輝き、今度はミキに照準を合わせた。
「くっ!」
俺は全速力でミキの前に飛び出し、レーザーを身体で受け止めた。
ジュッ!
腕に焼けるような痛みが走る。
HPがごっそりと削られた。
「ヒサシ!」
「大丈夫だ……。攻撃力自体はたいしたことない。直撃さえ避ければ……」
レベル99相応の威力だ。即死はしない。
だが、避けられない攻撃を連発されれば、いずれジリ貧になる。
「だったら、これでどう!?」
ミコトが叫び、広範囲を焼き尽くす炎の魔法を放った。
回避不能の面制圧攻撃だ。
「ミコト! 後ろだ!」
俺の『知性100』の直感が警鐘を鳴らす。
ノードが消えた。いや、瞬間移動した!?
ミコトの背後に黒い影が現れる。
「くっ!」
ミコトは即座に反応し、炎の壁を展開して防御した。
レーザーが炎の壁に弾かれ、火花が散る。
「きゃあっ!」
衝撃でミコトが吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。
「ミコト! 大丈夫か!」
「……ダメージは軽微よ。でも、厄介ね。攻撃が当たらない上に、神出鬼没なんて」
このままでは全滅する。
物理も魔法も、全て「予知」されて回避される。
勝つためには、このカラクリを見破らなければならない。
ノードが再び俺の前に現れた。
無機質な黒い球体が、あざ笑うかのように明滅する。
次々と放たれるレーザーの雨。
「うわああああああ!」
「きゃあ!」
四人全員が被弾し、HPが半分以下まで削られた。
次の斉射が来れば終わりだ。
「くそおおおおおおお!」
追い詰められた猿田が、ヤケクソ気味に斧を振り回した。
「どうせ当たらねぇなら、滅茶苦茶にやってやる!」
狙いも定めず、四方八方へ斧を叩きつける。壁、床、天井。
「お、おい! 猿田! 落ち着け!」
俺が止めようとした時、違和感を覚えた。
「……あれ?」
ノードの動きがおかしい。
猿田のデタラメな攻撃に対し、過剰に反応して避けている。
自分に向かっていない攻撃でさえ、まるで「何か」を庇うかのように動いている。
猿田が何もない空間を斧で薙ぎ払った時、ノードは焦ったように割り込んで、レーザーで斧を弾いた。
「わかったぞ……」
俺の中でパズルが組み上がった。
「ミキ! ミコトの炎の能力を、俺にくれ!」
「は、はい!」
俺の意図を察したミキが、即座にコネクトを発動する。
「よし!」
俺は炎を纏うと、ノード本体ではなく、部屋の隅にある「何もない空間」に向けて突撃した。
「そこだァッ!」
ドォォォォン!!
何もないはずの空間に拳を叩き込むと、ガラスが割れるような音と共に、光学迷彩が解けた。
そこには、複雑な機械装置が鎮座していた。
同時に、今まで俺たちを攻撃していた黒い球体『ノード』が、フッと掻き消えた。
「どういうことなの?」
ミコトが目を丸くしている。
「あの黒い球体は、ただの立体映像だったんだ。本体はこっちの装置だ」
「なるほど……。猿田の攻撃を避けていたんじゃなくて、自分の本体に流れ弾が当たらないように誘導していたのね」
俺の解説に、猿田が得意げに鼻を鳴らして割り込んできた。
「へっ、オレ様も最初から気づいてたぜ? だからあえて、滅茶苦茶な攻撃をして炙り出してやったんだよ!」
「はいはい、すごいですねー(棒)」
ミコトの冷ややかなツッコミに、俺とミキは思わず吹き出した。
その時。
ビビビッ……!
「みんな気をつけて!」
ミキが叫ぶ。
破壊された装置から火花が散り、周囲の景色がノイズのように歪み始めた。
銀色の壁が剥がれ落ち、空が見え、海が見え……そして崩壊していく。
まるで、壊れたテレビ画面のように世界が乱れていく。




