第89話 怪しき会話
今回も舞奈視点です。
「――が――」
「――を使えば――」
うちの学校の司書さんだという方と、やつれた雰囲気の女性の方が何かを話していますが、声が小さく上手く聞き取れません。
「うーん……。良く聞こえないわね……もう少し近づきましょ」
「え? これ以上近づいたら、さすがに見つかるような気がしますが……」
「隠形の符術を使うわ。魔法の練習にもなるかと思って、昨晩、作ったのよ」
「そ、そんなもの作っていたんですか? 全然気づきませんでした……」
「まあ、寝ていたしね。――それよりもっと私に張り付いて。隠形の有効な範囲が狭いのよ」
そんな事を言いながら呪符を取り出すかりんに対し、
「わかりました」
と言いながらかりんに張り付く私。
すると、かりんが「――急々如律令」と小声で発します。
あ、陰陽師の物語とかで見た事――聞いた事ありますね、この言葉。
「……何か変わった感じはしないのですが……」
「透真の魔法じゃないんだからこんなものよ。隠形はしっかり発揮されているから、このまま近づくわよ。ただし……あまり大きな音を立てると駄目だから、そーっと、ゆっくりと……ね」
ため息交じりにそう返してきたかりんを信じ、その言葉に従うようにして、ゆっくりと近づいていきます。
そして……
「――とまあ、そんな感じですね。使いすぎると身体に異常をきたしてしまうので、注意してください」
という司書さんの声が聞こえてきた所で停止。
「絶対に離れないようにね」
ハンガーに掛けられた状態で並べられている服を、壁にするようにしつつ身を屈めて隠れながら、小声でそう言ってくるかりんに静かに頷いて返す私。
この掛けられている服の向こう側に司書さんたちがおり、本当にギリギリです。
これ以上近づこうとしたら、並べられている服の下に潜り込むとかですが……さすがに怪しい人すぎて、店員の方に見られたら色々な意味でまずいというものです。
「何か質問があれば受け付けますが……?」
「……いいえ、特にないわ。それより早くモノを見せて」
司書さんの問いかけに女性がそう返すと、司書さんは手にしていた黒い鞄に手を突っ込み、奇妙な木箱を取り出しました。
……なんでしょうね……。間違っても指輪ケースではありませんし……
クスリの類……にしては、ちょっと仰々しすぎる気がしますし……
「開けますね」
司書さんがそう言いながら、女性に対して入っている物が見えるように木箱を開けてみせます。
「っ!?」
隣のかりんが、口から声が出そうになったのを慌てて抑えるかのように、口に手を当てました。
見ると、表情が驚愕に満ちています。……どうしたのでしょう?
「どうかしたのですか?」
そう問いかけた私に対して、
「急に魂の欠片の存在を感じたのよ。……しかもあの木箱から……」
と、そんな風に返してくるかりん。
……え?
一旦、透真視点にするか、舞奈視点を続けるかちょっと悩み中です……
それと……前回、今回以降は元のペースに戻ると書いたのですが、諸々あって多方面で遅れが発生している関係で、申し訳ありませんが前回から今回ほどではないものの、次の更新も少し間が空きそうです。
というわけで、現時点での予定になりますが……次の更新は10月24日(日)を考えています。




