第8話 審議中……そして、体育が終わって
「投げ入れたら駄目だったのか……?」
「……どうなんだろうな?」
近くにいた茶髪の男子生徒――教室では見かけなかったので、隣のクラスの生徒だろう――に尋ねてみるも、問いに問いで返されてしまった。
「サッカーボールをぶん投げて向こうのゴールまで届かせるとかどんなパワーだよ……っ!?」
なんて事を言ってくる雅樹に対し、肩をすくめてみせる俺。
「そう言われても……届いてしまったのだからしょうがないだろう。――それより、今のはオッケーなのか? アウトなのか?」
俺は雅樹と近くにやってきた紘都にそう問いかけると、ふたりは考え込みながら言う。
「う、うーん……どうだろう? 相手のゴールにキーパーがボールを投げ入れるなんて話、今まで聞いた事も見た事もないからちょっと判断が難しいね……」
「そうだな……ぶっちゃけ、ボールをゴールに投げ入れようなんて考える奴が、まずいないしな。普通に考えて届かねぇし」
さすがにどうするべきかの判断が難しすぎたのか、体育教師を交えて、円陣を組んでの話し合いが開始された。
なるほど、これがいわゆる『審議中』という奴か。
なんて事を思いつつ少し離れた所で待っていると、すぐに結論が出たようで、
「ありなしで言ったらありな気はするが……一方的に長距離からの攻撃が出来るのはさすがにどうかと思うから、ここは『なし』としておくとしよう」
と、体育教師が告げてきた。むう……残念。
とはいえ、ゴールに向かって投げなければ良いようなので、いい感じの場所にいる味方に向かって投げていくとしよう。
◆
「結局、相手に1点も取らせねぇとはな」
「しかも、キャッチしたボールもかなり的確にパスしてくるから、凄く相手のゴールを狙いやすかったよね。最後の方とか、みんな相手ゴール付近に固まってたし」
「だってなぁ……相手が全員でかかっても1点も入れられないんだぜ? ディフェンスは『もう全部あいつひとりでいいんじゃないかな?』状態だったじゃねぇか」
「たしかにそうだね……。ゴールに投げ入れるのも『あり』にしていたら、きっと無双していたよね」
体育の授業が終わった後、昇降口横の更衣室で制服に着替えながら、雅樹と紘都がそんな風に言ってくる。……あれって、ルール的にありだったんだろうか……? まあいいけど。
さてこのふたり、妙に親しげな感じだと思っていたが、どうやら幼馴染で親友らしい。
だから、意思疎通が他の面々より優れていたんだな。以心伝心という奴だろう。
「でも、ゴールに投げ入れるのは、いわば奇策、奇計の類だ。さすがに何度もあの距離から投げていたら、普通に妨害されると思うんだが……」
「……いや、あの速度のボールに突っ込んでいける勇気のある奴は、そうそう居ないと思うぞ……」
「うん。僕もあんなのが飛んできたら、普通に逃げる自信があるよ。だってあれ、ネットをぶち破っていたし」
俺の言葉にふたりがそんな風に返してくる。
そして周囲の面々も、ふたりに同意するように首を縦に振った。
……なるほど。あの網――ネットをぶち破る程の強さで投げるのは、やはり駄目だったのか。
もしかしたら、ゴールに投げ入れるのが『なし』になった理由に、それもあったのかもしれないな。
次に機会があったら、もう少し弱くするとしよう。
なんて反省点を心の中で呟きながら、着替えを終えた俺は、雅樹や紘都と共に廊下へと出た。
と、その直後、
「紘都ー! そっちも終わった所?」
という女子生徒の声が聞こえてくる。
声のした方へと顔を向けてみると、肩の辺りで切りそろえられた――ただし、左右1房ずつ少し長い――ボブカットの快活そうな少女がこちらに走ってくる所だった。……誰だ?
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本日の更新は、まだ続きます!
※追記
2022/12/11
最後に登場した少女の挿絵(イメージ絵)を追加しました。
AIをベースに色々と修正して作成しています。
制服が2ボタンと3ボタンで2バージョンあって、両方アップされていたりするのですが、最終的に2ボタンの方にしました。