第75話 それぞれのセンス
「それにしても、透真は思った以上に組み合わせがしっかりしていて、それなりに映えるわね」
「そうか? なら、ファッションセンスという物を正しく理解出来ているって事だな。一安心だ」
「理解出来ている? 一安心? どういう事?」
意図が分からず不思議そうな表情を見せるかりんに対し、
「まあなんだ? 昔の俺はセンスがグダグダだったって事さ」
と、腕を組みながら答え、首を横に振る俺。
そもそも……向こうの世界じゃ、ファッションがどうこう言えるのは王侯貴族と大商人くらいだったし、魔族との戦が激しくなってきてからは、その王侯貴族や大商人ですら、それどころじゃなかったからな。
着る服は防御性能の高さが最重要であり、見た目は二の次……いや、三の次と言っても過言ではないくらいだったし。
とまあ……そんな思考の俺だったが、さすがに桜満から突っ込まれ、あれこれ教えられてからは、一応それなりに見た目にも注意を払うようにしている。
ま、郷に入りては郷に従えという奴だな。
っと、それはさておき……かりんの方はと言うと、ロングのワンピースの下にロングスカートというシンプルな服装だ。
ショッピング向きのカジュアルな服装、といった感じで、少なくとも舞奈に漂っている何とも言えない感はない。
なお、かりんのこの服は、誰かの服を借りた物とかではなく、学校の家庭科室――と言いつつ、基本的に裁縫の授業でしか使わない――にあった、授業で使われる事のないまま10年以上放置されていた……というか、完全に忘れ去られていた生地と、授業で使われた物の余りを拝借して、家庭科室にあった本を見て自分で作った物らしい。……なんというか、器用だな。
ちなみに、舞奈の服も作ろうかと思ったものの、さすがに使われる事のないまま10年も放置されてそのまま忘れ去られた、なんていう生地がそうそうあるわけもなく、諦めたそうだ。
「ん? ……もしかして、制服も自分で作ったのか?」
「ああ、あれは廃棄処分にされる所だった物を掻っ攫ったのよ。なんで廃棄処分にされる所だったのかは知らないけど、処分されるくらいなら、私が着ても構わないじゃない? それに、制服がないと行動しづらかったし? だって、霊体として現世に復活した時は、昔着ていた巫女装束だけだったんだもの」
俺の問いかけにそんな風に言ってくるかりん。
「えっと……その巫女装束は、一体どこから出てきたんですか?」
「……さあ? 気づいたら普通に着ていたわ。良くわからないけど、復元されたかなにかじゃないかしらね? まあ、素っ裸で放り出されるなんて事態にはならなくてよかったわ」
もっともな疑問を口にした舞奈に対し、かりんが肩をすくめながらそう答える。
そしてそのまま、
「そういうわけで、服は大事なのよ! いいわね!」
なんて事を舞奈に向かって、勢いよく言い放つかりん。
なにが『そういうわけで』なのか良くわからないが、敢えて突っ込むまい。
「え? あ、はい? それはまあ、全裸では困りますが、そのような事態になるほど、私は服を持っていないわけではありませんが……」
「そういう問題じゃないのよ! 場に『合わなさすぎる』格好をしているのは、素っ裸……とまでは言わないけど、そこそこ恥ずかしい状態だって言いたいのよ! 私は!」
そうかりんに言われた舞奈が、自分の格好を見回した後、
「……そんなに変ですかね?」
と、俺の方に問いかけてきた。
「……近所のコンビニに買い物に行くくらいなら別にいいんじゃないか?」
「……それはつまり、ショッピングセンターに出掛けるのに着るようなものではない……と?」
曖昧に答えたのに、そんな風に的確に認識してくる舞奈。……そこで分析能力を発揮しなくてもいいものを……
「まあ……なんだ? ショッピングセンターと言っても近場だし、コンビニとあまり大差はないんじゃないかな……うん」
一応フォローするように、そんな事を言う俺。
「……え、えーっと……その……。そ、そのフォローをされると、逆に心に刺さるというか……その……き、急にちょっと恥ずかしくなってきました……。い、急いで服を買いに行きましょう!」
なんて事を顔を赤らめて言ってくる舞奈に対し、俺とかりんは顔を見合わせ、互いにやれやれと肩をすくめた。
そんなわけで、次の話は舞奈の着せ替えです(何)
そして、その次の話ですが……明後日、水曜日の更新予定です!




