第7話 ウィンドハンドシュート
「透真……お前、ドリブルが壊滅的に下手だな……」
呆れた声でそう言ってくる雅樹。
陣営――チームはランダムに組んでいる為、今は隣のクラスの雅樹も味方である。
ちなみに、最初こそ名字で呼ばれていたが、あっという間に名前で呼ばれるようになった。
うーん……名字の成伯ではなく、透真と呼ばれる方がやっぱりなんかしっくりくるな。
にしても……なんだかんだとさりげない感じで話かけて来て、俺が孤立する事や、俺への質問攻めを防いでくれるので、やはりこの雅樹という男は見た目に反して良い奴だ。
ついでに言えば、相手との距離を詰めるのも上手いと言えるだろう。
なんて事を思いながら、俺は雅樹に告げる。
「今までやった事ないんだよ……」
「マジかよ!」
「手でぶん投げたら駄目なのか?」
「それはキーパーがやりたいって事か? まあ試してみるのはありだよな」
雅樹は俺の言葉をそう解釈したらしく、他の仲間たちに、
「つーわけなんだが……どうだ?」
と、問いかけた。
仲間たちは特に異論がないようだったのと、キーパーの守谷紘都――やや小柄でメガネをかけたクラスメイトが、
「うん、賛成だね。なんとなくだけど……透真はキーパーに向いているんじゃないかなって僕は思うんだ」
と言ったのが大きかった。
紘都はその体格に似合わず、身体能力はかなり高い。
というか俺の感覚では、何らかの射撃系武器の技量も結構な物であるように思える。
対象を捉える時の目の動きが、射手のそれに近いからな。
そういう意味でも、この球技において番兵――最後の砦的な立ち位置であるキーパーには、うってつけといえよう。
そんな紘都が賛成したのだから……という事もあり、あっさりと俺はキーパーに変更となった。
さて、キーパーといえば、自陣のゴール付近であれば、敵が蹴ってきたボールを手で受け止める事が出来る存在だ。
更にそこから6秒間手で持ち続ける事が可能で、投げる事まで出来るという唯一無二の特性を有する。
――これを最大限活用しない手はないな。
という事で……早速飛んできたボールを、腕力増強魔法と頑強性付与魔法で強化した手で受け止め、仲間の方へと放り投げていく。
うん、やっぱり蹴りながら走るのと違って断然楽だな。
……というか、これって、敵のゴールに向かって投げたら駄目なんだろうか?
ちょっと試してみるか。良い感じに接近してきた敵がいるし。
そう思って構えていると、すぐに接近してきた敵が俺の妨害を躱すようにして動き、俺の横をすりぬけた瞬間、勢いよくボールを蹴った。
やるな……っ! だが、まだだっ!
俺は即座に加速魔法を発動させ、超高速でボールの前へと回り込み、キャッチ。
「あれを止めるのかよ!? つーか、なんだよ今の速さは!?」
蹴った男子生徒――今は敵となっているクラスメイトが驚きの声を上げる。
「ナイスッ! ボールをこっちに回してくれ!」
雅樹がそんな風に言ってくるが、俺は、
「いや、このまま放り込む!」
と、伝えた。
「は? 放り込む? どこへ?」
俺の言葉の意図が理解出来なかったのか、首を傾げながら問いかけてくる雅樹。
だが、それには答えずボールを放り投げる俺。
そしてそれを風魔法の風圧を利用して勢いよく押し出す。
直後、放り投げたボールが強力な風圧によって弾かれるようにして超加速。
敵陣を駆け抜け、そのまま相手のゴールに突き刺さった。
というか勢い余って網が破けた。……あ、しまった。
うっかり破いてしまった事に対しどうしたものかと思っていると、
『はあああぁぁぁぁぁっ!?』
という、その場にいた全員が、上げた素っ頓狂な声が響き渡った。
やはり、破いたのはまずかったのだろうか?
それとも、蹴り入れないと駄目だったのだろうか?
本日も更新が続きます。