第69話 舞奈の年上たち
――さて、肝心の出来上がった料理だが……
「このキッシュという食べ物、凄くおいしいわね。こういうのを食べた事がないから、まさに未知の味だけれど……凄くおいしいわ」
「はい。それと……スパゲッティにパンくずを混ぜると、こういう感じになるんですね。新しい味を知った気分です。分析不可能なおいしさです」
などと、ふたりとも語彙力が著しく低下したかのように、おいしいとしか言わなくなってしまった。
かりんに至っては、一度の発言で2回も言っている。
まあ、本当にウマい物を食った時は、ウマいとしか言えなくなるのは俺も経験があるので、そういう事なのだろう。多分。
なんにせよ……おいしいと言われて悪い気はしないし、喜んで貰えて一安心といった所だ。
「分析といえば……月城は、他人に話しかけるのがどうも苦手だ……と、先日、自身を分析して話していたが……俺やかりんには普通に話しかけているよな。――というか、俺には自転車に乗らないかと声までかけてきたし」
食べながら、ふと疑問に思った事を問いかける俺。
「あ、えっと……それは父のせいといいますかお陰といいますか……。編入生――つまり、成伯さんをを調べろと言われた事で、逆に気負いなく話しかけられた感じですね。……もっとも、まさか土手の道で出くわすとは思いませんでしたが」
と、そんな風に言った。
「つまり……あれは俺だったから声をかけた、と?」
「ええまあ……そういう事ですね。あそこで接触しておくと良いと判断しましたので」
俺の問いにややバツが悪そうに答える舞奈。
でも、冷静になって考えてみると、たしかにあの状況で声をかけてくる人って、そうそういないよなぁ……
だが、それにしても――
「良く後ろ姿だけでわかったな」
「父から送られてきた資料と写真でバッチリ記憶していましたからね。後ろ姿だけでも問題なく判別出来ました」
「ああ、なるほど……」
いつの間にそんなものを……?
月城という家が厄介だというのが、本当に良く分かるな。
なんて事を思っていると、
「でも、成伯さんって、なんというか……かなり歳上な感じの雰囲気があるというか……落ち着いている感じがあるので、あまり同世代って感じがしないんですよね」
と、舞奈がサラッとそんな事を言ってくる。
まあたしかに、何の因果が若返った事で肉体的な年齢は舞奈と変わらない状態が、実際の年齢はかなり舞奈よりも上だしなぁ……
だが、無自覚にそれを感じ取るとは恐れ入る。やはり月城の血……という事なのだろうか。
「そしてそれは、かりんさんからも感じます」
「そりゃまあ……私は生まれた時から数えたら、既に数百歳って所だし、圧倒的に年上よね」
そんな風に冗談めいた口調で言うかりん。
うーん……でも、封印状態が解除されて、霊体状態で学校にいた年月を考えると、俺と同様、外見はともかく中身の年齢は、舞奈よりも上だと言って良いのは間違いないよなぁ。
この3人だと、舞奈だけ突出して若いんですよね(何)
さて、そんな所でまた次回! 次の更新は明後日、金曜日を予定しています!




