第64話 買うべき物と分析
「分析して状況を想像って……。何なのよ、その無駄に高度な笑い方……」
俺と同じ事を思ったらしいかりんが、やれやれと言わんばかりに首を横に振ってため息をつく。
「い、いえ、その、別に高度な笑い方をしたかったわけでは……。――あ、そ、そういえば分析といえば……生クリームを先程カゴに入れていましたが、ケーキでも作るのですか?」
舞奈がそんな言葉を紡いでくる。
話の流れを強引に変えてきた感じがとてもするが、まあ疑問に思うのも分かるので、
「いや、これもキッシュの材料だ」
と、返事をする俺。
「え? そうなんですか? 生クリームを使うなんて、ちょっと驚きです」
「まあ、生クリームを使うのは、ケーキとかの洋菓子が多いしな。……ああ、ついでだケーキではないが、食後のデザート用の材料も買っておくか」
俺はそんな風に言いながら、目当ての物がある棚へと向かう。
「何を作るつもりなのかしら?」
と、問いかけてくるかりんに、敢えて正解を言わずに答える。
「材料から予想してみたらいいんじゃないか?」
「うーん……西洋の料理はさっぱりだから、材料だけじゃ全然わからないわね。舞奈、得意の分析能力で見破ってくれないかしら?」
「……えっと……その、すいません、私は料理そのものがさっぱりなので、材料を見ても何に使う物で、何を作ろうとしているのか、何一つ分析出来ません……」
かりんの問いかけにそう答える舞奈。
……なるほど、知識がないと分析出来ないケースもあるのか。
「……どうしょうもないわね……」
と、呆れるかりんに、
「で、でもですね! その代わり、隣りの棚にあるカップ麺の新商品なら分析出来ますよ! これが美味しいと思います!」
「と言いながら、何故カゴにそれを入れようとするんだ……?」
さも当然だと言わんばかりに、カゴにカップ麺を入れてくる舞奈に対し、俺は疑問の言葉を投げかける。というか、投げかけずにはいられない。
「え? 何かの時に使うかもしれませんし、保存もききますので、買っておいて損はないと思いますよ?」
う、うーん……。そう言われるとそうかもしれないが……
「まあ……たしかにそうだな。今はひとつもないし、少しくらいあってもいいか。――他に良さそうなのがあれば、幾つか選んでくれないか?」
「はい! 美味しいのを選びますね!」
俺の言葉に勢いの良い声で答えるなり、棚を物色し始める舞奈。
そして、
「これと、これと……それから、これに、これに、これ……」
なんて事を言いながら、カップ麺をカゴに投下していく。
投下していく。投下していく。投下し――
……って! どんだけ投下する気だよ!?
「待て待て待てっ! もう十分だっ!」
と、慌てて舞奈を静止する俺。
「あれ? もういいんですか? でしたら、残りはウチ用に――」
「――は、いらないわよ? どれだけあると思っているのかしらぁ?」
かりんが舞奈の言葉を途中で遮り、ため息混じりにそんな問いの言葉を口にする。
……ちょっと怒りも混じっている……か?
「さ、30個くらい……でしたっけ?」
「87個よ、87個! 買うのはちゃんと全部食べ終えてからにしなさい!」
舞奈の回答に対し、怒りと呆れの入り混じったような、そんな表情と言葉で正すかりん。
いや、87個って……。そんなにあったのか……
「で、ですが、定番の品以外はすぐに消えてしまう事があるので、出ている時に買っておかないと――」
なおも理由を述べて買おうとする舞奈に対し、
「――い・ら・な・い・わ・よ?」
という言葉と共に、顔の底に怒りをたたえた笑みを見せるかりん。
それを見た舞奈は、「ひぅっ」と短い悲鳴を静かに上げると、そそくさと棚にカップ麺を戻し始めるのだった……
カップ麺って、何故かお店で売られていない新商品があったりするんですよね……
ってな所で、また次回! 次の更新ですが……明日……と言いたかったのですが、諸事情により難しくなってしまった為、明後日、火曜日とさせていただきます!




