第63話 エレンリート
――そんなこんなで学校も終わり、一昨日、スーパーの裏手にあるまず人が来ないであろう木々の隙間のスペースに刻んでおいた印へと転移する俺たち。
「相変わらず便利な魔法よね」
「はい、本当にそう思います。……ちなみに、これって私は使えるようになったりするんですか?」
「無理だな」
「即答です!?」
驚きと残念さが入り混じった顔をする舞奈。
そんな顔をされても、無理なものは無理だしなぁ……
「必要とされる適性が足りていないからな。ただ……その適正の関係で、俺には使えない近距離の瞬間移動が、もっと魔法を習熟していけば使えるようになるはずだ」
スーパーの入口に向かって歩きながら、一応フォローするようにそう告げると、舞奈の顔が一転して希望に満ちた物になった。
一喜一憂という言葉があるが、あれは、まさにこれを指すのだろうな。
「そうなんですかっ! 近距離の瞬間移動というと……いわゆる『遅い!』と言って、相手の真後ろに移動する奴ですねっ!」
「別に真後ろに移動する必要はないと思うが……まあ、そういう感じの魔法だな」
そう答えながら、昔、近距離の瞬間移動魔法……エレンリートの使い手ふたり――男女それぞれ1人ずつ)が、同じ街にいた事で、ひょんな事から決闘をする事態になったのを思い出す俺。
あれって、互いに延々と相手の意表を突くような感じで瞬間移動魔法を使い続けた結果、一合も打ち合う事なく終わった事があったなぁ……と、そんな事をふと思い出す。
結局そのふたりは、最後は瞬間の移動しすぎで決闘場から大きく離れた湖に仲良くダイブするとかいうアホな事をしでかしたからな……
なんでそこでエレンリートを発動しなかったのかと聞いたら、ふたりそろって魔力が切れたとか言ってたし。
今考えるとあいつら、なんだかんだで似合いのカップルだったんじゃないかと思う。互いに素直じゃないだけで。
――てな事を考えていると、スーパーの中に入った所で、
「……なんで、急に『仲睦まじい夫婦漫才を見た』みたいな顔をしているのかしら?」
と、俺の方を見ながら、かりんが呆れた声でそんな風に問いかけてきた。
「ん? そんな顔してたか? っていうか、なんだそのピンポイントすぎる表現」
「妹と、その妹の恋人も同然だった鍛冶屋の息子が毎日繰り広げる、漫才じみたほのぼのとしたやりとりを眺める村の人たちの顔そっくりだったからよ」
「な、なる……ほど……?」
「で、なんでそんな表情を?」
改めて問いかけてくるかりんに対し、俺は今しがたふと思い出した話をする。
無論、異世界であるという事は言わずに、だが。
「――ふぅん、そういう事ね。凄く納得したわ」
そう言ってくるかりんの横で、舞奈が物凄く笑いを堪えている姿があった。
さすがに人の多いスーパーの中で大笑いするわけにはいかないからだろう。
っていうか、編入初日のホームルームの時も笑いを堪えてプルプルしてたな。
舞奈って、実は笑いの沸点が低いんじゃないだろうか。
そう思いながら、
「……そんなに面白かったのか?」
と問いかけると、どうにか落ち着いたらしい舞奈が、
「は、はい……。透真さんの話を分析して、その状況を想像したら、あまりにもおかしかったもので……」
なんて事を言ってきた。いや、分析って……
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