第6話 自己紹介と体育
「――てなわけで、皆、これからよろしく頼む」
これから共に学ぶ仲間――クラスメイトと言うんだったか?――に対し、自己紹介を終えた俺は、その締めの言葉と共に軽く頭を下げた。
直後、一斉に拍手が巻き起こる。
ふーむ……。これはとりあえず、掴みは成功したと考えて良いのだろうか?
この人数を相手に自己紹介をするのは初めてだから、いまいち良くわからんな……
「はいはい、質も――」
「質問は後でしろ。ホームルームが押しまくってんだ、このまま続けてたら一限目に食い込む」
手を上げた生徒の言葉に被せる形で、そんな風に告げる結城先生。
なるほど、普通はここで質疑応答の時間が設けられるのか。
「で、成伯の席だが……人数的にちょうど都合が良い一番うしろの廊下側に用意しておいた。――あそこだ」
結城先生は、そう言って廊下側の列の一番うしろにある席を指し示す。
人数的にちょうど都合が良いというのは、今現在、すべての列の席数が同じ事からもわかる。おそらく、俺が来る前は廊下側だけ1席少なかったのだろう。
……ん? 俺の隣りの席は舞奈なのか。
「わかりました」
俺はそう返事をしつつ、ふと『事前に仕入れてきた情報』との食い違いが気になり、
「――そういえば……こういう時って、空いている席に座るのが基本……なのではないんですか?」
と、ついでに問いかけてみる。
……次の瞬間、クラスメイトの半分が笑った。
そして、残りの半分は『わかる』みたいな顔をしている。
ちなみに舞奈はというと……机に顔を埋めてプルプルしている。おう……
……はて? これはどういう事だろうか?
などと思っていると、結城先生が呆れた声で告げてくる。
「おいおい、そいつはマンガかラノベの読みすぎだ。空いている席なんてモン、普通あるわけねぇだろ。なんで席を常時余計に用意しとくんだよ、邪魔にしかならねぇだろうが」
なんだと! まさかの全否定だと!?
……でもまあ……言われてみると、たしかにその通りだよなぁ……
ぐぬぅ、この俺がエセ情報に踊らされるとは……っ!
いやしかしそうなると、『事前に仕入れた情報』の中に誤っている物が他にもありそうだな……。少し気をつけるとしよう……
◆
休み時間の度に質問攻めにあい、なかなかに疲弊したが、どうにか午前中最後の授業――体育というものがやってきた。
運動をする授業らしいが……何をするのだろうか?
「今日はサッカーらしいぜ」
と、荒くれ者のような雰囲気を漂わせる強面な茶髪の男子生徒――隣のクラスの緋村雅樹という男子生徒がそんな風に言ってくる。
体育は2クラス合同で行う物らしく、隣のクラスの者たちにあれこれ質問されたが、この雅樹という人物が追い払ってくれた。見た目に反してなかなか良い奴だ。
そういえば向こうの世界に、こういう雰囲気の不良騎士がいたなぁ……
良い奴だったのに、上への注意を怠ったせいで、狼の魔物に頭からガブッと食われてしまったが。
……おっと、そんな追憶をしている場合じゃなかった。
事前に得ておいた知識からサッカーとやらについて考えてみるとしよう。
えーっと……たしか、ボールをドリブルという技法で足のみを使って運びつつ、敵陣の最深部へと切り込んでいき、網の張られた枠――ゴールに叩き込む球技……だったか?
……よくわからないが、これは敵陣突破訓練、あるいは攻城戦訓練……の代わりみたいな感じなのだろうか?
なんて事を思っているうちに教師の説明と準備体操が終わり、実際にサッカーとやらが開始される。
早速俺は、ドリブルという名の技法を試みてみたが……無理だった!
これは……どうやったら上手く蹴りながら前に進めるんだ……?
というか、どうして皆あんなに器用に出来るんだ……
寝ぼけて(いつもの癖で)予約投稿にしていた事に気付いたので、大分遅くなりましたが投稿しました!