第62話 料理の話
更新が遅くなりました……
「え? 調理器具……ですか?」
唐突なかりんの言葉に対し、きょとんとした顔で問い返す舞奈。
「だって、舞奈の部屋、調理器具がなさすぎて何も作れないじゃない! むしろ、今までどうしてたのよ……」
そう言ってため息をつくかりんに、
「え、えーっと……インスタントがいっぱいあるので、作った事がないというか……そもそも料理出来ないので、作る予定もないというか……」
なんて事を頬を掻きながら、バツが悪そうに言う舞奈。
しかし……いつの間にか舞奈の部屋に住み着いているな、かりん。
「はぁぁぁぁぁ……。まったくもってどうしょうもないわね……」
かりんは盛大にため息をつきながらそう呟くように言った後、俺の方を向いて続きの言葉を紡いでくる。
「ちなみに透真も同じ感じだったりするのかしら?」
「いや? 俺は普通に作れるぞ。昨日も一昨日も自分で作ったしな」
「あらそうなの? それはちょっと意外ね」
「……昔、色々あって作る必要があったんでな。ただまあ、作れるといっても料理人――その道のプロが作るようなレベルの物はさすがに無理だぞ」
かりんの方を見てそう答えると、肩をすくめてみせる俺。
「あ、そういえば……なんだかんだあって、成伯さんの料理、未だに食べる事が出来ていませんね」
「あー、たしかに作ってやるって話をしていたな。うーん……今日の夜、早速ウチに来るか?」
「是非!」
「いいわね」
俺の問いかけに舞奈とかりんが即答してくる。
……って、何かサラッとかりんまで便乗してきてるし……
まあもっとも、一人増えたくらいなら大した差じゃないし、別に構わんけど。
「んじゃ、学校が終わったらスーパーに寄って――というか転移して、食材を買い足すとするか。さすがに家に残っている分だけじゃ何も作れないし」
「ちなみに……何を作る予定なんですか?」
そう問いかけてくる舞奈に、俺はしばし思案を巡らせた後、向こうの世界で日常的に食べられている物にするのが良さそうだと考え、
「んー、簡単に作れるのがいいから、クィッチェ・ライネーロあたりかなぁ……」
と、答える。
「クィッチェ・ライネーロ……ですか?」
「ああ、そうか……。こっちでは名前が違うんだった……」
疑問符を浮かべる舞奈を見て、その事に気づく俺。
「えーっと……。……ああそうだ、キッシュだ」
「キッシュ?」
言い直した俺に、なおも首を傾げてくる舞奈。
横のかりんも同じく分からないようで、首を横に振ってみせる。
あ、あれ? 違ったか……?
俺は慌ててスマホを取り出して検索する。
こちらの世界には、こういう便利な代物があるのだから、最初からこうするべきだったな……。さすがに使い慣れていない俺でも、このくらいは出来るし。
なんて事を思いつつ、『キッシュ』と検索窓に入力し、出てきた画像の一覧を見る。
すると、俺の良く知っているクィッチェ・ライネーロに似た物が多数あった。
無論、完全に一致するわけではないが、そこは世界の違いもあるしな。
……それはそれとして、やっぱりあってるよなぁ。
って事は、普通に舞奈とかりんが知らないって感じか。
まあ……改めて考えてみると、この国では一般的な料理ではない気もするな。
とはいえ、この国ならではの料理――いわゆる和食と呼ばれる料理群は、俺には作れないので、そこはもう仕方がない。
「えーっと……。キッシュはフランス――西洋の料理だ」
「西洋……。さすがに向こうの料理までは知らないわね……。というより、初めて聞いたわ」
俺の説明にそう返してくるかりん。
そして、それに続くようにして、
「あ、なるほど……西洋料理ですか。魔法と言えば西洋なので納得です」
などと言ってくる舞奈。いや……その納得の仕方はどうなんだ……?
無論、言うまでもなく西洋の魔法――魔術と俺の魔法は別物だ。なにしろ、世界が違うしな。
ちなみに……だが、道具や儀式を必要するような大掛かりな物が多いのが、西洋――というか、この世界の術式の特徴だと言えるだろう。
まあ、何故そういう特徴があるのかについては、さっぱり分からないが……
そんな事を考えていると、
「実家では和食ばかりだった事もあって、私、西洋の料理って良く知らないんですよ。なので、どういう物なのか楽しみです」
「それは私も同じね。実に興味深いわ」
と、何やら凄く楽しみだというのが伝わってくる表情と声で、そんな風に言ってくる舞奈とかりん。
「あー……。さっきも言ったが、さすがにその道のプロが作るようなレベルの物は無理だから、そこまで期待しないでくれよ……?」
キッシュ、美味しいですよ!(何)
それはさておき、更新設定が明日の12時になっていた為、手動で更新しました……
遅くなってしまい、申し訳ありません……
そして次回の更新ですが……やはり1日空いて明後日、金曜日の予定です!
ちなみに『クイッチェ・ライネーロ』は、前半がキッシュをラテン語風に読んだ物で、後半がロレーヌ(今話で登場するキッシュは、ロレーヌ風キッシュというのが元です)のアルファベット順を入れ替えた造語でして、特にそれ以上の意味はないです。




