外伝I-III かりんとカフェ3
翌日……かりんは早速、璃紗によってカフェへと連行――じゃなくて、璃紗と共にカフェへと向か事になった。
「――というわけで、念の為に着いて来てくれるかしら?」
璃紗を伴ったかりんが、脈絡もなく唐突にそう言ってくる。
「なにが『というわけで』なのかさっぱりだが、まあ……店に行くだけならいいぞ」
舞奈を放っておくのもどうかと思ったが、回復を早める為に睡眠魔法を使っておいたので、夜までは目覚めないし、大丈夫だろう。
防犯に関しても、見知った人間以外が舞奈の部屋に侵入したりしようものなら、即座に拘束の魔法罠が発動して俺にそれが伝わるようにしてあるから、問題ないしな。
……
…………
………………
「――またのご来店をお待ちしております!」
俺は店から出ていくお客さんにそう声をかける。
……店に行くだけのつもりだったのだが、人手不足すぎてマズそうだったので、結局手伝う事にしてしまった。
これでも向こうの世界では、定期的に趣味と実益――情報収集を兼ねて、酒場の店員をしていた事があるので、ある意味慣れていたりする。
……たまに、酔っぱらいを魔法で寝かしたりしてたなぁ……
なんて事を思っていると、
「ごめんなさいねぇ。手伝わせちゃってぇ」
と、マスターが店の奥から顔を出しながらそんな風に言ってくる。
……ちなみに男だ。それも、魔法なしで両手持ちの大剣を始めとしたヘヴィウェポンを難なく振るう事が出来るであろう程に、ガチムチマッチョな人物だ。
向こうの世界でも何度か見かけた事があるが、こっちの世界ではたしか……オネェ……と言うんだったか?
まあそれはともかく……
「いえ、思った以上に忙しそうな感じですし、かりんがテンパって暴走しても困るのでお気になさらず」
と、俺はそんな風にマスターに返事をする。
「あの子、カフェで働くのは初めてだって言ってたけどぉ、そんな感じはしないくらい落ち着いているわねぇ。なんというか……人の前に出る事に慣れているような、そんな感じかしらねぇ」
「そうですか? まあ、昔は巫女をしていた事があるようなので、その辺りで慣れているのかもしれませんね」
「あー、なるほどねぇ。というか、慣れているという意味では、貴方もこう……熟れているわよねぇ」
「まあ……俺も以前は、酒……も出す飲食店で働いていた事があるので」
酒場と言うのは、ちょっとマズイかもしれないと思い、そんな風に答える。
「そういう事なのねぇ。納得だわぁ」
「ところで……カフェっていう話でしたけど、大分変わっていますよね、ここ」
何やら『分かっています』みたいな表情をされたので、とりあえず話題を変えてみる事にする俺。
「だって、普通のカフェをやっても面白くないじゃなぁい?」
「それはまあそうですが……なぜにホーンテッドカフェなんです?」
俺はマスターの言葉に対してそう返しつつ、周囲を見回す。
そう……。ここは『ホーンテッドカフェ』といって、簡単に言えば幽霊屋敷を模したカフェなのである。
「メイドが流行るなら、冥土も流行るんじゃないかと思ったのよぉ」
なんて事を言ってくるマスター。
……ギャグ……なのか? ギャグで始めた……のか……?
う、うーん……どう返事をすればいいのやら……
「ぎゃあぁぁぁあぁあぁぁあぁっ!」
悩む俺の耳に、唐突にそんな男性の悲鳴が届く。……何だ?
「……マスター、このカフェはお客さんを驚かすサービスもあるんですか?」
「さすがに、そんなサービスはないわよぉ? たまに私を見て勝手に驚く人はいるけどねぇ」
俺の問いかけに対して、そんな事を言って苦笑するマスター。
……うんまあ、それは分からんでもない……な?
などと思っていると、物凄い勢いで男性――いや、男子生徒が走ってきて、店から出ていった。今の……ウチのクラスの男子だな。
「って、会計!」
――食い逃げ!? もしや、例の厄介な客というのが今のなのか!?
そんな風に考え、足痕追尾の印を刻んで追いかけようとした所で、
「ちょっと待ってくださいー! 財布を置いていかれても困りますー!」
なんていうかりんの声が聞こえてきた。
……財布を置いていった? どういう事だ?
と、余計に訳が分からずに困惑し、顔を見合わせる俺とマスターだった――
幽霊喫茶で働く霊体……なんともな感じですね(何)




