外伝I-II かりんとカフェ2
「――というわけで、続編にも大期待ですよね!」
「ええ。必ず手に入れないと駄目よね!」
しばらく延々と物語の話をしていたふたりだったが、どうやら一段落ついたようだ。
「……あ、ごめんなさい。つい興が乗ってしまったわ……」
「私の方もすいません……」
かりんと璃紗が、俺の存在を思い出したのか、俺の方を見てそんな風に謝ってくる。
「……いや、あれが凄く好きだという事が良く分かる会話だったし、個人的にも面白かったから気にしなくていいぞ」
そう俺が返事をすると、その言葉の意味が分からないであろうふたりが、不思議そうな顔をする。
……その増魚っていうの、桜満の事なんだよなぁ……
オウマをひっくり返してマウオ――『麻雨緒』っていう捻りのなさだったりする。
だが……それを話すと、なんだかとてもとても大変な事になりそうな気がしたので、口にするのは止めておいた。
「それより……それを買いに来たのはいいが、肝心の本を買う金はあるのか?」
ふと、かりんって金を持っていただろうか? と思い、そう問いかける。
「え……?」
俺に問われたかりんが、それだけ発するとそのまま硬直した。
……これは持っていないな……
「そ、そう言えば、すっかり忘れていたわ……」
「なんで忘れるんだよ……。まあ、貸してもいいが……」
かりんに対して呆れた声でそう言うと、
「か、借りても返す手段が……」
なんて事を言ってくる。
ああ、まあ……たしかにそうだな……
「あ、えっと……そ、その……それでしたら私の代わり……というわけではないですが、少しだけカフェでアルバイトしてみませんか?」
俺とかりんの会話を聞いてた璃紗が、頬を掻きながら急にそんな提案をしてきた。
「カフェ……?」
唐突な提案にどう反応すればいいのか分からずに、それだけ呟いて目をパチクリさせるだけのかりん。
そんなかりんに対し、
「その……。実は最近、厄介なお客さんが来る事もあって、バイトの子が減っていて……私の代わりにシフトに入れそうな人がいない状況で、マスターがどうしようか悩んでいたので、どうにか出来ないかなと思っていたんですよ……」
と説明をする璃紗。
「なる……ほど? でも、カフェの店員なんてやった事ないわよ? 私」
「そんなに難しいものでもないので、大丈夫だと思いますよ」
かりんに対して、璃紗が両手をギュッと握ってそんな風に言う。
……随分と必死な感じだが……親戚であるマスターに迷惑をかけるのが忍びないとかそんな理由なんだろうか……?
それとも、暗に厄介な客とやらをどうにかして欲しいと思っているとか? ……いや、それは考えすぎか。
「わ、分かったわ。上手く出来るかどうか分からないけど……それでいいなら、時間に余裕のある時に働いてもいいわよ」
若干押されるような感じで承諾するかりん。
時間に余裕のない時ってあるのか……? と思ったが、敢えてツッコミはしない。
かりんからの色好い返事――と言っていいのかは微妙だが――を聞けた璃紗は、
「本当ですか! ありがとうございます! すぐにマスターに連絡しますね!」
なんて事を捲し立てるかの如く口にするなり、すぐにスマホを取り出して連絡を取り始めた。
「……な、なんだか思いがけない事態になったわ……」
「そうだな……。まあ、霊体だという事がバレないようにな……」
「ええ、気をつけるわ。……っと、その前に本よ! 返す算段はついたから、お金貸して!」
俺に対して頷きながら、そんな風に言ってくるかりん。
「……『金が入る算段』じゃなくて『返す算段』なのか……」
「だ、だって、すぐに読みたいじゃない……! 目の前でおあずけなんて嫌だし……」
「うんまあ、その気持ちは分からなくもないけどな……」
呆れ気味にそう口にしつつ、財布を開ける俺。
それにしても……だ。
舞奈の看病を大分任せてしまっている事もあるし、貸すんじゃなくて代わりに買ってやろうかとも思っていたが、なにやら思わぬ方向に話が転がったものだ。
だがまあ……かりんに少しでも現代での経験をさせつつ、金を少しでも持っているようにした方が良いってのもあるし、このまま見守るとしよう。
……決して面白そうだからというわけじゃないぞ、うん。
外伝2話目です。




