外伝I-I かりんとカフェ1
外伝というか日常の挿話といったイメージです。
非日常の話が進むにつれて日常のギャグっぽい話が一時的に減る事もあり、定期的に追加していく予定です。
「――ここが書店!? 随分と広いわね!?」
隣駅の繁華街にある、多層構造の書店へとやってきた所で、驚きの声を上げるかりん。
ちなみに舞奈は魔法の使いすぎによる、二日酔いを酷くしたような症状で寝込んでいる為、ここにはいない。
しかし……時間的に人が少ないとはいえ、人通りが多いのであまり叫ばないで欲しいものだ……と、心の中で呟いていると、
「……あれ? 成伯先輩?」
という声が聞こえてきた? うん?
「って、千堂部長の――」
「はい、妹の璃紗です。先日は気絶していた所を運んでいただいたようで……ありがとうございます」
俺の言葉を引き継ぐようにしてそんな風に言ってくる璃紗。
「――今日は検査じゃなかったのか?」
「あ、はい。ここへはその帰りに立ち寄った感じですね。この近くに親戚がマスターをしているカフェがあって、私はそこでアルバイトをしているんですが……検査の時に1週間くらいは念の為に安静にしておくように言われてしまったので、1週間シフトに入れない事を伝えに来たんです」
「なるほど……。でも、電話とかで良かったんじゃ?」
「いえ、気絶した事を伝えたら、凄く心配されてしまって……一度顔を見せて大丈夫である事を直接伝えた方が良いかなと思いまして」
「ここまで来たという事は身体の方はもう大丈夫な感じか?」
「そうですね……。少しだけ違和感はありますが、問題はないですね」
「違和感?」
「なんというか……若干、弓を引く時の力加減や狙いといったものが、前と違うというか……」
「い……気絶した事で、神経に少し影響が出ている……のか?」
異形化と言いそうになって、慌てて言い直す俺。
幸い、不自然には思われなかったようで、
「そうですね……。検査では問題なかったのですが、一時的に神経系が軽微な麻痺状態になっているのかもしれない……と、そのように言われました。もっとも、徐々に解消されるはずだとも言っていたので、あまり気にはしていませんが……」
と、そんな風に言ってくる璃紗。
うーん……。異形から元に戻った人間でそういった症状が出た者は、過去にいないから少し気にはなるが……ま、検査で問題なかったのなら大丈夫だろう。
そう考えていると、璃紗が横に立つかりんの方へと顔を向け、
「えっと……そちらは?」
と、問いかけてきた。
「あ、私はかりんよ。舞奈の家を間借りしているような感じかしらね」
俺が答えるよりも先に、自らそう説明するかりん。
その説明で良いのだろうか……と思うも、
「そうなのですか。随分と本屋を見て驚いていましたが、ここへ来たのは初めてなんですか?」
と、あっさりと納得する璃紗。
……まあ、本人が納得したのなら別にいいか……
「ええ。私がかつて――前に住んでいた所には、こんな大きな書店はなかったわ。というか、貴方は逆に良く来るの?」
舞奈が返事をしながら璃紗へと問う。
それに対し、璃紗は顎に手を当てながら答える。
「良く来る……という程ではありませんね。大体は家の近くの本屋で十分ですし。ただ……ちょっとマイナーなものになると売られていないので、こうして買いに来る感じです。ここなら、ほぼ確実にありますし」
「そうそう、そうなのよ。学校の図書室に置かれていた麻雨緒先生の書いた本の続編が出たんだけど、近くの書店になかったのよねぇ……。当然、図書室にはまだないし……。世間一般的にはまだマイナーなのがいけないのかしら……。面白いのに」
なんて事を言うかりん。
「あ、麻雨緒先生の本ですか! たしかにマイナーですけど、私も凄い好きですよ! 先生がまだ同人作家だった時に書いた物も持っていますし!」
同志に出会えた喜びに感謝……と言わんばかりの良い笑顔で、璃紗がかりんに向かってそんな風に返す。
「同人作家だった時に書いた物!? そんな物あるの!? いいわねぇ……私も読んでみたいわ!」
「でしたら、お貸ししますよ!」
「えっ、いいの!? 感謝するわ!」
「ちなみに、本になっている本編は全部読み終わっているんですよね? 黒騎士アルディアスの前日談的な所があるので、先に読むと大変な事になりますが……」
「大丈夫! 全部読み終わっているわ! それにしても、黒騎士の話とかより興味深いわね。というか、その感じだとあの意味深なセリフの意味が――」
……な、なんだかハイテンションな感じで盛り上がり始めたな……
うーん……これはしばらく時間がかかりそうだなぁ……と思いながら、心の中でやれやれとため息をつく俺だった。
思ったよりも長くなりました……




