第5話 校舎の4階と5階
……というわけで、文字通り軽く学校の説明をされた後、随分な数の教本――こちらでは、教科書というんだったか――を手渡された。
魔法収納空間に放り込みたい衝動に駆られたが、さすがにそれをやるとマズいので、鞄から取り出した紙袋に全部入れた。
何かの時の為にと思って持ってきておいて正解だったな。
――つっても、後でこっそり全部魔法収納空間に放り込むけどな! 重いし!
「よーし、そんじゃあそろそろ教室の方へ移動するぞ」
そう言ってきた結城先生に続き、職員室を出て教室へと向かう俺。
……と、その途中で、ふと妙な『気配』を感じ、そちらへと視線を向ける。
すると、廊下の窓から校舎の別棟が見えた。……向こうに誰か居たのだろうか。
というか、何故4階と5階の電気が消えているんだ?
「ん? 向こう側の校舎に何か気になるものでもあったのか?」
「え? あ、はい。4階から上の電気が点いていないのが気になりまして」
……視線だけあっちへ向けたというのに、それに気づいたのか……。しかも、俺の前を歩いているのに、だ。
殺し屋――暗殺者だというその過去経歴は、伊達じゃなさそうだな。
どうしてかつて暗殺者をやっていた人間が、教師をやっているのかは謎だが……少なくとも、『過去経歴』である以上、今は暗殺者ではない。
だから、ターゲットがこの学校にいて、そいつを殺すために教師のフリをして忍び込んで来ている……とかそういう可能性は一切ない。
もしそうなら、看破魔法を使った時点でその事も分かるからな。
「ああ。4階から上は今は使われていないんだ。昔はあのフロアにも教室があったんだが……少子化の影響で、今はもう3階までで事足りる状態なんだよ。ま、マンモス校だった頃の名残……みたいなもんだ」
そんな風に説明してくる結城先生。
マンモス校――1000人以上の生徒がいるような巨大な学校の事だったか?
実際、事前に貰った資料で、この学校がかなりの敷地面積を誇っている、というのは知っているからな。
……まあ、だからこそ正門へ回らずに、土手側の塀を飛び越えたんだし。
そんな事を考えつつ、窓からその使われていないフロアを見る俺。
その俺に対し、結城先生が付け加えるように、
「ちなみに……だが、興味をもったとしても、4階から上のフロアには入れねぇからな」
と、言った。
「ああ、階段がない感じですか」
向こうの世界には、守りの為とか、人を避ける為とか、様々な理由で飛翔魔法を使って入る事が前提となっている建物がいくつもあったので、さほど珍しい物ではないが……
なんて事を考えていると、結城先生が呆れた声で答えてくる。
「そんなわけないだろ、階段はちゃんとあるし、屋上まで行けるぞ」
「なら、どうして?」
「階段の所の防火扉を閉ざして、更に裏から新たに設置した電子錠でロックしてんだ。だから、屋上へはそのまま階段を登っていけば出られるが、4階と5階には行けないってわけだ」
「なるほど……。うーん……老朽化して使えなくなったというわけでもないのに、何にも使わないなんてちょっともったいないですね」
「それに関しちゃ俺もそう思うが……4階と5階は幽霊が出るだの、死体が隠されてるだの、やべー儀式のせいで魔界と繋がっちまってるだのと、ホラーやミステリー、オカルトのネタの宝庫と化しててなぁ……誰も使いたがらねぇんだよ」
そんな風に言って肩をすくめる結城先生。
うーむ……。学校には怪談話が付き物だと、以前読んだ本に書いてあったが……まさか、一瞬だけ感じた『気』は『その類の存在』の物……だったのか?
今はもう感じないから、正確な所は良くわからんが……一応、気をつけておくか。
もし、本当に力のあるアンデッドやデーモンの類が巣食っているようならば、滅しておかないと危険だからな。
――もっともこの世界に、そうそうそんなものが顕現するとも思えないが。
4階と5階は、いわゆる旧校舎ポジションですね。