第53話 隣駅へ
「アウトッ!」
別の改札から駅の中に入った所で、かりんにそう告げる俺。
「え? あれ駄目なの?」
キョトンとした顔でそんな風に問いかけてくるかりん。
「はい。赤くなったら駄目ですね」
「あと、普通にすり抜けてたぞ……」
「うぐっ! む、無意識にすり抜けたかもしれないわ……」
「もう一度やりなおしだな。……次は赤くなったら止まれよ?」
というわけで、駅員に事情を話して一度駅の外へ出て、やり直すかりん。
再び赤くなったが今度はしっかりと静止した。
三度目――
今度はほとんどパネルの上に置くような形だった事もあり、さすがに反応して何事もなく通過出来た。
「よ、ようやく通過出来たわ……」
「えっと……お疲れ様です」
思いっきり疲弊しているかりんにそんな声をかける舞奈。
「まあでも、大体理解出来たわ。それで次は電車に乗るのよね?」
「そうだな。んー、次の電車は……3分後か」
「すぐですね。エレベーターもありますが……エスカレーターでいいですよね?」
という舞奈に頷き、俺たちはエスカレーターでホームへと移動する。
さすがにかりんもエスカレーターは問題なかったようだ。
……と思ったが、良く見ると数センチ浮いてるな……
その事について問いかけてみると、
「いや、だって……なんか、勝手に動いているから乗り降りする時、ちょっと怖いし……」
なんて事を、顔を赤くしながら言ってきた。
……ああうん。俺も最初はちょっと怖かったな。
無論、そんな事は恥ずかしいので口にはしないが!
◆
程なくしてホームへ滑り込んできた電車に乗った所で、
「そう言えば成伯さん、授業の方は大丈夫ですか?」
と、舞奈がそんな事を問いかけてきた。
「ん? ああ……まあ、今の所はどれも特に問題ないな」
というのも、魔法研究塔で学んだ基礎知識と大差がないか、それを応用して考えれば理解出来る程度だったりするからな。今の所は。
国語とか英語とか呼ばれる言語学も、既に言語自体を魔法で解析して、普通に読めて書く事も出来る状態になっているので何の問題もない。
ただ……歴史だけは、完全に俺の知識が役に立たず、ゼロから覚え直しなので少々厄介だったりする。ただまあ、世界の歴史を知る事自体は割と好きだったりするので、そこまで苦にはならない。
「そ、そうなのですか? 数学、英語、公民、理科が苦手な私とは大違いですね……」
などと言ってくる舞奈。
「それって……たしか主要な学科の2/3じゃなかったかしら?」
「うぐぅっ! ……そ、そうですね……。あ、で、でも、苦手とは言っても、赤点はギリギリ回避していま……あ、いえ、数学だけ一度赤くなりました……」
痛い所を突かれたのかなんなのか、自分から赤かった事を口にする舞奈。
……まあ、防音魔法を念の為に展開してあるので、乗客に聞こえる事はないが。やれやれ……
「赤かったのね……」
「し、仕方がないじゃないですか……。なんですか、サインコサインタンジェントって! 呪文か何かですか!? わけがわかりませんっ!」
「ああー、あの意味不明な図と記号が並んでいる奴ね。あれは、私も授業を10年ほど聞いても理解出来ないわね」
舞奈に同調するようにそんな事を言うかりん。
ってか、10年授業を聞いてもわからないのか……
……サイン、コサイン、タンジェント……。たしか、三角関数……だったか?
師匠が魔法陣を構築する際に、似たような物を使ってあれこれやっていたのを見ていたし、実際に教わりもしたからどうにか分かるけど……その前知識なしの完全初見だったら、俺も苦戦するかもしれないな、あれは。
などと思いながら窓の外を見ると、列車は橋を渡り終える所だった。
という事は……もうすぐ駅か。一駅だからすぐだな。
というわけで、隣駅方面に舞台が移ります。
といっても、そんなに長く滞在する事にはならないと思いますが。
さて、次の更新ですが……明後日の予定です。




