第52話 霊体と駅とICカード
とりあえず、お金に関しては後ほど桜満に話してどうにかするという事で、一旦手持ちのお金をいくばくか手渡した。
「……ねぇ、このタッチパネルという代物、触っても反応しないんだけど……」
駅の自動券売機の前でそんな事を言ってくるかりん。
……もしかして、タッチパネルって霊体じゃ反応しないのか?
「仕組みは良く知らないですけど、タッチしていると認識されないんですかね? ちょっとコレに触ってみてくれませんか?」
と言ってかりんにスマホを手渡す。
「……反応しないわね」
「反応しませんね……」
案の定と言うべきか、スマホのタッチパネルも駄目だった。
うーん……指を完全に模倣した物ならいけるのだろうか?
「ちょっと待っていてくれ」
そうふたりに言い残し、俺は駅のコンビニで軍手と呼ばれる手袋を購入。
それに複数の魔法を付与し、擬似的に指と同じ性質を持たせてみる。
「これをはめて触ってみてくれないか?」
ふたりのもとに戻ってきた俺は、そう言ってかりんに軍手を手渡す。
かりんはそれをはめると、再び恐る恐るタッチパネルに指を触れる。
「あ、反応したわ!」
と、かりんが喜びの声を上げるように、今度は何事もなくあっさりと反応した。
「え? 軍手で反応? どういう事です?」
「タッチパネルの仕組みは良く分からんが、要は指と同じ状態にすればいいんじゃないかと思ってな。いくつかの魔法を併用して、この軍手に指と同じ性質を持たせたんだ。それはもう完璧に静電気まで含めてな」
「な、なるほど……。ある意味、納得です」
「まあ……実際の所は、ここまでしなくても反応させる方法はあるのかもしれんが……正直、それを今から探すのは面倒だしな」
俺がそう言って肩をすくめてみせた所で、タッチパネルの前に立つかりんが、
「えっと……それで……その、押せるようにはなったけれど、これ……どこをどうすればいいのかしら?」
と、こちらに助けを求めるような視線を向けながら問いかけてきた。
「あ、そうですね。まずは――」
舞奈が逐一説明し、かりんがその通りに操作していく……というのを繰り返す事しばし――
「これがICカードという奴ね! ……これに1万円分のお金が入っているとか不思議だわ……」
なんて事を言いながら、ペンギンの描かれたICカードを眺めるかりん。
ちなみにお金は俺が出した物だ。
「で、あの改札という名のゲートの所にある、楕円形のICと書かれた場所にそれを近づけるとゲートが開く。開いているからと言ってそのまま行こうとしても閉まるから、必ず近づけるようにな。閉まってもすり抜けるなよ?」
……俺、初めてあそこを通過する時、開いていたからそのまま行って問題ないのかと思ったら、おもいっきり閉められたっけなぁ……
という苦い思い出は口にせず、心の中でだけ呟いておく。
「な、なるほど……それじゃあ早速――」
「――待った。舞奈、かりん、俺の順で並んで行くとしよう」
改札へ向かおうとするかりんを引き止め、そう告げる俺。
「そ、そうね。舞奈の動作をじっくり見てからの方がいいわね」
と、かりんは言うが実の所それが目的ではない。
「わかりました。それでは行きましょうか」
そう俺たちに言うと、改札へと移動し、そのままICカードを使って駅の中へと入る舞奈。
それにかりんが続くが……
ICカードを読み取る部分が赤く光り、ゲートが閉じる。
……が、かりんはそれを無視してゲートを『すり抜け』た。
ああうん、やっぱり後ろにいて正解だったか……
少々予定が詰まっており、しばらく(他2作同様に)1日おきの更新となる事が多々あります…… orz
というわけで、次回の更新は明後日の月曜日です!




