第50話 結界破壊
「ああ、見えているぞ。壊したらまずいものかもしれないと思ってスルーしていたんだが……どうなんだ? 壊して大丈夫な代物か?」
改めてそう問いかける俺。
「そうね……。多数の巫者の力と複雑な儀式によって生み出された結界を、サラッと壊して良いかと言われるとなんだかちょっとこう泣けるものがあるけど……でもまあ、もう封じるべき対象のメインである奴の魂の欠片は存在していないから、あの結界は私を封じ込めるだけのものでしかないのよねぇ……」
俺の問いかけに、かりんはため息混じりでそう答え、しばしの思案――というか葛藤というべきか――の後、
「……うん。壊してくれるかしら?」
と、意を決した表情で言ってきた。
「よし、わかった。ならば行くとしよう」
そう告げて俺たちは結界の見える場所へと向かう。
「……何も見えませんが、ここにあるんですか?」
「ああ。思いっきりあるな。と言っても、意識を向けなければすぐに見えなくなってしまうような希薄さがあるが……ま、そうでもないと人の目に触れて鬱陶しいしな」
「私の目には、はっきりくっきり見えるわよ」
「結界の対象だからじゃないか? 多分。まあ……ともかく壊すとしよう」
俺はそう返すなり、一振りの魔法剣を生み出す。
おっと、隠蔽魔法で周囲から見えないようにしておかないとな、一応。
そんな感じで準備をし終えると、俺は結界を凝視し、その存在をしっかりと、確実に捉える。
そして、魔法剣を構え――
「せいっ!」
という掛け声と共に、生み出した魔法剣を一閃。
すると、ピシッという音と共に結界にヒビが入り、そこを中心にヒビが勢いよく拡大。
ある程度まで拡大した瞬間、唐突に音もなく、バラバラに砕け散った。
その光景は、まるでガラスが勢いよく割れた時を思い起こさせる、そんなものであった。
「っと、まあこんなもんか。規模の割には、思ったよりも大した事なかったな」
俺は用済みの魔法剣を霧散させると、そんな感想のような言葉を口にしつつ、浮遊魔法を解除して地上へと降り立つ。
「壊してくれとは言ったけれど、まさか魔法の剣で斬り裂いただけであっさり砕け散るだなんて思ってもいなかったわ……」
砕け散った結界の破片が地面に落ちると同時に、白い粒子となって消滅していくのを眺めながら、そんな事を言ってくるかりん。
「私には見えませんけど、ここに結界がある――いえ、あったんですか?」
「ええ、間違いなくここにあったわ。もう跡形もなく消え去る寸前だけど」
「それはえっと……おめでとうございます……でいいんですかね?」
何故かため息をつくかりんに対し、そう問いかけて首を傾げる舞奈。
「微妙な所だけど……でも、うん。ありがとう」
「で、早速向かうのか?」
「そうね。放っておくわけにもいかないしね」
「ふーむ……。だったら俺も行くとしよう。俺としても、放っておくわけにはいかないからな」
「あら、ありがとう。貴方が一緒に来てくれるなら凄く助かるわ」
かりんがそう言って嬉しそうに柔らかな笑みを浮かべる。
それに対し、何故かちょっと不機嫌そうな表情になった舞奈が、
「……私も行っていいですかね?」
なんて事を問いかけてくる。
「そ、その……。私が行っても役不足なのは分かっていますけど、私の方がここに長く住んでいるので、あの辺りも詳しいですし! 一応案内出来ますよっ!」
ずずいっと顔を近づけて話してくる舞奈。
お、おう……。そ、そんなに行きたいのか……?
あっさりと破壊される結界でした。
といった所でまた次回! 更新は明日です!




