第49話 かりんと結界
「な、なるほど……そうだったのですか……。――あれ? でもそうすると、今のかりんさんは自由にどこへでも行けるという事なんですか?」
「そういうわけでもないわ。八百万の欠片……の化身と、私を封じる為に張り巡らされた結界があるのだけど、それを超える事が出来ないわね。この学校は結界内――と言っても、かなり端の方なのだけど――にあるから、どうにか来られたけど」
「あ、そうだったのか。その辺は俺もまだ聞いていなかったな」
だが、結界か……。たしかに妙な壁みたいな物を、昨日学校へ向かって走っている途中で見かけたな。
壊して良いものかどうかわからないから、あの時はスルーしたが。急いでいたし。
「あ、そうなんですね。ちなみに……この学校に来たのは、あの欠片が現れたからですか?」
「それはちょっと違うわね。欠片の気配自体は、ずっと前から……それこそ10年以上前からここ――学校にあったのよ」
「……ん? 10年?」
「ええ。10年前に私が封じていたはずの八百万の欠片が全て消え失せたのよ。それで私はこう……ポイッと放逐されたように封印の地だった場所に立っていたわ。まあ……肉体は戻ってこなかったけど」
何かを放り捨てるようなジェスチャーと共にそんな事を言ってくるかりん。
……八百万の欠片全てが消え失せたのは、おそらく魔王が召喚したせいだろう。あの召喚魔法陣が大きな欠片を優先して引き寄せたと考えれば、そうおかしな話ではない。
しかし、10年前……か。
どうやら俺は、次元の狭間を10年程さまよっていた――正確には流され続けていた――らしい。もっとも、10年もそうであったという自覚は、まったくないが。
「それじゃあ、10年間もこの学校に?」
「ええ、そうよ。欠片を放っておくわけにはいかないし。……でも、全然見つからなくて……10年も探しているのに見つからないとか、どうしたものかと思っていんだけど、急に昨日、気配が消えたのよ」
なるほど……妙に学校内に詳しかったり、現代の事を普通に知っていたりするのは、10年間学校に住み着いていたからって所か。
生徒や教師たちの会話や授業を聞いたり、本やテレビを見たりすれば、大体の情報は得られるだろうしな。
「だが、今度は急に今日の昼休みの時間に姿を見せた……と」
「ええ、そう。そういう事よ。もう意味がわからなくてね。それで、私以外にアレを知っている人間――貴方ならば、見つける事が出来るかもしれない……そんな風に考えて、貴方を呼びに行ったのよ」
「結果的には良い判断でしたね」
そう言った舞奈に対し、かりんは頷き、
「まったくもってその通りね。まさか欠片を一瞬で――しかも、取り憑いていた人間から分離した上で消し飛ばせるような力を持っているなんて夢にも思わなかったわ……。八十億の欠片を葬り去ったというのは伊達じゃないわね、ホント」
と言って、俺の方を見てくる。
「まあ、もう一度八十億の欠片が出現したら、ちょっと厳しいかもしれないけどな。――ところで、かりんはこれからどうするんだ?」
「まずは結界をどうにかしようと思っているわ。南――川の向こう側に欠片があるのを感じるから行ってみたい所だけど……結界があるから行けないのよ」
なんて事を言ってくるかりん。結界って言うとあれだよなぁ……
「結界か……。壊してしまってもいい代物なら、壊してしまうんだが……」
「……え? 壊せるの? というか……もしかして、結界も見えていたりするのかしら?」
呟くように言った俺に対し、目を瞬かせながら問いかけてくるかりん。
……はて? そんなに意外だったのだろうか?
更新が物凄く遅くなりました……もう日付が変わっていますね…… orz
次の更新は明日7/21の12時を予定しています。予定しています……




