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第140話 霊力と人形

 廊下には案の定、トラップがあったが、最早大した問題でもないので、サクッと突破して隣の部屋の前へと移動。

 紡がそこにあったドアに手を伸ばして確認し――

「鍵がかかっていますが、ここもこの鍵で大丈夫そうです」

 と言いながら、ドアノブの鍵穴に鍵を挿し込んで回した。

 

 カチャッという音と共にロックが外れ、紡がドアを開ける。

 

「ひうっ!?」

 部屋の中を見たセラが恐怖の表情で短く悲鳴を発する。

 そして舞奈がそれに続き、

「う、うわぁ……。これはなかなか恐ろしいものがありますね……」

 と、言った。

 

「まあたしかに、同じような見た目をしている市松人形がこれだけあると、不気味な感じはするわね」

 かりんがそんな風に言った通り、その部屋にはさまざまな大きさの黒髪の人形――市松人形がズラッと置かれていた。

 

 いや、正確には正面の段々になっている棚に、か。

 横を見ると壁際にも棚があって、そっちには西洋人形も並んでいるし。

 あと、何故かマネキンも数体置かれているな。

 

「い、一体なんなのでしょう。この部屋、というか、この人形の数は……」

「ブッル。部屋全体に薄くて細い魔力――霊力が複雑に流れているブル。まるで、部屋自体が霊力で出来た蜘蛛の巣みたいになっているブッルルー」

 紡に続いてブルルンがその場で、ゆっくりとコマのように回転しながらそう言ってくる。

 それに対して、

「言われてみると、うっすらと纏わりついてくる感覚があるわね……」

 と、そんな風にかりんが呟くように言って周囲を見回す。

 

 ……たしかに注意してみると、わずかに身体に何かこう……ねっとりとしたものが張り付いているかのような、そんな感じがあるな……

 

「そう言えば、鎖は……?」

 舞奈がそう言いながら、この部屋と隣の部屋とを隔てる壁の方へと顔を向ける。

 

 同じようにそちらへと顔を向けてみると、隣の部屋から伸びてきている鎖は、天井から壁へと移り、そのまま壁の中へと続いていた。

 

「……あの壁の向こう側になにかある……のか?」

「そうですね……。そう考えるのが妥当な気がします。本当なら壊してみるのが手っ取り早いのですが、ここは異空間なので普通の方法では壊せそうにないですね」

 俺に対して頷きながらそう告げてくる舞奈。

 たしかにここの壁は物理的な方法じゃ壊せないからなぁ……

 まあそもそも……

「というかー、その人形が並べられている棚が邪魔で、壁に近づけないー」

 俺の思考の先を、そのまま口にしつつ、市松人形が並べられている棚を指さすセラ。

 

「邪魔と言ったか?」

「え?」

「小娘よ、我らを邪魔と言ったか?」

 唐突に響く底冷えのする声。

 明らかにセラに対する問いかけだな。

 

「許さぬ。魂の器が異なるだけで似たような存在でありながら。許さぬ」

 更にそんな声が響く。

 魂の器が異なる……? 

 まさか、セラがホムンクルスの肉体に霊体を融合させている事を認識している……のか?

 

「ブルルーッ!? 部屋全体の霊力の流れが変わったブッルゥッ! 人形に向かって流れていってるブルゥ!」

 ブルルンがそんな警告を口にしてきた直後、全ての人形がカタカタと揺れ動き始める。

 

「ひぅーっ!? じゃ、邪魔って言ってごめんなさいーっ!」

 セラがそんな風に謝罪の言葉を紡ぐが、「許さぬ」「許さぬ」「許さぬ」という複数の声が返ってくるだけで、カタカタと揺れ動くのは止まらない。

 

「これ、もう何を言っても止まらない気がしますっ!」

「そうだな。おそらくそういう『トリガー』なんだろう」

 舞奈に対してそう返事をした直後、市松人形の1体――棚に並べられている中では、もっとも大きな人形が、ふわりと宙に浮いた。

 

「改めて見ると、小娘以外も面妖なものどもだ。互いの肉体と霊体を見えない鎖で繋いだかのような3人と、捧血の女……いや、印が砕けている……?」

 なんて事を言ってくる人形。

 

 セラの時点でそんな気がしていたが、こちらの肉体と魂の『状態』を認識、把握しているな。

 と、思った所で、

「ほ、捧血? 印?」

 自らを見ながら言われた紡がそんな風に返す。

 

 たしかにそれは気になる所だ。

 『捧血』と『印』というのはなんだ……?

 

 紡の事を示しているというのはわかるが……

 いや、まてよ? 血……?

 

「まさか、この施設で大量に使われている血は……」

 そんな風に俺が呟くように言うと、

「知らんのか? 捧血の呪印を刻まれた人間たちのものだ。正確な印の名前は別にあるようだが、『再現した者』はそう名付けた」

 なんて事を言ってきた。

 

「あれって、造血とか人工的に生み出されたものじゃなかったのね……」

「考えうる中で、一番最悪なパターンでしたか……」

 かりんと舞奈がそんな風に呟く。

 人形はそのふたりの呟きをスルーし、さらに言葉を続ける。

「印を刻んだものは、幾度となく『壊しても』即座に元の場所で元の形に戻る、『状態保存』なるものへと変化する。ゆえに肉体を何度も壊して、その時に出る血を回収すれば、無制限に血が手に入るというものだ」

 

「状態……保存。自分で言うのもなんですが、たしかにあれはその表現が適切というかなんというか、死ぬと保存された状態へと戻る……セーブポイントでセーブした時の状態へと、オートロードされているかのような、そんな感じではありましたね……」

 紡が顎に手を当てながら、そんな風に呟く。

 その言葉もスルーし、さらに言葉を紡ぐ人形。

「まあ、人間に刻んだ場合、精神は戻らずに維持されてしまうゆえ、大体の人間は精神の方が壊れてしまうがな。稀に凄まじい『精神耐性』を持つ者もいる」

 

「うぅーん……? それ、『もしかしたら』っていう心当たりがあるねー……」

 セラのその呟き――『もしかしたら』の心当たりは、俺も同じくあった。

 

 この場にいない『あの異空間で何度も死に続けた少女』――弥衣は、もしかしたらその『精神耐性』を持っているのかもしれないな……

今回は、どうにかいつもどおりの時間に更新出来ました……


とまあ、そんな所でまた次回!

次の更新も予定通りとなります、3月15日(土)の想定です!

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