第130話 壁と昇降機
「ちなみにふたつの黒い扉の方も、開けてみましたが何もありませんでした」
「うん、からっぽからっぽー」
いつの間にか確認し終えていた紡とセラが、そんな風に言ってくる。
「むぐぅ……。遠回りした先の宝箱が、全てからっぽだった時の何とも言えない気分と同じですね……」
「全部モンスターが入っていたよりマシというものですよ。何もない事は判明しましたし」
舞奈に対してそんな風に返す紡に、
「ブッル。なんだか妙な慰め方ブルねー」
「今の慰めてるって言うのかなぁ?」
と、続くブルルンとセラ。
「ま、なんにせよ、ここはもういいな。他の場所へ向かうとしよう」
「そうですね。次はどっちへ行きます?」
俺の言葉に頷きつつ、そう問いかけてくる紡。
「カーブしている通路の方は、最終的には外か施設内に出るわよね。確実に」
かりんがそんな風に言い、それに対して、
「たしかに呪術付与の為に運び込んだり、付与したものを運び出したりする為の通路だと考えると、そうなりますね」
と返す舞奈。
「そういう意味では、一度そっちを確認しておいた方が良いかもしれませんね」
と言ってきた紡に、俺は頷きつつ返事をする。
「そうだな。さらに分岐とかがあるかもしれないし、階段の方は後回しにして、まずは通路を進んでみるとするか」
……
…………
………………
「ここも何もなし、か」
カーブした通路の先は所々で分岐しており、分岐した通路の先には扉……というか、部屋がいくつかあるという、先程と似たような構造が続いていたが、どれももぬけの殻だった。
「部屋の大きさがそれぞれ違っている事を考えると、用途もそれぞれ違うんだと思うけど、こうも何も残っていないと、何に使われていたのかさっぱり分からないわね」
「そうですね……。血の痕が残されていた部屋もありましたが、そこも血の痕以外は何も残っていなかったので、何があったのか推測すら出来ませんでしたし……」
かりんと舞奈がそんな風に言い、
「ブッルブッルー。いくつか魔力的なものの痕跡こそ感じたブルけど、それだけブッルねー」
と、ブルルンが続く。
「それにしても、物がやたらと残されたままになっている上と比べて、こちらは逆に無さすぎですね」
そんな風に言って周囲を見回す紡に、
「入口が塞がれていた事を考えれば、こっちは何らかの理由で先に封鎖されたんだろうな。で、封鎖する前に不要な物以外は全て運び出してしまったんだろう」
そう腕を組みながら返す俺。
「何もない以上、ここに長居していても仕方がないわね。戻って先へ進みましょうか」
「ああ、そうだな」
かりんの言葉に頷きながらそう返し、通路へと引き返す。
そして、そこからさらに奥へ進んでいくと、正面に壁が見えてきた。
「行き止まりー?」
「いや、さすがにそれはないと思うぞ。ここまで普通に通路が伸びているのに、いきなり行き止まりってのも不自然だしな。
首を傾げながら問いかけてくるセラに対し、そう返す俺。
「となると、回転したりスライドしたりすると考えるのが妥当ですが……」
と言いながら舞奈が壁に近づく。
そして、そのまま押したり横にスライドさせるような動きをし始めるが、壁は動かなかった。
「駄目ですね……。何かでロックされているんでしょうか?」
「でも、それらしい仕掛けは何も見当たらないわね」
舞奈に対し、かりんが周囲を見回しながらそう返すと、それに続くようにして、
「ブッルルー。魔法の類も感知出来ないブルー」
と、ブルルン。
「という事はつまり、ただの壁……?」
「そうなりますが、向こう側は空洞ですね」
紡の言葉に、舞奈が壁をコンコンと叩きながら答える。
空洞……か。
「だとすると、ここも『塞がれた』と考えた方が良さそうだな」
俺がそんな風に顎に手を当てながら口にすると、
「でしたら壊しましょう! てぇーいっ!」
なんて事を言って、いきなり壁を蹴り飛ばす舞奈。
「ノーウェイトで壊しにかかってるしぃー……」
呆れながらそう口にするセラに続くようにして、
「でも、ヒビが入っただけね」
と、壁を見ながら言うかりん。
「この壁……っ! 思ったよりも分厚いんですよ……っ!」
そう言いながら壁をさらに蹴る舞奈に、
「それなら、蹴り壊すよりも衝撃波の方が早そうだな。――グラディク!」
そう返しつつ即座に、少し前に床に穴を開けた衝撃波魔法を発動。
壁に大きな円形の穴を開けた。
「ぐむぅ。また先を越されてしまいました」
「いや、別に競っているわけじゃないからな……?」
悔しそうな舞奈に対し、俺はそう呆れ気味に返事をする。
「それにしても、さっきも思ったのですが、衝撃波なのにザンッて感じじゃないですよね」
「ザンッとなるのは、衝撃波というよりかは真空波――カマイタチだしなぁ……」
「なるほどたしかに。ザンッとなるような衝撃波は、悪魔でもなければ無理だという事ですね」
舞奈と俺がそんな事を話していると、
「それは、どこかの女神が転生する世界――別の宇宙の悪魔限定では……」
という突っ込みめいた一言を口にしてくる紡。
「別の宇宙という言い回しをするあたり『通』ですね」
「なんの話をしているのよ……。さっさと行くわよ」
今度はかりんが舞奈に突っ込みを入れつつ、俺が開けた穴をくぐっていった。
「あっ! あの昇降機があるー!」
「ブッル。あっちには階段もあるブルねー」
既にセラとブルルンは向こう側へ行っており、そんな声が穴の向こう側から聞こえてきた。
穴の向こう側は通路が続いているわけではなく、大きな部屋のようになっているのが、俺が今いる所からでも確認出来る。
しかし、昇降機も階段も見えないので、ここからは見えない所――要するに左側か右側に、昇降機と階段はあるようだ。
そんな事を思考しつつ穴をくぐると、右方向に少しだけ通路が伸びており、その先に階段があるのが確認出来た。
昇降機はその反対側――左方向の壁際だ。
逆方向なのか……。これだと出る場所がかなり違くなりそうだ。
まあ……階段の方は、そもそも地上まで繋がっているとは限らないが。
「どうやら、あの昇降機で地上から運び入れたり、逆に地上へ運び出したりしていたようですね。……さすがにこの上に、もう1フロア分運搬路があるとは思えませんし」
後ろからやってきた紡がそんな風に言う。
それに対して、
「たしかにそうだな。というか、もうひとつの昇降機は動かなかったが、こっちはどうなんだろうか……」
と返しつつ、昇降機へと顔を向ける俺。
するとその直後、
「上から下りてこないー!」
「ブッル。スイッチを見かけたら即押すのはどうかと思うブル……」
「問題なかったから大丈夫でしょー」
「ブルゥ。物凄い結果論ブッル……」
なんていうセラとブルルンの声が聞こえてきた。
「……駄目そうですね」
「だなぁ……。上がどこなのか確認したかったんだが、仕方ないか……」
紡に対してそう返事をした所で、
「でしたら、上で止まったままの昇降機を吹き飛ばしてしまえばいいのでは? 魔法を使えば、登るのは大して難しくないですし、そうしても特に困るわけではないですし」
なんていう声と共に舞奈がやってくる。
「ま、まあ、少々強引ですが、たしかにそういう手段もありますね……」
と、頬を掻きながら返す紡。
正直、『少々』ではなく『かなり』だが、そうは言わないあたりは紡らしい。
しかし、吹き飛ばしてしまっても特に困るわけでもないってのもたしかなんだよなぁ……
さて、どうしたものか……
投稿の設定を間違えていて、更新が少し遅くなりました……
そんなところで、また次回!
次の更新も予定通りとなります、2月8日(土)の想定です!




