第126話 床を探って
――二手に分かれて調べ始めたものの、なかなか怪しい場所は見つからず……
「あれって、かりんさんたちですよね?」
「そうだな……」
紡が言ってきた通り、通路の先にはかりんたちの姿が見えていた。
それを見ながら舞奈が、
「おかしいですね……。ここに何かあっていいはずなのですが……」
と、呟くように言いながら首を捻る。
そうこうしているうちに、セラたちの方もこちらに気づいたらしく、
「こっちはここまでなにもなかったわ!」
などと、かりんが大声で告げてくる。
それに対して俺も、同じように大声で返事をする。
「こっちもそうだ!」
「残るはこの辺りだけという事になるわね!」
「そうだな! この辺りに何かある可能性が高い!」
「ええ、そうなるわね! 慎重に調べましょ!」
再び大声でそんなやりとりをしつつ、壁や床を調べていく俺たち。
すると程なくして、
「ねぇー! この床、ここだけキレイになってる感じがするんだけどー!」
なんて事をセラが大声で言ってくる。
そのセラの声を聞いたブルルンがそちらへと近づき、
「ブルル? ……たしかに、床の染みが変な所で途切れているブッルね」
と、床をじっと見ながら俺に伝えてきた。
正確にはその場で口にした事を、再び念話で伝えてきたのだろう。
セラとかりんも、床へと視線を向けている。
床の染み……?
と思いながらセラの所へと歩み寄り、視線の先へと顔を向ける。
すると、たしかに床の染みがスパッと切れている所があった。
さすがに『この場所だけ床を磨いた』なんて事はありえないよなぁ……と思いつつ、既にしゃがみ込んでその辺りを調べていたかりんに「なにかありそうか?」と問いかける。
するとその問いかけに対して、
「軽く叩いてみたのだけど、下に空間がありそうだわ」
なんて言葉が返ってきた。
「えっ! ホント!?」
見つけたセラが発した驚きの声に対し、かりんが頷きながら返事をする。
「ええ。この下に何かあるのは間違いないわ。良く見つけたわね」
たしかに良く見つけたものだ。
そう思った俺は、かりんに続くようにして、
「そうだな。凄いぞ、セラ」
と褒める。
するとセラは、心底嬉しそうな表情で両手を上げながら、
「やったー! トー兄様にも褒められたー!」
なんていう喜びの声を発した。
うーん、なんだか癒やされるなぁ……
……おっと、ついニヤニヤしてしまった……
床の方に集中しなければ……
「――でもこれ、どうやって下へ行くのかしら? 床の染みが切れている事を考えると、ここの部分が開く気がするのだけど、それらしい隙間とかないのよね……」
「言われてみると、この床が動くならその為の隙間とかがあっていいはずだな……」
かりんの言葉に、俺は床を見回しながらそう返す。
「この場所に元々あった穴か階段かを埋めてしまったのではないしょうか……?」
「ああなるほど……たしかにその可能性はあるな」
「そうね。この地下へと続いていた階段もタイルで覆われていたものね」
紬の推測に対し、俺が顎に手を当てながらそんな風に返事をする。
するとそこで、
「でしたら壊してしまいましょう」
と言いながら舞奈が姿を見せる。
「相変わらず力任せねぇ……」
かりんはそう言って肩をすくめてみせた後、
「でもまあ……たしかにそうするしかなさそうではあるわね」
と、そう続けた。
「ま、たしかにそうだな。――グラディク!」
俺は頷くなり、衝撃波を発生させる魔法を発動。床を粉砕した。
すると舞奈が、
「って……私が壊す前に壊されるのは想定外ですっ!」
などと、驚きと困惑の入り混じった表情で言ってきた。
うんまあそうだろうなぁ……
「たまには舞奈より先に壊そうかと思ってな」
と、そんな風に告げる俺。
実際には下に物理的な罠とかがあったら困るので、先に破壊したのだが。
なにしろ、ブルルンや俺では物理的な罠までは感知出来ないしな。
「むむぅ。なかなかやりますね……」
今度は悔しそうな表情でそう呟く舞奈。
なかなかやるってなんだ……と思いつつ、
「まあ……とにかく下を確認してみるとしよう」
と告げ、下へ光球を放り投げて照らしてみる。
「下にも通路があるわね」
「そうですね。しかも、ここよりも広い感じです」
かりんに対し、いつの間にかやってきていた紡がそんな風に返す。
そして、それに続くようにして、
「でも、下までかなりありますね……。まあ魔法を使えば、飛び降りられない高さでも、戻って来られない高さでもありませんが……」
と、そんな風に言う舞奈。
するとそこで、
「ブルルーン、縦になって下りてってみてー」
そんな事をセラが口にする。
それに対してブルルンは、
「ブル? 良く分からないけど、分かったブルゥ」
と言いながら、俺が壊して出来た穴へと飛び込み、縦になったまま――正確に言うなら、真下を向いた状態を維持して――降下していく。
そして、下の床に到達した所で、
「ブッルルゥー。下まで来たブルよー。通路が左右に続いているブッルねー」
と、下の情報を告げてくる。
「ふむふむー。50ブルルンくらいあるねー。」
「50ブルルン……。先程5ブルルンで敷布団くらいだったから……敷布団10枚くらいか。結構な高さだな。以前は梯子かなにかがあったんだろうな」
セラの発言に対し、そんな風に続く俺。
「ブッルブッルー。よく今ので分かるブルねー。さすがはご主人ブッル」
戻ってきたブルルンがそう言ってくる。
それに対して「ま、なんとなくな」と返しつつ、セラたちの方を見て、
「とりあえず下りてみるか。――メフォフェターナ!」
と告げて、落下速度を鈍化させ、ゆっくりと降下出来る魔法を発動させる俺。
「これで飛び降りて大丈……って、舞奈はどこだ?」
皆に魔法を付与したつもりが、舞奈だけ付与されなかった。
というか、その場にいなかった。
するとかりんが、やれやれと首を横に振りながら、
「――舞奈なら、魔法を発動する直前に先に飛び降りていったわよ……」
なんて言ってきた。
……もしかして、さっき俺が先行したから今度は……って感じか?
そう思った所で、
「――その通りですっ!」
なんていう舞奈の声が下から聞こえてきた。
……いや、そんな所で俺の思考を先読みされても……
なんて事を思いながら、俺はやれやれと心の中でため息をついた。
なんというか、ほとんど進展していませんね……
次はもうちょっと進みたい所です……
さて、次回ですが……平時通りに戻すか前倒すか迷ったのですが、前倒した場合、更新タイミングが連続して変わってしまい、紛らわしい事になりそうなので、そのまま平時通りに戻す事にしました。
というわけで……次の更新は、1月25日(土)を予定しています。
少し間が空いてしまう形になりまして申し訳ありません……




