第124話 なにかあるかも?
「もの凄い力強い返事だねー。言ってる事は後ろ向きだけどー」
「ひぐぅっ!」
セラの突っ込みめいた一言に対し、胸を抑えながらのけぞる悠花。
「ま、前を向くよりも後ろを向く方が大事な時もあるのですっ!」
「うんまあ……たしかに、時には逃げる事も必要だという意味では、その通りなんだけど……ね……」
悠花の発言に今度は涼太がそんな風に返す。
ただし、言葉の続きを飲み込むかのようにだが。
何を言おうとして飲み込んだのかなんとなく想像がつくが、そこは置いておこう。
なので俺は、
「理由はさておき、それなら悠花にはここを任せるか」
とだけ告げた。
するとそれに続いて、
「トッラー。それなら自分も残るでありますトォーラァ」
「それなら俺も残るとするよ。奥の本棚をちょっと調べてみたいしね」
オトラサマーと涼太がそんな風に言ってくる。
悠花、オトラサマー、涼太か。まあ妥当な所だろう。
そう考え、「わかった。よろしく頼む」と返事をする俺。
そして、そのまま残りの面々を見回して告げる。
「なら、俺たちは他の場所を調べてみるとするか」
「了解ー」
「ブッルブッルー。行くブル行くブルゥー」
セラとブルルンがそんな風に返してくる。
かりん、舞奈、紡も言葉こそ発しなかったが頷いて同意してきた。
――というわけで、隠し部屋を後にする俺たち。
手前の部屋に戻った所で、
「とはいえ……奥へ続く通路がひとつあるだけなのよね」
「そうですね。今の所は完全な一本道です」
奥へと続く通路を見ながら呟くかりんに対し、舞奈がそんな風に返す。
「ブッルー。相変わらず狭い通路ブルねー……」
奥へと続く通路へ浮遊しつつ近づくブルルンのそんな言葉に、
「そうですね。というか……この地下通路、さすがに狭すぎる気がしませんか?」
「たしかにこの狭さだと、さっきの部屋にあった物とか、運び出したり運び入れたりするのが大変ですよね」
「ですよね。わざわざ分解していたのでしょうか?」
と、そんな風に話す紡と舞奈。
言われてみると、たしかに分解しないと通らなさそうな物が結構あったな……
「何か他に隠されている扉とかでもあるのか……?」
俺がそんな風に呟くと、
「ブッルルー。魔力や霊力などは何も感じないブッルよー」
と、即座に返事をしてくるブルルン。
なるほど……そういったものが使われている仕掛けはないというわけか。
「つまり、何かあるとしても、術式の類が使われているわけではない……という事ね」
「見て分かるような物だといいんだけどねー」
かりんとセラがそう言って部屋の中を見回す。
それに続くようにして俺も部屋の中を改めて見回してみるが、パッと見で不自然に感じられるような所は見当たらない。
うーん……特に何もない……のか?
と思っていると、舞奈が壁をコンコンと叩き始めた。
――壁の向こう側に空間があるか調べるにはたしかにこの方法が一番だな。
そう考え、俺も舞奈とは反対側の壁を叩いてみる。
しかし、いくら叩いてもその先に空間があるような音の反響はしなかった。
それは舞奈の方も同じで、
「特に壁の向こう側に空間があったりはしなさそうですね」
と、そんな風に返してきた。
「特に何もない……のか?」
俺が顎に手を当てながらそう口にすると、それに対して紡が、
「でも、なんだか妙な感じがしますよね……」
と言いながら首をひねる。
「ブルルンー、あの辺なんだかおかしくないー?」
セラがそう問いかけると、
「ブル? 魔力とかは感じないブッルよ?」
と、そんな風にブルルンが返事をする。
たしかに特に何も感じないが……と思っていると、セラはブルルンを捕まえて抱きかかえつつ、
「そうじゃなくてー、あそこの引き摺った後、途中で途切れてない?」
なんて事を言いながら指でその場所を示してみせた。
「ブルゥ? ……言われてみるとたしかにそうブルね。でも、あそこになにか置いてあっただけな気がするブッルよー」
「うぅーん……。まあたしかにそうかもしれないけどぉ……」
ブルルンの反応に半分納得しつつも、半分は納得がいかないと言わんばかりにそう返し、そっちへと歩いていくセラ。
「ここに何かが置いてあったとしたらー、位置が変な所すぎない……? この引き摺った跡からして、大きさって横が5ブルルンくらいで、縦が2……3? ブルルンくらいだよねー?」
「ブルゥ……。その単位はどうかと思うブルけど、たしかにこの大きさだと、中途半端な位置ブルねー」
なんて事を言うセラとブルルン。
単位はともかく、大きさ的には敷布団……くらいか?
たしかにその大きさのものがそこにあったとしたら、壁から少し離れているし、かといって部屋の真ん中とかいうわけでもないし、妙な配置だな……
なんて事を考えていると、
「わわっ!?」
という声に続き、
「ブギュルッ!?」
という悲鳴が聞こえた。
なんだ? と思ってそちらを見ると、セラが盛大に転倒し、ブルルンがその下敷きになっていた。
俺が駆け寄る前に、
「だ、大丈夫?」
と、近くにいたかりんがそう問いかける。
「あうぅ……。大丈夫、膝をちょっと床にぶつけただけ……」
「ブルゥ……。ブルルンの方は思いっきり潰れたブル……。でも、大丈夫ブッル……」
セラとブルルンがそれぞれそんな風に返事をした。
「セラが何もない所で転倒するなんて珍しいわね?」
「違う違うー。ここ、急に床が沈んだのーっ! それでバランス崩しちゃったんだよー」
手を伸ばして起こすかりんに対し、セラが床へと視線を向けながらそんな風に答える。
「急に床が沈んだ?」
俺はそう言いながらセラの横へと歩み寄ると、しゃがみ込んでセラの視線が指し示す場所――床に手を触れるとそのままグッと力をかけてみた。
すると、たしかにセラの言う通り、床が沈んだ。
「あ、本当だわ。なにかのスイッチかしらね?」
横からかりんが中腰で覗き込みながらそんな風に言ってくる。
それに対して俺は、
「押すと沈んで離すと戻る事を考えると、それっぽいが……特に何も起こらないな」
と言いながら、押したり戻したりを何度か繰り返してみる。
しかし、これと言って何かが起こる気配はない。
「壊れているんですかね?」
「あとは、決まった回数押さないと駄目とか、一定時間押してから離さないと駄目とか、そういう可能性もありますね」
紡と舞奈までやってきてそんな事を口にする。
それに対して俺は。
「うーん……。たしかにそれはどっちもありえるが……。それだとノーヒントじゃどうにもならないな」
と返すと、セラにギュッギュッと押されながら形を整え直されている最中のブルルンの方を見て、
「これに何か魔力的なものは感じたりするか?」
と、一応問いかけてみる。
まあ、さっき『何も感じない』と言っていたので、多分その類の物は何もないだろうが……と思っていると、
「ブッルルゥ。なにも感じないブルねー。術式の形跡もないブッルし、魔力が枯渇していて動かなくなっているだけというわけではなさそうブルルー」
という、想定通りの言葉が返ってきた。
「なるほど……となると、単なる機械仕掛けか……」
「紡の言う通り純粋に壊れているなら直せば動くだろうし、舞奈の言う通り決められた操作が必要ならどうしたらいいのか分からないと動かしようがないわね」
俺の発言に対し、かりんがそんな風に言ってくる。そしてそれに、
「もし壊れているだけだとしても、どう直したらいいのか良く分かりませんよね……。これ」
「そうですね。どちらにしても動かしようがない気がします」
とそう続く舞奈と紡。
たしかに紡の言う通りだろうが舞奈の言う通りだろうが、どちらにしても対処出来ないな……
うーん……。これをどうにかするのは諦めて、今はこのまま奥へ進んだ方がよさそうだ。
あ、でも、涼太たちには伝えておいた方がいいか。
もしかしたら、あの部屋の本棚で何かこれに関する情報を見つけるかもしれないしな。
そう考え、俺は一旦隠し部屋へと戻り、スイッチらしきものの事を涼太たちに伝えたのだった。
なんともなサブタイトルですが、他に何も思いつかなかったもので……
それはさておき、思ったよりも長くなってしまったのですが、ここで2話使うのもどうかと思ったので、少し凝縮(一部カット)して無理矢理1話にしてしまいました(それでも長いですが……)
とまあ、そんなところでまた次回!
次の更新も予定通りとなります、1月15日(水)の想定です!
ただ……その次が、もしかしたらまた1~2日遅くなるかもしれません……
(大丈夫だとは思うのですが、現時点ではまだ未確定なもので……)




