第119話 流れと合流
俺は早速、『建物自体が、一種の魔導器のようなもの』かもしれないという推測を皆に話してみる。
するとそれに対し、
「なるほど……。たしかにそれは大いにありえそうですが、それを断定するには情報が足りていませんね……」
と、そんな風に舞奈が言ってきた。
珍しく、先に『断定するには情報が足りない』とはっきり口にしているのは、本当に情報不足で分析が不完全だからなのだろう。
「まあ、俺自身も『なんとなく』の域を脱せるような、説得力のある要素も情報もないからな……」
そう俺が口にすると、舞奈に代わってかりんが、
「でも、その可能性も考えられるという前提で調べてみたら、今までとは違った見え方のするものもあるかもしれないわね」
と、顎に手を当てながら言ってきた。
「ちなみに、今現在もまだ残っている『流れ』は、どこからどこへ向かっている感じなんですか?」
舞奈がブルルンの方を見てそんな風に問いかける。
するとそれに対してブルルンが、左右にクネクネと身体を捻りながら返事をする。
「ブッルルゥー。そうブッルねー……。まず、3階の祭壇のあった部屋から建物の外――中庭の石碑へと向かうのがひとつブルゥ。次に同じ3階ブルけど、真反対の棟にあった天球儀の部屋から、まったく同じ場所――つまり、中庭の石碑へ向かうやつブルッブルー」
「なるほど……。それは石碑のところが『終点』な感じですか?」
「ブッルブッルー。その通りブッルよー。そこからさらにどこかに流れていっている感じはないブルねー」
再び問う舞奈に、ブルルンがそう答える。
そして、
「ブッルゥ。とりあえず話を戻すブッルねー。今いったふたつ以外には、3階から下へと向かう流れがあるブルよー。これはその階段が姿を見せた途端、地下へと流れているのが感じられるようになったブッルルゥ」
と、そんな風に言葉を続けた。
「つまり、それは地下を調べてみれば、なにか分かるって事だな」
「ブルルブルル。そうなるブッルねー」
俺の発言に、そう言って肯定を示すように身体の上半分を縦に振って見せるブルルン。
「ブッルルゥ。あとは『流れが生じた瞬間にどこかに吸い込まれて消えている』か、『そもそも流れていない』ブルよー」
「流れが生じた瞬間にどこかに吸い込まれて消える……というのは、そこの部屋なんかがまさにそれよね」
ブルルンの発言に続くようにして、舞奈が壊した壁の向こう側を見ながら、かりんが言葉を紡ぐ。
「たしかにな。おそらく異空間側に流れているんだろうが……」
「その異空間側への進入路を確保しないと駄目なんですが、どうすればいいのかがさっぱりな状態なんですよね……」
俺の言葉に続くようにして、舞奈がそんな風に言う。
俺はそれに頷きながら、
「ああ。どういう風にして異空間と通常空間を重ねているのかとか、どうやって切り替えているのかとか、その術式が分かればどうにかなるとは思うが……それらしいものが、どこにも見当たらないのがな……」
と返し、やれやれと首を横に振る。
「それこそ、地下に何かあればいいのですが……」
そんな風に呟くようにいう紡に、舞奈は「たしかにそうですね」と同意しつつ顎に手を当て、
「さっきの焼却炉みたいなものは稼働していなかったので、それとは無関係のようですし……」
と、言葉を続けた。
「まさにブルルンちゃんの言った魔力や霊力が『そもそも流れていない』ものですね」
「ですね。というか、その類のものはあちこちにありますね。まあ、廃墟なので当然と言えば当然なのかもしれませんが……」
紡の言葉に頷きつつ、そう返す舞奈。
それに続くようにして、
「むしろ、生きているものがある事の方が驚きよ」
と言って肩をすくめてみせるかりん。
「そうだな……。例の異空間で何かをしようとしていたという事も含めて、なかなか高度な技術が使われているのはたしかだな」
かりんに対して俺がそんな風に答えた所で、
「『謎の文字』まで使われていますしね」
と、紡。
「あれねぇ……。呪符や霊符に使う文字と同じで、本来の文字を『呪い』や『霊的な力』を増幅する為に崩している……いえ、『変形させている』ような感じもするのよね……」
かりんが顎に手を当てて何かを考えながら、そんな風に呟く。
それに対して、
「文字を変形……。たしかにそれはありそうですね」
「ブッルゥ。文字自体が魔力のようなものを帯びているのも、その影響があるかもしれないブルね」
と、舞奈とブルルン。
「もう少しヒントがあればいいんだがな」
紡がそう口にした俺に「そうですね……」と返しつつ、地下への階段へと視線を向け、
「地下を調べたら、何か手がかりがあるのでしょうか……?」
と、そんな風に返してくる。
俺はそれに、
「そうであってくれると助かるんだが……。まあ、とりあえずセラたちが来たら、下へ行ってみよう」
と言いながら、紡と同じく階段へと視線を向けた。
「あ、セラちゃんたちもこちらに合流する感じなんですね」
「ブッルブッルー。現時点では、向こうはこれ以上調べようがないと言っていたブル。だから、こっちに来るそうブッルよ」
紡の問いかけに対し、俺に代わってそう返事をするブルルン。
というわけで待つ事しばし……
「ホントに地下への階段があるー!」
なんていう声と共にセラたちが姿を見せた。
「すり抜ける壁なんてものまであるだなんて、思ってもいなかったのですっ」
「ブッルル、今度は落ちそうにならなかったブッル? 大丈夫だったブル?」
悠花に対してそんな風にブルルンが問いかけると、
「え、えっと……。さ、さすがにあれは大丈夫だったのです」
と答える悠花。
……なんだか視線が泳いでいるぞ? と思っていると、
「……思いっきり落ちかけたよねぇ? 涼太が見てなかったら危なかったと思うんだけどー?」
などと、呆れ顔でセラが呟いた。
そしてそのまま涼太の方を見て、
「というか、反応が早すぎて驚いたよー。さすがだねー。オトラサマーも一瞬で前に回り込んでいたしー」
と、口にする。
「あー、うん。まあ……なんとなく嫌な予感がしていたからね……。透真と同じく『すぐ動けるように構えておいた』んだよ」
「トッラトッラー。同じくでありますトラー。だから、涼太からの声が聞こえた瞬間、速攻で動けたでありますトォーラァー」
そんな風にそれぞれ答える涼太とオトラサマー。
どちらも、やれやれと言わんばかりの表情だ。
「ふぐぅ……。な、なんだか完全に、悠花は皆に『トラップに引っかかりまくる子』と思われてしまっているのですぅ……」
そう口にして肩を落とす悠花に、
「実際、引っかかってたしー? まあ、あそこはトラップじゃないけどねー?」
なんて告げるセラ。
「ひぎぃ……っ!」
という悲鳴めいた声と共に、胸に手を当ててのけぞるような仕草をする悠花。
そしてそのまま床に崩れ落ちた。
あ、トドメを食らったか。
「ブッル。相変わらず無意識の追撃が手厳しいブル」
「そ、そうですね……」
ブルルンと舞奈がなんとも言い難い顔でそんな風に言い、
「ま、まあ、その、そこはそれとして……とりあえず全員揃った事ですし、早速地下へ行ってみますか?」
と、やや強引に流れを変えるように紡が続く。
「おう、そうだな。そうしよう」
俺はそれに敢えて乗っかるように強く頷きながら同意し、光球を地下へと投げ入れる。
そして、
「ちなみに、地下は単に暗いだけでダークゾーンとかじゃないから、普通の懐中電灯でも大丈夫だぞ」
と告げた。
セラたちが来る前に。そこは確認済みだ。
「見える範囲にトラップはないけれど、さすがに奥の方までないかどうかまではわからないから、気をつけて進むようにね」
かりんがそんな事を言いながら俺たちを見回す。
……というか、思いっきり最後は悠花に視線が向いてるし……
「だって」
「だ、大丈夫なのですっ! 落とし穴でもなければ引っかからないのですっ!」
セラに顔を向けられた悠花がそう答える。
その悠花の返答に対して俺は、それだと落とし穴には引っかかるって事になるんじゃ……?
と、そんな風に思った――
思った以上に長くなったのですが、更新間隔が空いている(次も空いてしまう)ので、一気にここまで進めてしまいました……
結果的に結構な分量に……
とまあ、そんな所でまた次回!
そして、次の更新ですが……上に書いた通り、諸々立て込んでいる都合で、再び間が空きまして……12月25日(水)を予定しています!
というか、今年(今月)一杯~年明け(来月頭)は、この頻度での更新になりそうです……
※追記
誤字を修正しました。




