第118話 回路と魔導器
ブルルンに状況を問いかけてみると、
『ブッルルゥ! タイルが全部剥がれたブルー。そして、階段が出てきたブッル!』
なんて事を告げてきた。
「どうやら、その『床』は階段を隠していたみたいだな」
「隠し階段……ですか。それは気になりますね」
俺の言葉に対し、舞奈が顎に手を当てながらそう返してくる。
「ですね。ただ……この焼却炉のようなものも、その隠し階段も、ここに建物が『戻ってきていない』時に訪れた際には、存在していませんでしたよね?」
紡が頷きながら、そんな疑問を口にする。
それに対して俺が、
「ああ、なかったはずだ。『ここ』はまあ……例の異空間に一緒に取り込まれていたと考えればいいが、隠し階段の方は奇妙だな。地下ならば当然『土台の下』だ。だが、この建物の『土台』は異空間に取り込まれずに、こちらに残されていた。つまり――」
と、思考を巡らせながらそこまで言った所で、
「――土台の所に、地下への階段なり穴なりが残っていて良かったはず……ですか?」
などと、俺の発言を引き継ぐようにして、問いの言葉を口にする舞奈。
「その通りだ。無論、地下部分もあの異空間に取り込まれていた可能性もあるが、それはそれで、その部分の土台も一緒に消失しているはずだしな」
そんな風に俺が言うと、紡が建物の方へと顔を向けながら、
「たしかにそうですね。ですが、あの辺りにはしっかりと土台が存在していた事を、私は覚えています」
と、断定するように力強く言ってきた。
まあ、紡の記憶力の事を考えたら、断定しても大丈夫だが。
「そうなると、たしかに奇妙ですね……。とりあえず戻ってみますか?」
「そうだな。ここにはこの『術式』以外何もなさそうだし、一旦その階段――というか、地下を調べてみる方がいいだろう。……ただ、涼太たちの方もどうなっているのか気になる所だな」
舞奈の問いかけに対して頷きながらそう返すと、俺はブルルンに、
『オトラサマーに涼太たちの方の状況について聞いてみてくれないか?』
と告げる。
『ブッルルー。了解したブッル。ちょっと待つブルよー』
ブルルンがそう返事をしてきたので俺は、
「――今、ブルルンに向こうの状況をオトラサマーに聞いて貰っている。今のうちに中へ戻るとしよう」
と、舞奈と紡を交互に見て言った。
そして、それに頷いてみせる舞奈と紡と共に、再び建物内へと戻る俺たち。
すると、中で待っていたかりんが、
「あ、戻ってきたわね。既に知っていると思うけど、この通り、地下への階段が隠されていたわ」
と、隠し階段を一瞥しつつ告げてくる。
「この階段……3階にあったものと同じタイプですね。ただ、上げ下げする為の鎖が見当たりませんが」
紡が階段を確認しながらそんな風に言うと、かりんが頷きつつそれに、
「そうね。私が見つけた時には、もうこの状態になっていたわ。階段自体は同じだけれど、上げ下げ出来るものじゃないんじゃないかしら?」
なんて言ってきた。
「まあ、上げ下げ出来るのであれば、タイルで隠しておく必要はないですしね。……というか、そもそもの話として、タイルなどという『傍から見ても怪しさ満点』なもので階段を隠した意図が良く分かりませんけど。どうして、木の板を使わなかったんでしょう……?」
舞奈がかりんに続くようにしてそう言いながら、足元――木製の床へと視線を向ける。
それに対して俺は「そうだな」と同意しつつ、
「木製の床にして隠す形だと、なんらかの不都合があった……と、そう考えるのが妥当だが……」
と、呟くように言って階段を見る。
階段そのものに何かあるようには見えないな……。となると、地下にその『なんらかの不都合』の答えがある……のか?
そんな風に思った所で、
「ブッルーブッルー、ご主人ー、涼太たちの方は一通り調べ終わったみたいブッル」
と告げてくるブルルン。
「お、そうなのか。それでなんだって?」
「ブッルルー、あそこにあったのは、『異空間』を発生させている術式であり、なおかつあの場所に流れ込んできた力――あ、魔力とか霊力とかそういう感じのエネルギーの事ブルゥ――を、『どこかに送る』術式でもある……と、結論づけたみたいブッルよー。残念ながら『どこに送る』ものだったかまでは、途切れていて分からなかったみたいブルね」
俺の問いかけに対し、ブルルンがそう返してくる。
「異空間を発生させている術式というのはともかく、魔力や霊力の類を、どこかに送る術式……?」
そんな風に俺が呟くように口にすると、
「それって、要するに魔力だか霊力だかの流れを制御する術式って事よね? ここ、その類の術式多いわねぇ……」
なんて事を言って肩をすくめてみせるかりん。
「そう言われてみるとその通りですね。反対側の棟にあった祭壇、ここの上の天球儀……と、その部屋自体、そしてその部屋へと通じる廊下の途中にあった円柱……」
頷きながらそう口にする舞奈に続くようにして、
「そもそも、建物全体に張り巡らされた『血が染み込んだ建材』自体にも、そういう一面があるしな」
と、そんな風に言う俺。
「うぅーん……。まるで建物全体が電気回路のようですね……」
なんて事を顎に手を当てながら言う紡。
そして、それに対して、
「あー……なるほど。たしかに家の配線みたいな感じですね」
と舞奈。
……家の配線?
ああ……舞奈の家のリビングは、テレビのあたりが凄まじいタコ足配線だったな。
いや、タコの足では足らないくらいか。
なんて思っていると、
「家というか、リビングのテレビ周りと舞奈の部屋の、ね。私の部屋もセラの部屋もあんなグチャグチャな配線にはなってないわよ?」
などという突っ込みをかりんが入れた。
……あそこだけじゃなくて、舞奈の部屋もそうなのか。いやまあ、なんとなく理由はわかるが。
「うぐっ!? そ、それはその……あ、あれです! コンセントがまったく足りていないのがいけないんです……っ!」
「使っていないゲーム機のコードは、抜いておけばいいと思うのだけど……。というより、そもそも出したままにせず、しまっておけばいい話ね。だって使っていないんだし」
「え、ええっと、そ、それはその――」
――そんな舞奈とかりんのやりとりを聞きながら、俺は考える。
電気回路……。電化製品の配線……か。
そう言えば、魔導器にも『魔力回路』というものがあるな。
基本的には魔力を伝達したり増幅したりする為のものだが……
って、まてよ? という事は……だ。
『この建物自体が、一種の魔導器のようなもの』だという可能性も、十分ありえるんじゃなかろうか……?
忘れがちですが、舞奈は割とズボラです。
(かりんとセラが一緒に住んでいるお陰で、最初期よりはマシになっていますが)
とまあ、そんな所でまた次回!
次の更新ですが……すいません、諸々立て込んでいる都合で若干間が空きまして、12月20日(金)の想定です……
(その次も、もしかしたら同じ更新間隔になるかもしれません……)
※追記
誤字を修正しました。




