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第113話 幻影と障壁と術式

 一見すると、首から先と手が壁に埋まっているようにも見える舞奈に対し、

「まさか、こんな所で幻影魔法――いや、幻術というべきか? ともかく、その類のものが使われているとは……」

 と、少し驚き気味に口にしつつ歩み寄る。

 

 そして、すり抜ける壁のあたりに試薬を撒いてみた。

 すると、程なくして青い光が床と壁から発せられる。

 

「どうやら『血』を使って、壁の幻を継続的に生み出しているようだ」

「それはまたなんとも嫌な方法ですね……。ただ、わざわざこれを作る為に血を使っているというのは、ちょっと妙な感じもしますね。普通の隠し扉でも良かったような気がするんですが……」

「それはまあ、たしかにそうだなぁ……。そうする方が手間もかからないし、わざわざこうした理由が良くわからんな」

 舞奈に対し、顎に手を当てながら同意の言葉を返す俺。

 そしてそのまま、

「ま、階段を下りてみれば何かわかるかもしれないし、とりあえず下りてみるとしよう。多分、かりんと紡もこの下にいるだろうし」

 と告げて、階段を下りていく。

 

 階段は、少し下りた所で左に曲がり、更に少し下りた所で再び左に曲がり……と、一種の螺旋階段のような構造になっていた。

 

「左端の壁を叩いた時の反応はこういう事か」

 納得しながらそう呟くと、舞奈が後ろから、

「ここが建物の『端』で、これ以上先には伸ばせなかった……といった所でしょうか」

 なんて言ってくる。

 

 俺はそれに対し、

「ああ。そう考えるのが妥当だろう。……案外、『縦幅と横幅』にも拡縮の制限があるのかもしれないな」

 と返事をし、更に階段を下りていく。

 

 そして、ちょうど『2階分』下りた所で、開かれたままのドアがあり、かりんと紡の姿がその先――どうやら、ここも部屋になっているらしい――にあった。

 予想通りここへ来ていたみたいだな。

 

「かりんと紡さんも、あのすり抜ける壁に気づいたんですね」

 舞奈がそんな風に声をかけると、

「あ、透真さんに舞奈さん」

「もう戻ってきていたのね」

 なんて返してくる紡とかりん。

 

「ああ。今、例の部屋で涼太たちが試薬を撒いている所だ。で、こっちの様子も気になったから、俺と舞奈でこうして見に来たって感じだな」

「なるほどね」

 俺の言葉に納得の表情で頷くかりん。

 そしてそれに続くようにして、

「私たちも、上の部屋にあった天球儀を調べた後、例の部屋へ戻ろうと思ったのですが、左右の壁と部屋の広さが合わない事に気づきまして……」

 と言ってくる紡。

 

「それで、壁に手を触れてみたらすり抜けた感じですか?」

「いえ、あの壁、実は最初は手で触れる事が出来たんですよ」

 舞奈の問いかけに対し、そんな風に紡が答える。

 ……って、触れる事が出来れた?

 

「それはどういう事だ?」

「あの右側の壁、一見すると木の壁に見えたのだけど、叩いてみたら『木の壁とは思えない硬い感じ』があったのよ。それで、試しに霊力の類で生成された結界とか障壁とかを解除する呪符を使ってみたら――」

「――あのように、見た目は壁そのままの状態ですり抜けるようになったんですよね。……いきなりそうなったので、私は体勢を崩して階段から落ちそうになりましたが」

 俺の問いかけに対し、かりんと紡がそんな風に返してくる。

 

「あ、私も同じく体勢を崩しましたね。どうにか耐えましたけど……」

「私は防御障壁で落下を防いだのですが、慌てていて強度調整を見誤って、もの凄い弾力の障壁が出来てしまって……」

 舞奈の言葉を聞いた紡が、そこまで口にした所で、

「……私の方に跳ね返って飛んできたのよねぇ……」

 なんて事を言って、やれやれと首を横に振るかりん。

 

「それはその……なんと言えばいいのやら……」

 と、困惑気味に言う舞奈を見ながら俺は――

 う、うーん……。なんとなくその時の光景が目に浮かぶなぁ……

 などと思いつつ、

「まあ、うん、それはそれとして……。要するにあの壁は、元々すり抜けるようなものではなかったが、呪符の力によってすり抜けるような性質へと変化した……と、そういう事か?」

 と、話の流れを本来の方向へと戻しつつ問いかけた。

 

 かりんはその問いかけに対して、肯定するように首を縦に振ると、

「ええ、その通りよ。もっとも……どうしてそんな変化が起こったのか――通る事が可能になったのに、壁の見た目自体はそのままなのか――というのは、さっぱり分からないのだけれど……ね。中途半端に障壁だけ解除されたのかも? って考えて、幻影の解除の方も試してみたけど……何の変化もなかったし」

 などと言って肩をすくめてみせる。

 

「うーん……。幻影と障壁の多重術式っぽい感じだったけど、幻影の解除を試みても解除されないとなると良くわからんな……」

 俺が腕を組みながらそう呟くように言った所で、

「血の力が生きていたようですし、解除した直後に再発動しているとかなのでは?」

 と、舞奈。

 

「ああそうか。継続的に『生成し続けている』のであれば、解除してもすぐに再生成されてしまうというのは、十分に考えられる話だな」

「なるほど……。言われてみると、たしかにそれはありえそうな気がするわ。だとすると――」

 納得した俺に続くようにそう呟くかりん。


 そしてそのまま階段を駆け上がっていき……

 2分もしないうちに、

「10秒間連続で解除し続けてみたら、その10秒間だけ幻が消えたわ」

 なんて事を言いながら戻ってきた。

 

「どうやら、あの血は『幻』を生み出すために使われていたようですね」

 舞奈がそんな風に言うと、

「そのようですね。ただ、そうなってくると『壁』の方は別の術式によって生み出されていた……という事になりますが、どうして血の力を使わなかったのでしょう?」

 という、もっともな疑問を口にする紡。

 

「障壁の方を血の力で継続的に生成し続けてしまうと、通るのが面倒になるからじゃないか?」

「そうねぇ。術式そのものを完全に解除しないと通れなくなってしまうわね」

 かりんが顎に手を当てながら、俺の発言に同意するようにそう言う。

 それに対して紡は納得の表情で、

「あ、なるほど……。要するに、継続的に生成しない方が通過する際の手間が省けると考えたわけですね」

 と言った。

 

「ああ。それと……本来は幻影だけだったが、それだけでは見破られるかもしれないと思って、後から障壁を追加した……というのも考えられるな」

「血の力を使った術式は幻影用に作ってしまっていて、後から障壁も……とはいかなかったわけですか。それもたしかにありそうですね」

 もうひとつの可能性について口にすると、今度は舞奈の方がそんな風に返し、頷いてみせた。

 そしてそのまま周囲を見回し、さらに言葉を紡ぐ。

「というか……この部屋自体にもなんらかの幻影が使われていそうな気がしませんか? そこまでの事をして、ここへと至る階段を隠していたにも関わらず、何もなさすぎですし……」

 

「たしかにそうだな。ここまでまったく何もないというのは、逆に不自然だ」

 俺がそう返すと、かりんと紡がそれに対し、

「そうね。でも、ただ『見えなくなっている』というわけでもなさそうなのよね」

「はい。隅々まで調べてみましたが『目に見えないもの』とかはありませんでした」

 なんて事をそれぞれ口にした。

 

「なるほど……。幻影ではない別の何か――術式が使われているかもしれないってわけか……。それなら、とりあえずこれを撒いてみるとしよう」

 俺はそう言いながら試薬を箱から数本取り出すと、それを床に撒く。

 

 すると、すぐにおなじみの青い光を放ち始めた。

 

 やはりというべきか、ここでも『血』を使っているってわけだな。

 だが……これは一体何だ?

 何かの図……紋様? いや、魔法陣……か?

 

 いわゆる、一般的な『円形の魔法陣』とは違う、『円形ではない魔法陣』のような気はするが……光を発している部分だけじゃ良く分からんな……

再び思った以上に長くなりましたが、ここまでは進めておきたかったので、一気にいきました……


とまあ、そんな所でまた次回!

次の更新も予定通りとなります、11月30日(土)の想定です!


※追記

誤字を修正しました。

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