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第112話 円柱と天球儀と部屋と

「これで大丈夫ですよね?」

 そう問いかけてきた舞奈に対して俺は、

「ああ、バッチリだ。さすがだな」

 と返事をすると、コピーの形代を媒体に魔法を発動した。

 

 すると、程なくして『例の文字』が円柱に浮かび上がってくる。

 

「う、うわぁ……。これにもびっしりと刻まれていたんですね……」

 パッと手を離し、少し後ずさりながらそんな事を言ってくる舞奈。

 

「予想通りと言えば予想通りだが、こいつは下の部屋と連動している術式だって事だな」

「これをさっきのようにグルグルと回転させる事で、術式を発動させていたんでしょうか?」

「おそらくそうだろうが、さすがにさっきのように手動で回転させていたわけではないと思うぞ……。手動で回し続けるのは、いくらなんでも骨が折れるしな」

 舞奈の発言にそう返事をしつつ、肩をすくめてみせる俺。

 

 もしこれを手動で誰かが延々と回していたら、その絵面はシュールすぎる……

 なんて事を思っていると、舞奈が「といいますと?」という、もっともな疑問を口にしてきた。

 それに対して俺は、

「なんらかの霊的な力――もっと言うと、魔力とか霊力とかそういったもの――の流れによって、自動的に回転していたんだと思うぞ。もっとも、自然に流れるようなものじゃないから、意図的にその流れを作っていたんだろうが」

 と、そんな風に説明する。

 

「意図的な流れによる自動で回転……ですか?」

 などと、小首を傾げながら問いかけてくる舞奈。

 それに対して俺は、顎に手を当て、少し考えてから答える。

「うーん、そうだな……。水路と水車のようなものだと考えればわかりやすいか? 水を流すために作られた水路の途中に水車を作れば、その水車は水路に水の流れが生じると共に、自然と回り始めるだろ?」

 

「あ、なるほど……そういう感じですか。たしかにそれなら色々と納得です」

 舞奈は納得の表情でそう答えると、廊下の奥へと視線を向け、

「となると、そのなんらかの霊的な力の流れの起点はこの奥に?」

 なんて事を言ってきた。


「そう考えるのが妥当だが……この施設にはダークゾーンやテレポーターみたいに、『今も術式が発動する、あるいは発動し続けている場所』があちこちにあるからな。ここも稼働していた時は、自然に霊的な力の流れが発生する仕組みになっていた……というのは、十分に考えられる」

「言われてみるとたしかにそうですね……。ですが、そうなってくるとこの床はもしや……」

 俺の発言に対して、舞奈はそんな風に言いつつ床を見る。

 

「そうだな。『そういう事』である可能性が高いな」

 と返事をしながら涼太から受け取った箱から試薬を取り出し、床に撒く。

 

 すると、案の定というべきか、即座に青い光が床から発せられ始めた。

 

「やはり、血ですか……。こちらはこの床そのものが血塗られた建材のようですね。この円柱が術式の中枢である事を考えたら、ある意味当然かもしれませんが」

「ああ。この血塗られた床は、円柱に対して霊的な力の流れを生み出す為のもの……と、そう考えていいだろう」

「ここで流れが生み出されて、そして円柱が自動的に回転していたわけですね」

「そういう事だ」

「この仕組みだと、水車というよりは『自家発電』に近い感じですね」

「あー、言われてみるとそうだな。この場で力を生み出して、この場で使っているわけだしな」

「でも、その力が枯渇しているのは何故なんでしょう?」

「そこまでは分からないが、枯渇しているというよりかは、力を吸い上げる術式が壊れているんじゃないか? あとそうだな……これが稼働していた時とは違って、今は別の所に流れるようになっている……というのも考えられるか」

 俺は舞奈の疑問に対してそう返しつつ、奥へと視線を向ける。

 

 するとそこで、

「……この先にあるのは、例の本が置かれた祭壇部屋だと思っていましたが、この感じだとまったく別の物が置かれている部屋かもしれませんね……」

 なんて事を言ってくる舞奈。

 それに対して俺は、

「……ああ、俺もそんな気がしている」

 と返事をしつつ、奥へと向かって歩き出す。

 

 ――少し進んだ所で円柱が途切れ、反対側の廊下とまったく同じドアが見えてきた。

 

「見た感じは、向こう側にあった部屋と同じですね」

「そうだな。中も同じなのかどうかまではわからないが……」

 俺は舞奈に対してそう返事をしつつドアへと近づき、そして開け放った。

 

「これは……」

「祭壇がありませんね……。あくまでも『祭壇は』ですが」

 そんな風に俺に続いて舞奈が口にした通り、部屋のつくりそのものは、反対側の祭壇のあった部屋と同じだったが、祭壇はなかった。

 だがまあ……そこは予想していた事ではある。ならば、そこに何があるのかというと……

 

「その代わり『天球儀』があるからな……」

 と告げる俺。

 

 そう、祭壇の代わりに部屋にあったのは天球儀だったのだ。

 それも、例の異空間でミイを拘束していたものと、『大きさ以外はまったく同じ』ものだ。

 さすがにこれが置かれているとは思ってもいなかったぞ……

 

「これはこれでとんでもない代物ですね。あの異空間にあったものとは違って、こっちのこれは私よりもひとまわり……いえ、ふたまわり大きい程度ですが」

「ま、部屋の広さを考えたら、あんなバカでかいものは置けるわけがないしな」

「それはまあ……もっともな話ですけど、ここの『広さ』って結構いい加減ですし、ここもあれが置けるくらい広くすればよかったのでは……」

 俺の返答に対し、そんな風に返してくる舞奈。

 

「たしかにその通りではあるが……何かそうする事が出来ない理由が――」

 俺はそこまで口にした所で、『一番ありえそうな理由』について思い至った。

「――もしかしたら……だが、『縦幅と横幅』は自由自在に拡縮する事が出来ても、『高さ』の方は無理だったのかもしれない。いわゆる『X軸』『Y軸』『Z軸』……これらは、それぞれ拡縮するのに別の術式が必要になる事が多いからな」

 

「なるほど……そういうものなのですね。だとしたら、Z軸――高さを変化させられないという制限があって、それゆえに天井までの高さを確保出来ずに、小さな天球儀を配置するしかなかったとしても、なんらおかしくはありませんね」

 納得の表情で返事をしてきた舞奈に対し、俺は「ああ」と頷いてみせると、そのまま部屋の中を見回し、

「それはそうと、かりんと紡の姿が見えないな……。てっきりここにいると思ったんだが」

 と、呟くように言った。

 

「そう言えばそうですね。ここが終点です……し?」

 舞奈が部屋を見回した所で何か気になったのか首を傾げた。

 それに対して、「どうかしたのか?」と問いかける俺。

 

「あ、はい。かりんや紡さんの姿が見えない事とは関係な――いえ、もしかしたら関係あるのかもしれませんが……この部屋なんですけど、こう……ひとまわり『狭い』気がしませんか?」

 そう返事をしてくる舞奈に、「うん?」と口にしつつ再び見回してみる。

 

 うーん、なるほど……。たしかにちょっと狭いような気がするな……と思い、

「言われてみると、少し狭い気がするな」

 と返すと、舞奈はそれに「ですよね」と返事をしつつ、部屋の外へと出ていった。

 

 そして、それに続くようにして俺も部屋の外へと出ると、

「……やはり、廊下の横幅と部屋の横幅が合っていませんね。まあ、異空間なので、廊下の幅の方が広げられているとか、むしろこの部屋だけ逆に幅が縮められているという可能性もなくはないですが……」

 と、舞奈がそんな風に言ってくる。

 

 たしかに可能性としてはありえなくもないだろうが、普通に考えれば――

「この部屋の横幅だけ縮める、あるいはこの部屋は元のままにして廊下だけ広げるっていう行為に、何らかの意図……理由があるとは思えない。という事は……」

 俺はそこまで言葉を紡ぐと、そこで一度切って廊下の左端へと移動。壁を叩いてみる。

 

「……壁の向こうに空洞があるな」

「つまり、まだ『奥』があるというわけですね。となるとこっちは?」

 舞奈は俺に続くようにそう呟きながら、俺とは反対側――廊下の右端へと移動。

 俺と同じく壁を叩――

「わわわっ!?」

 ――こうとして、その手が壁をすり抜け、体勢を崩した。

 

 しかしすぐに立て直し、

「こ、これ、壁に見えるだけの幻です! そして階段です! 下り階段があります!」

 などと、壁に顔を突っ込んだままの状態で告げてくる。

 うーん、なんだかちょっとシュールな光景だ……

 

 っと、それはそれとして、まさかここでこのタイプの隠し通路――隠し階段が出てくるとは……

 天球儀といいこれといい、なんとも予想外だらけって感じだ。

部屋の広さの違和感に舞奈が気づく時点で、思ったよりも長くなってしまっていた為、そこで区切ろうかどうか迷ったのですが、隠し通路を発見する所までは進めておきたかったので、一気にここまでいってしまいました(その結果、さらに長くなってしまいましたが、そこはまあ仕方がないという事で……)


とまあ、そんな所でまた次回!

次の更新も予定通りとなります、11月27日(火)の想定です!


※追記

誤字を修正しました。

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