第104話 呪術式と異空間と繋がりと
他の部屋も調べてみた方が良いと思い、他の部屋も調べてみるも、
「トットラァ……。同じような呪いの部屋ばかりでありますトーラァ……」
なんて事をオトラサマーが言いながら項垂れたように、どの部屋も一番最初に調べた呪いの術式――呪術式とでも言えばいいのだろうか? それが幾つも存在している感じだった。
もっとも――
「ただ、少しずつ違うんですよね。この違いはなんなのでしょう?」
紡が壁の文字――『目視可能にした呪術式』――を確認しつつ、首を傾げながらそんな事を口にする。
そう、あくまでも『同じような』であり、部屋ごとに呪術式は少しずつ異なっているのだ。
ちなみに、毎回俺が作ると形代をガンガン消耗してしまうので、舞奈がコピーしたものを使っていたりする。
効果時間はかなり短くなってしまうのだが、別に術式をじっくりと解析したいわけでもないので、少しの間だけ見えていれば、それで問題はない。
こういう場面では、相変わらず強力かつ便利すぎるコピーだな。
「あの異空間に現れたゾンビや幽霊などは少しずつ見た目や性質――攻撃手段や動き――が異なっていましたし、これらの違いは、それぞれ異なる死霊を生み出す為の『差』なのではないかと」
舞奈が紡の疑問に対して推測を口にすると、紡と同じく呪術式を見ていたかりんが、
「そうねぇ……。その差――術式の中の異なっている部分によって、生み出されるものも変わる……と、そう考えるのが妥当だとは思うけれど、もしそうだとしたら、これらはあの異空間の為に作り出したって事になるのよねぇ」
などと呟くように言い、そして考え込む。
「その異空間に取り込まれた後に、取り込まれた者が作ったですかね?」
「ここまでのものを作れる奴が、簡単にあそこに取り込まれるとも思えないというか、取り込まれた所で、簡単に建物ごと外へ離脱させる事すら出来そうな感じだがなぁ……」
悠花の言葉に対し、俺はそんな風に返し……た所で、ふと思う。
――まさか、あの異空間に取り込まれたのではなく、自ら取り込ませた……?
と。
「この建物自体が、あの異空間に取り込まれる前提で作られていた……というのは、大いにあり得そうですね」
当然のように俺の思った事を先読みして、そう言ってくる舞奈。
それに対して、また俺の思っている事を読みながら返してきたな……と思いつつも、そこはスルーして、
「そうだな。意図的に取り込ませたと考えれば、この部屋の数々も納得だ」
と、頷きながら返事をする。
するとその直後、
「ちょっとー、舞奈お姉ちゃんー? 考えてる事を口にする前に理解しながら話されると、なにがなんだかわからないんだけどー? エスパーじゃないけど相手の考えてる事がわかっちゃう舞奈お姉ちゃんとは違うのー」
などという、ある意味もっともな突っ込みをセラが入れてきた。
「あっ。そ、そうですね……。すいません……」
そう申し訳なさそうに言いつつ、頬を掻く舞奈に続くようにして、
「まあ要するに、この施設を作った何者かは、あの異空間にこの施設を取り込ませるべく手を打っていた――あれこれしていたんじゃないかって事さ」
と、そんな風にセラの方を見て告げる俺。
すると、セラの腕の中にいつの間にか収まっていたブルルンが、
「ブッルルゥ。そうするとブッル、もしかしたら紡や咲彩の通っている学校も、いずれあの異空間に丸ごと取り込むつもりだったのかもしれないブルねー」
なんて事を言ってきた。
「なるほど……。それはたしかにないとは言い切れないな……」
腕を組みながら俺がそう口にすると、紡が頬を人差し指で掻きながら、
「そ、それはまたちょっと……いえ、かなり怖い話ですね。でも、たしかにこの施設にも似たような術式が組まれているという話でしたし、ありえそうな感じもします……」
と、そんな風に呟く。
「そもそもの話になるのだけれど……あの異空間って、いまだに良くわかっていないというか、謎のままになっている所がいくつかあるわよね?」
「そうだな。血のプール――召喚魔法陣なんかは謎のままだな。あの幽霊屋敷が外に戻ってもなお状態が継続していた……というより、取り込まれていた時よりもヤバくなった理由も良く分からんし」
かりんの疑問に対して俺がそう答えると、
「中枢のような存在だと思われていたミイちゃんですら、あそこに取り込まれていた『諸々のオカルト』……あるいは『諸々のホラー』のひとつでしかありませんでしたからね」
などと言ってくる舞奈。
「まあ……諸々のオカルトだのホラーだのという言い回しで一括りにしていいのかはともかく、たしかにあの異空間は『色々なものの集合体』ではあったな」
「うーん、なるほど……。その異空間はもしかしたら、オカルトやホラーなどを集積して、それらが持つ『恐怖』を――『負』の力を結合して高める為の……『増幅装置』あるいは『融合装置』のようなものだったのかもしれないね」
俺の言葉に続くようにして、涼太が何かを考える仕草をしながら、そんな事を言ってくる。
「それってつまり、ひとつひとつは小さな怪談でしかないけれど、それらが複数集まった事で、より大きな怪談へと発展するような、そんな感じよね? それこそ、学校の七不思議とかがその良い例だけど」
「あ、なるほど。たしかに学校の七不思議は、文字通り7つの小さな怪談によって構成された1つの大きな怪談話ですね。怪談話がひとつふたつあったくらいでは、学校の七不思議などとは呼ばれませんし」
かりんの発言に納得した舞奈がそう口にすると、
「そうだね。都市伝説なんかもそういう性質があるね。噂がまるで真実であるかの如く広まる事によって、最初は大した事のなかった怪異――力の弱い悪鬼妖魔が人々の恐怖を糧として、噂通りの力を持つに至る……というのは、実際にある話だし」
なんて事を涼太が頷きながら言ってきた。
というか、そんな事あるのか……
いや……破壊の化身――あの魂の欠片によって人間や動物などが異形化するのも、ある意味では『それ』と根幹は同じ……なのだろうか?
と、そんな感じで思考を巡らせていると、
「あの異空間がそういったものだとして、誰が何の為にそのような事を?」
などと、ある意味もっともな疑問を紡が口にしてきた。
「うーん……。それに関してはさっぱりだな……」
そう返しつつも、俺はふと、カナの父親を取り込んでいたというか合体していたというか……ともかくリッチやノーライフキングの如き存在と同種の波動を放っていた奴が、『赤黒キ世界』は『幻想ナル異界』の『扉』だとか、そんな事を口にしていたのを思い出す。
……『誰が』の方は不明だが、『何の為に』の方は、まさか『俺のいた世界』への扉を開く事……だったりする……のか?
思ったよりも長くなってしまったので、一旦ここで区切りました……
とまあ、そんな所でまた次回!
次の更新も予定通りとなります、10月30日(水)の想定です!
※追記
誤字を修正しました。




