第44話 変異せし者
「――んで……」
璃紗が口を動かすも、何を言ったのか良く聞き取れなかった。
俺と舞奈は璃紗に顔を向け、「え?」という言葉を発する。
「……なんで、邪魔をするの?」
「じゃ、邪魔って……。貴方は何を言っているんですか!?」
「本当は……本当なら……紘都兄ぃの隣りには、あの女じゃなくて……私がいるはずだったっ! 川と年齢の壁に阻まれさえしなければ……っ! だったら……だったら、そんな壁は『壊せば』いいっ! あの女を『壊せば』いいっ! 壁があるからと諦める必要なんてないっ! あいつの場所を『壊して』奪えばいいっ! なのに……なのに、なんで邪魔をするのっ!? アンタも壊せばいいのっ!?」
悪鬼の形相で、そんな怒号を発し、舞奈に腕を『伸ばして』襲いかかる璃紗。
その『影』は既に人の形をしていなかった。
「おっと、届かせると思うなよ?」
俺は即座に障壁魔法を舞奈の前に展開し、伸びた腕をブロックする。
「い、一体……何がどうなっているんです……!? う、腕が伸びるなんて……っ! しかも、わけのわからない事を話していますし……っ!」
「まあ……簡単に言えば、本当に『魔が差した』状態だな」
防がれるとは思っていなかったのか、なにやら先程以上に意味不明な事を口走り始める璃紗を注視しつつ、舞奈の疑問に答える俺。
それだけ言えば舞奈なら理解出来るはずだ
「つ、つまり……あの子の心の中に、本当に悪魔の如き存在が入り込んでいる……という事ですか?」
「そうだ。千堂部長の妹は、破壊の化身……あるいは破壊神、そう呼ばれる邪悪な存在の欠片に魅入られて――心の隙間に入り込まれて、こうなっているんだ」
「そ、そんなものが……?」
「ああ。『壊す』という言葉をしきりに発しているのが、分かりやすい証拠だ。あれはその人物が持つ負の感情――心の奥底に蓋をして押し留めているネガティブな思考や言動といった物を表に出させて、破壊の力によってそれを成し遂げるよう仕向けるからな」
「な、なるほど……。ですが、どうしてそのようなものを……?」
「……それに関しては俺も分からん。欠片は学校内にあった――顕現したものだと思うが、どうして学校内に欠片が顕現し、そして千堂部長の妹を狙ったのかって部分に関しては、正直言ってさっぱりだ」
俺はそう言って首を横に振る。
まあもっとも……運悪く顕現した時に近くにいたから、というだけの可能性も普通にあり得たりするんだが。
なにしろ、あの破壊の化身は『破壊』以外の目的を持たない。そういう存在だ。
取り憑いて、破壊の力に魅入らせて人間に破壊行為をさせているのは、単に欠片程度ではそうする以外に何も出来ないからにすぎないしな。
ただ……その場合は、逆に璃紗がどうしてあんな場所に行ったのか? という話になるのだが……
そんな事を思案していると、舞奈が恐る恐るといった感じで、
「ち、ちなみに、助ける事は……?」
そう俺に問いかけて来る。
その声からは、もし助ける手段がなかったらどうしようかという思いが見え隠れしていた。
ほう。この状況で助けようという思考が真っ先に来るか。
ああ、そういえばあのコウイチもそんな感じだったしな。
そして……だからこそ、俺はあいつの希望に応え、力を貸したのだ。
そう……ゆえに今回も当然、舞奈の希望に応えるとしようじゃないか。
最後の調整に手間取った為、若干更新が遅くなりました……




