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第101話 仕掛けと仕掛け、その先

「トッララー。下は、ちょうどあの針山があった部屋でありますトーラねー。針山がバッチリシッカリクッキリ見えるでありますトラァー」

 オトラサマーが穴の上から下を覗きながらそう言ってくる。

 

 その言葉に、俺は悠花が落下しかけた――正確には一瞬落下した――穴から同じく下を覗いてみる。

 するとたしかに下は例の落とし穴のあった部屋で、下の部屋の落とし穴も開いた状態になっていた。

 あの部屋から出る時には閉まっていたので、今ので開いたという事になるな……

 

「要するにこれは、大きなスイッチだったというわけね。まあ……ある意味、見た目通りだと言えなくもないわね」

 台座を見ながら、呟くようにそう言ったかりんに対して舞奈は、

「そうですね。しかも、下の穴も同時に開くという事を考えると、ここで落とし穴を動作させて、一気にあの針山まで落とす……というのが本来の使い方だったんだと思います」

 と、頷きつつ落とし穴の下――針山を確認し、そんな風に返す。

 

「捕らえた侵入者を、ここから落として始末していたのでしょうか?」

「手前の部屋の拷問具と合わせて考えれば、そう考えるのが一番しっくりきますね。もっとも……ここから落とす前に既に死んでいた人の方が多そうですけど」

 紡の疑問に、舞奈はそう答えて首を横に振ってみせた。

 

「うーん……たしかに、なのです」

 悠花はそう口にしつつ頷くも、すぐに顎に手を当て、

「……でも、悠花は少し気になっている事があるのです」

 なんて言った。


「気になっている事……ですか?」

「それは一体なんでしょう?」

 そんな風に紡と舞奈が問うと、

「そもそもの話として……ここって、そんなに頻繁に侵入者が来るものなのです?」

 という言葉と共に、小首を傾げてみせる悠花。

 

「なるほど……。たしかにそこは気になる所だな」

「そうだね。こんな山奥の施設への侵入者となると、この施設の存在を知っている上で、ここで何か怪しい事が行われていると判断して、調査する事にした組織の人間くらいな気がするけど、少なくとも『ウチ』に、この辺りを調査した記録はなかったはず」

 俺の呟きに続くようにして、そんな風に言ってくる涼太。

 そしてそのまま腕を組み、

「まあ、六翼のワイアームの一件を考えると、どこか別の組織に常に付け狙われていた可能性もないとは言えないけど……」

 と、言葉を続けた。

 

「そうねぇ……。大した物があるわけでもないのに、過剰すぎる術式の数々が施されている事を考えると、この施設を作った所と別の所で、日々暗闘が繰り広げられていた……というのは、あり得なくもない話ね」

 そんな風にかりんが口にした直後、

「あれ? ここの壁、動きそう? 色が違う上に壁に隙間があるしー」

「ブッルルゥ。明かりが弱くて分かりづらいブルけど、たしかにそんな感じブッルねー」

 なんていう声が聞こえてきた。

 

 そう言えばセラとブルルンは鉄球を探していたんだったな……

 と思いながら、声のした方――セラたちのいる方へと歩み寄り、壁際で光球を生み出す俺。

 するとそこへ紡がやってきて、光球を障壁で覆った。

 直後、一気に明るさが増し、壁がくっきりと浮かび上がる。

 たしかに壁の色が明らかに違い、壁に隙間があるので動きそうに見える。

 

「うーん……。この壁、色が違うだけじゃなくて、明らかに材質が違うというか……プラスチックの類だね」

 と、そんな事を壁を叩きながら言ってくる涼太。

 それに続くようにして舞奈が壁に触れ、力を込めながら、

「どう考えても動く壁でしかない……といいますか、隠す気がまったくない感じですが……誰でも通れるというわけではないようですね。どうも何かで強力にロックされていて、力を込めてもまったく動かせま――」

 などとそこまで言った所で、バキッという音が響く。

 

「――え、えっと……」

「……思いっきり壊したわね……」

 頬を掻きながら呟く舞奈に対し、呆れた表情と声でそう返すかりん。

 

「あ、で、でも、ロックが壊れたお陰で動きます。ほら!」

 なんて言いながら舞奈が壁を押すと、壁が中心部分を支点としてクルッと回転した。

 それに対し、

「まさかの回転式……」

「まるで、忍者屋敷なのです」

 と、そう口にする俺と悠花。

 

「特にトラップもなさそうだし、今のロックくらいしか阻む仕組みはなさそうだね」

「トッラトッラー。たしかに何もトラップの類はなさそうでありますトォラァー」

 涼太とオトラサマーが壁と壁の周囲を確認しながらそんな風に告げてくる。

 そしてそれに続くようにして、

「これまでの仕掛けを考えると、随分と簡単な仕掛けねぇ……。それほど重要でもないのかしらね?」

 と、かりんが顎に手を当てながら言った。

 

「うーん……どうなんでしょう? あ、でも、壁の先は再び廊下のようですね」

 舞奈は隠し扉の先を確認しつつ、かりんに対してそんな風に返す。

 そしてセラがその横から、その通路を見ながら告げる。

「あれ? この先はダークゾーンじゃないっぽいよー。暗いには暗いけど、ダークゾーンほど先が見えないわけじゃないしー」

 

「たしかにそうだな……。よし、早速試してみるか」

 そう口にしつつ光球を壁の向こう側へと投げ入れる俺。

 

 すると、紡の障壁なしでも十分すぎる明るさを発揮した。

 というか……十分すぎてむしろ眩しい。

 

「どうやら、ダークゾーンはここまでのようですね」

「この先はダークゾーンだと、なんらかの不都合がある……って事なのかしらね?」

 紡とかりんのそんな言葉に、

「不都合……か。何か別の魔法――術式があって、それがダークゾーンの術式と、互いに干渉しあってしまう……とか、そんな感じなのかもしれないな」

 と、そう推測を口にする俺。

 そしてそのままブルルンの方を見て、「どうだ?」と、問いかけた。

 

「ブッルルー。たしかに何か別の術式があるみたいブッルねー。発動してる感じはしないブルけどー」

 と、そんな風に返事をしてくるブルルン。

 

「発動してないなら、ある意味好都合だな。今の内にどんな代物なのか、近づいて確認するか。――ブルルン、その術式がある所へ案内してくれ」

「ブッルブッルゥ! 了解ブルゥー! 複数あるブルから、一番近い所に案内するブッルねー」

 俺に対してブルルンがクルリと一回転しながらそう言ってくる。

 ……どうしてそこで一回転したのかは、さっぱりわからないが。

 

 っと、それはそれとして『複数』……か。

 『複数』となると、大掛かりな術式が連想出来るが、そのようなものであれば、もう少し俺にも感じ取れるはずだから、むしろその逆……凄く限定的な術式がいくつもあると考えた方が良さそうだが……果たしてどんなものがあるのやら、だな。

ここに来て、力任せの隠し扉開通です(何)


とまあ、そんなこんなでまた次回!

次の更新も予定通りとなります、10月19日(土)の想定です!


※追記

誤字を修正しました。

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