第91話 石碑の文字
「……この石碑、やはり霊力を纏っているな……」
石碑を確認しながら俺がそう呟くと、
「霊力……ですか?」
と、首を傾げながらそう返してくる舞奈。
そんな舞奈に俺は頷き、そして答える。
「ああ。ここまで近づいてようやく気づけたくらい、わずかなものではあるがな」
「なるほど……。私には感じられないのでなんとも言えませんが、わずかとはいえ霊力を纏っているという時点で、『なにか』はありそうですね……」
「そうだな。というか……この感じ、もしかしたら文字の方が『なんらかの力』を持っているのかもしれない」
俺は舞奈にそう返事をすると、石碑に刻まれている文字らしきものを詳しく調べてみる。
だが……
「これは……文字……なのか? まったく読めないぞ……」
「崩れた漢字のようなものと記号のようなものの組み合わせ……?」
俺に続いてそう舞奈が言った通り、石碑には漢字を崩したかのような文字と、まるで記号のような文字が刻まれていたが、俺にさっぱり読めなかった。
というか、舞奈にも読めなさそうな感じだなぁ……これは。
「ちなみに、舞奈は読めそうか?」
「いえ……。残念ながらまったくわかりませんね……」
俺の問いかけに対して、舞奈は首を横に振ってそう返してくる。
そして、そのまま文字を凝視しつつ、
「ただ……。見た目の雰囲気的には、神代文字や出雲文字といったものに類似しているような感じがします」
と、そんな風に言葉を続けてきた。
神代……。つまり、かなり古い時代の文字かもしれないって事か。
「もしこれが古い時代の文字なのだとしたら、かりんが読めたりする……のか?」
「どうでしょうね……。これが本当に神代文字や出雲文字の類だとしたら、かりんの時代でも使われてはいませんでしたし、さすがに読めないのではないかと……」
俺の発言に対して、そんな風に返してくる舞奈。
なるほど……。かりんの時代よりも更に前のものなのか……
「とりあえず、これはどうにもなりませんね……」
お手上げだと言わんばかりの仕草をしながら首を横に振り、そう言ってくる舞奈に対し、俺は「そうだな……」と答えつつスマホを構える。
そして、
「まあ、とりあえず写真だけ撮っておくか」
と言って写真を撮った。
「でも、この石碑……。ここに建物が『戻ってくる』まではありませんでしたよね? というより、さっきの大岩も」
「あー……言われてみるとたしかにその通りだな……。――近くの大岩ごと異空間に取り込まれていた石碑……か。明らかにどちらもなにかありそうな感じだが、刻まれている文字が読めない以上、どうにもならんな」
「そうですね……。まあ……とりあえずあの大岩を戻してきますね。例の異空間に石碑と一緒に取り込まれていたわけですし、もしも要石の類だったら大変ですから」
俺に対して舞奈はそう返すと、再び先程の窓の方へと駆け寄り、自分が放り投げた大岩を持ち上げて元の場所へと戻し始める。
うーん……。やっぱり凄い絵面だな……
なんていうどうでもいい事を考えている間に、舞奈は俺のいる所へと戻ってきて、
「戻してきました。それで……当初の予定通り、かりんたちと合流します?」
と、問いかけてきた。おっと……
「ああそうだな。そうするとしよう。かりんたちが居るであろう場所は……ブルルンの反応的にあっちだな」
俺は舞奈に頷きつつブルルンの居場所を探って、そんな風に告げる。
「では、早速行ってみましょうか。……向こうの窓も入れないようになっていたりすると困りますが……」
「まあ……大丈夫だとは思うが、もしその時は入れる所まで戻って入るしかないな……」
あり得ないとは言い切れない懸念について話しながら、先程の建物とは庭を挟んで反対側に位置する建物へと移動する俺と舞奈。
――だが、幸いにも窓は普通に入れる状態だった。
どうやら、ここはまだ多重空間の境界にはなっていないようだ。
「杞憂だったようだな」
「はい、良かったです」
なんて事を口にしつつ、窓から建物内へと飛び込む俺たち。
文字通り跳躍で、だ。
するとその直後、「わわっ!?」という悠花の驚きの声が聞こえた。
そしてそこに、
「……いきなり窓から飛び込んで来るとは思わなかったわ……」
「びっくりしたー」
「なんとなく窓から来るような気がしていました」
という、かりん、セラ、紡の声が続く。
涼太も声こそ発さないが悠花、かりん、セラと同じく驚きの表情をしている。
……紡だけは何故か予想していたらしく、まったく驚いていないが。
「あ、すいません……。もう少し静かに入るべきでしたね……」
「そういう問題でもないと思うけど……でも、どうして窓から来たのよ?」
舞奈の謝罪の言葉に対し、かりんが少し呆れ気味の表情で腕を組みながらそう問いかける。
「ああ、それは廊下をぐるっと回ってくるよりも庭を突っ切った方が早いかもしれないと舞奈に言われてな。たしかにその通りだと思ったから実際に突っ切ってきた感じだ」
「あ、なるほど。言われてみるとたしかにそうだね」
俺の発言に対し、かりんに代わって涼太が納得の表情でそう返してくる。
「ブッルルー。ところで、舞奈がものすごーく強力な強化魔法を発動していた感じだったブッルけど、もしかして窓を蹴破ったブルー?」
「トッラトッラー。たしかに気になるトーラーねー」
なんていう、まあ一番気になるだろうな……という疑問を投げかけてきたブルルンとオトラサマーに対し、舞奈は頬に手を当て、
「残念ながら蹴破れませんでした」
と、まさに残念そうな表情で言いながら首を横に振ってみせた。
「蹴破ろうとはしたのね……」
かりんが肩をすくめ、ため息混じりにそう口にすると、それに対して、
「い、一応、先に大岩を投げつけて、蹴っても大丈夫かどうか確認しましたよ」
などと、少し言い訳っぽい返し方をする舞奈。
「大岩を投げつけるって……。それ、蹴破る以上にどうかと思うわ……」
さらに呆れた表情で言うかりんに、舞奈は「うぐっ……」と呻いて言葉に詰まった。
――これに関してはかりんが呆れるのも分かるというものなので、舞奈に対して助け舟を出すのは少し難しいな。
でもまあ、とりあえず話題を変えてやるか……
「それはそれとして、こっちへ来る途中で石碑があったんだが、そこに記されている文字が読めなくてな……。かりん、こいつが読めたりするか?」
そんな風に言いながら、俺はスマホの画面をかりんに対して向けてみる。
「読めない文字?」
首を傾げながらスマホの画面を見るかりん。
そして、
「これは神代文字……かしら。……いえ、ちょっと違うわね……」
と呟いた。
「えっと……。ちょっと見せてもらってもいいですか?」
と言いながら紡がスマホの画面を見る。
しかし、
「なるほど……。たしかに神代文字っぽいものもありますが、見た事のない文字もありますね」
という、かりんと同じような反応を示した。
ふたりがそんな風に言うという事は、これは古い時代の文字ではないという事なのだろうか……?
「あ、悠花も見せて欲しいのです!」
「俺も気になるから見せてもらっていいかい?」
悠花と涼太がほぼ同時にそう言ってきた所で、
「その写真を、グループに上げてしまった方が早い気がしますね」
と、そんな風に舞奈が言ってくる。
そ、そう言われてみると、そんな方法あったな……
あまり使わないからすっかり忘れていたぞ……
大分馴染んでいるとはいえ、根っこの部分は異世界人なので……というやつですね。
とまあ、そんなところでまた次回!
次の更新も予定通りとなります、9月14日(土)の想定です!




