第90話 多重空間の境界
「えっと……『多重空間の境界』……というのは?」
「通常の空間と異なる『別の空間』が同時に介在している地点……といった所か? こちら側ではここは『壁』になっているが、その別の空間内ではここは『窓』なんだ。だから、窓の向こう側――異なる別の空間に向かって窓を開けるなり壊すなりして進もうとしても、あの黒い壁――本来の『こちら側の壁』に阻まれてしまうってわけだ」
俺は舞奈に対してそう説明するが、舞奈はその説明では理解出来なかったらしく、「ん? んん?」と呟きながら首を捻って考え始める。
う、うーん……。やっぱり分かりづらい説明だった気がするな……
どう説明したものか……と思案していると、
「……窓と壁が『同じ場所に重なって』いて、窓でもあり壁でもある……という事ですか? 要するにダンジョンRPGによくある『一方通行の扉や通路』みたいな感じで、片方向からは通過出来ても反対側からは通過出来ない……?」
と、そんな風に例を上げて問いかけてくる舞奈。
さすがと言うべきなのか、ゲームに当てはめて考える事で理解に至ったらしい。
たしかにダンジョンRPGと呼ばれているゲームには、そういうのあったな。
もっとも、向こうの世界のダンジョンにも『実際に』存在していたけど。
なんて事を思いつつ、
「ああ、そういう事だ。ただし視覚的には逆転するけどな。本来内側にあるものが外側に見え、外側にあるものが内側に見えるわけだし」
と、頷きながら返事をする俺。
「外――こちらからは『中の空間の外側』が見えている……というわけですね」
「その通りだ。まあ、その辺りは『例の幽霊宿』に近いっちゃ近いな」
舞奈の言葉に同意しつつそう告げると、舞奈は納得の表情で、
「特定の条件で、通過出来たり出来なかったりする……。なるほど、たしかに似ていますね」
と、そんな風に呟くように言った。
直後――
「……って! 待ってください! それだと、私たちが出てきた窓も入れないのでは!?」
なんて事を、少し慌て気味に口にする舞奈。
それに対して俺は、うんまあその心配はしたくなるよなぁ……と思いつつ答える。
「いや、あそこは普通の窓だった。というか普通じゃない窓だったら、窓に手をかけた時点で気づくって」
「あ……。たしかに言われてみるとそうですね……」
舞奈はそう言いつつ、納得と共に一安心した表情を見せる。
そして、
「でも、どうしてここだけ? そもそも、これは最初からなんですかね?」
という、新たな疑問を口にした。
それに対して俺は、
「うーん……。最初からこうだったのかどうかは、さすがにわからないが、例の異空間から戻ってきてもそのままだという事は、少なくともこれが作られたのは、異空間に取り込まれるよりも前だという事になるな」
と、腕を組みながら答える。
「なるほど……。この建物はあの異空間に取り込まれる前からそういう風になっていた……。つまり、元から『魔術的なものが張り巡らされた建物だった』という事ですか」
「ああ。そういう事だと思う」
舞奈に対して頷きながらそう返すと、俺は一呼吸置いてから、
「そして、もうひとつの疑問――『どうしてここだけ?』という点についてだが……それに関しては、むしろ逆なのかもしれん」
という続きの言葉を紡いだ。
「逆……ですか?」
「ああ。要するに『ここだけ』なのではなく、入口からある程度の所までが『敢えて術式などを張り巡らせていない区画』なのかもしれないって事だ」
「……なるほど。そうだとすると、ここまで調べてきた場所が『異質感はありつつも、それなりに普通っぽさも感じられた』のは、『居住する為の区画だからという理由以外に、外から訪れた者に対する偽装の為』という理由もあった……と、そういう事ですか?」
俺の発言に対し、舞奈が顎に手を当てて考えながらそんな風に言ってくる。
さすがというべきなのだろうか、俺の一言でそこまで理解するとは……
少し驚きながらも、
「その通りだ。と言っても、こっちはあくまでも可能性――仮説ではあるがな」
と返し、肩をすくめてみせる俺。
そんな俺に、
「いえ、総合的に分析して考えると、十分あり得る話だと思います」
なんて事を言ってくる舞奈。
「なら、確定だな」
「はい、確定です」
俺の言葉に対し、舞奈が力強く同意してきた。
……と思いきや、
「……た、多分ですが……」
などと顔を赤らめながら続けてくる。
……そこは最後まで自信を持って良かったと思うが……
と思っていると、舞奈が顔を赤らめたまま、
「ま、まあ、その……あれです。とりあえず『中に何かがありそう』な事と『外からは入れない』事が判明しましたね。……前者は『判明』というには微妙ですが……」
と、そんな風に告げてくる。
「ま、そこは直接――2階から行ってみればいいだけの話だ。今は何かありそうな事だけ分かれば、確認としては十分というものだ」
両手を左右に広げながらそう返事をすると、舞奈はそれに対して、
「でしたらそろそろ戻って、かりんたちの後を追い……あれ?」
なんて事を口にしつつ、顔を先程まで大岩が鎮座していた更にその先へと向けた状態で硬直した。
いや、硬直というよりは凝視している……と言うべきだな、これは。
「何か気になるものでもあったのか?」
「え、あ、はい。ちょっとあそこの木々の合間から、何か石碑のようなものが見えたので……」
俺に対してそんな風に返しつつ、指で視線の先を示す舞奈。
「石碑?」
そう呟きながら舞奈の指し示す方へと顔を向け、そちらを探ってる俺。
すると、たしかに舞奈の言った通り、木々の合間に石碑らしきものがあるのが見えた。
舞奈が石碑ではないかと考えている根拠は、良く見ると文字っぽいものが刻まれているからだろう。
ま、ここはとりあえず石碑という事にしておくか。
「おっ、本当だ。舞奈の言う通り石碑があるな。良く気づいたもんだ。俺なんて言われるまで全然気づかなかったし」
俺がそんな風に言うと、舞奈は少し気恥ずかしそうに、しかし微笑しながら、
「実は建物の中から廊下をぐるっと回ってかりんたちを追うよりも、このままこの庭――と言っていいのかは微妙ですが――を突っ切った方が早いのではないかと思いまして……。それで、ふと視線をあちらに向けてみた所、ちょうどあれが視界に入ったんですよ」
と言ってきた。
ん? 突っ切っていく……?
って、ああなるほど……そういう事か。
たしかにこの建物はYの字みたいな形をしているし、ここからなら突っ切っていった方が早く着くかもしれないな……
そう考えた俺は、
「なるほどな……。よし、ここはあの石碑を確認しつつ突っ切っていくとするか」
と口にした。
「はい、異論はありません。刻まれている文字らしきものが何なのか、気になりますし」
舞奈が頷きながらそう返してきたので、俺は――俺たちは、石碑の方へと歩み寄る。
そして、間近まで行った所で、俺は石碑から放たれている――正確に言うなら、纏わりついている――『霊力』に気づいた。
これはまた、わかりやすいくらい『なにかありそう』な雰囲気だな……
思ったよりも長くなったので、ここで区切りました。
……もうちょっと前で区切っても良かったのですが、さすがに石碑が出てくる所までいかないと、話の進展がほとんどない感じだったので、石碑が出てくる所まで進めてみました。
……次回は、今回よりは進展すると思います。多分ですが……
ま、まあ、そんなこんなでまた次回!
次回の更新は予定通りとなります、9月11日(水)の想定です!
※追記
誤字と脱字があったので修正しました。




