第84話 凍結とスパーク
「どうかしたのか?」
「あ、いえ、魔法陣ごと池の水を全て消し飛ばしてしまうのもなんですので、魔法陣を起点に障壁を円形に展開します。なので、その中だけ凍らせて消し飛ばしてください」
俺の問いかけに対し、そう返してくる紡。
「なるほど……。たしかにその方が色々考えるといいな」
俺が頷きながらそんな風に返すと、「では早速」と言って障壁魔法を発動させる紡。
「結構広範囲に展開してるわね……」
などとかりんが呟いたように、紡の発生させた障壁は、魔法陣とその周囲を大きく取り囲むものであった。
中に俺たち全員――どころか、古都組の面々全員を加えてもなお、まだ余裕がありそうな、そんな広さだ。
さすがに、これだけの領域を囲む障壁魔法は俺には使えない。
まさに、特化した資質がいかに強力なのかが良く分かるというものだ。
なんて事を考えながら俺は、
「それじゃ、凍らせるとするか」
と告げると、そのまま「メナコルザードワイル!」と言い放ち、魔法を発動。
白い逆さまの竜巻が発生し、障壁に囲まれている部分全てを凍てつかせた。
「トッララーッ! カッチカチでありますトラーッ!」
「ですです! 一瞬で凍ったのです!」
オトラサマーと悠花が同時にそんな驚きの声を上げる。
それに対して俺は、
「血のプールと違って狭いし、凍りつくのも速いし、思ったよりあっさりだったな」
と言って肩をすくめてみせた。
「これ、障壁まで凍っちゃってないー?」
「……凍ってしまってますね」
セラと紡がそんな風に言った通り、たしかに障壁も凍りついていた。
……どうやら、加減を見誤ったようだ。
「障壁って凍るんですね」
「うん、驚きだ。というか呪いも凍りついてるね」
涼太が舞奈に頷き、そんな風に口にしながら池の底を覗く。
たしかに、魔法陣を起点にじわじわと広がっていた墨汁のような見た目の呪いも、しっかり凍りついているな……
正確に言うと、呪い自体は凍ったりするようなものではないので、呪いの触媒となっているものが凍りついた事で、触媒として成り立たなくなり、呪いが拡大しなくなった……といった感じなのだが。
「ブッルゥー。なんにしても、あとは魔法陣ごと壊すだけブルよー」
「そうだな。これなら杭はひとつでいいだろう」
ブルルンに対して頷きつつ、以前と同じく全長2メートル程の黒い杭を魔法で生み出す俺。
そして、即座にそれを魔法陣の真上あたりに突き刺した。
「あとはハンマーを叩きつければ終わりだな」
と言いながら、巨大なハンマーを魔法で生み出す俺。
「二度目ですけど、やはりインパクトがありますね。この魔法……」
「そうですね。これも武器生成魔法なんですか?」
紡の発言に続くようにして、そんな問いの言葉を投げかけてくる舞奈。
「武器生成魔法……に近いが、純粋に魔法の塊――というか、術式を多重に組み込んだ魔法陣の塊――だな」
「あ、なるほど。たしかに良く見ると魔法陣のミルフィーユですね」
俺の説明に対し、舞奈が納得の表情でそう返してくる。
するとそれに対して更に、かりんとセラが、
「なんでそんな表現なのよ……」
「ミルフィーユって言われると、なんだか美味しそうー。じゅるり」
なんて事を口にした。
「さすがに食べられないからな……?」
と返しつつ、ハンマーを杭の上に落とす俺。
今回は杭がひとつだけなので、直接叩きつける形にした。
以前とは違い、ハンマーが叩きつけられると同時にまずピシッという音が響き、それに続いてパキィィンという破砕音が響く。
「あのプールと違って、よりダイヤモンドダストっぽい雰囲気がありますね」
「綺麗ー」
「はいです。凄く神秘的なのです」
紡、セラ、悠花の3人が霧散していく粒子を眺めながら、そんな事を呟く。
「魔法陣も呪いも跡形もなく消えましたね」
「そうね。呪いもその他の霊的な力もなにも感じなくなったわ。完全に消滅したと思ってよさ――」
舞奈に対し、かりんがそこまで言葉を紡いだ所で、突然パチッというスパーク音が響き、
「ーーそう?」
かりんの言葉が疑問形になった。
「今、パチッて音がしなかったです?」
「うん。したー。というか、さっきもしたー」
小首を傾げながら問う悠花に、セラがそう返す。
たしかに、さっきの場所で聞こえたのと同じだな……
と思っていると、
「さっき? 浄化している最中にこんな音聞こえなかったわよ?」
なんて事をかりんが言ってきた。
……うん? となると、あの場所でだけ発生していた……のか?
いやまあ、たしかに浄化の影響ではない可能性も、一瞬よぎりはしたが……
顎に手を当てながらそんな事を考えていると、今度はパチパチッと続けざまに響く。
「この感じも先程と同じですね……」
「そうだな……」
紡の言葉に俺が頷いてそう返す。
「ブッルルゥゥ。ご主人、なにか空間が歪んでいる感じブッルよー」
「トーラァ。同じく、そう感じるでありますトラットラー」
「空間が歪んでいる……?」
ふたりの言葉にそう呟く俺。
そして――
「あっ!」
「まさか!」
舞奈と俺の声が重なったその直後、一際大きなスパーク音と共に地面が揺れた。
「地震?」
「結構大きいのです」
そんな風に涼太と悠花が呟くように口にするが、そうではない。
「いえ、これは先程『私たちが訪れた場所』に『建物が戻ってくる』のではないかと……」
なんて事を言いながら、俺の方を見てくる舞奈。
それに対して俺は、
「そうだな。おそらくその通りだと思う。もっとも、どうして『今更』なのかはさっぱりだが……」
と、頷きながら答えるのだった。
引き続き伏線回収の回となりました……
とまあ、そんな所でまた次回!
次の更新も予定通りとなります、8月14日(水)の想定です!
なおその次は、もしかしたらちょっと遅いお盆都合で更新日が変わるかもしれません。
あくまでも現時点では『かも』ですが。




