第76話 図書室と憑依
姉が来て目覚めた時には、座っている場所が変わっていた……と、沙夜子は言った。
だが、それは本当に寝ぼけて移動しただけなのだろうか?
半分寝ている状態で、記憶にない移動をするという事それ自体は、まあ……ないとは言えない話ではあるが、どうにも引っ掛かるんだよなぁ。
それと……そことは別に、図書委員が気づかなかったという点も引っ掛かる所だな。
いくらカウンターから死角になる場所に座っていたとはいえ、『図書室の中を見回りもせずにドアを閉める』なんて事を、図書委員がするだろうか?
いやまあ、こちらもその時の図書委員が雑な奴だっただけだという可能性も、ないとは言えないんだが。
だが……もし、まともな図書委員だったら寝ている沙夜子に気づくだろう。……そこにいれば、だが。
そう、もし沙夜子の身体を『別の誰かが動かしていた』のなら、記憶にない移動も、図書委員が気づかなかったのも、どちらも頷けるからな。
それに……だ。人の身体に憑依して動かす事が出来るような奴に、俺たちは出会っているからな。もしそいつが、その当時から既に動いていたとすれば……
と、そこまで思考を巡らせた所で舞奈が、
「――その日の図書委員の方ですが、沙夜子さんが居る事を知りながら閉めた……あるいは、見たけれど誰もいなかった……という可能性はないのですか?」
なんていう問いの言葉を投げかけた。
まあ、舞奈なら同じような考えに行き着くよなぁ……と思っていると、
「さすがにそこまでは……。後日聞いた話では『気づかなかった』としか言われませんでしたし、そこに疑問も持たなかったので……」
と、美夜子の方が答えてきた。
「居ながら閉めたとなると、閉じ込めるつもりだった……という事になるけど、あそこの学校、中からなら簡単に開けられる戸ばかりだったわ。外から鍵を閉めた所で、閉じ込める事は出来ないわね」
「ちなみにウチの学校の図書室は、何故か内側から鍵を開けられない仕組みですね」
「そうね。まあ……図書準備室のドアは、中から鍵を開けられるようになってるから、ちょっと面倒だけどそっちから出ればいいというだけの話ではあるわ」
「さすが、長年住み着いていただけあって詳しいですね」
「……その通りだけど、微妙に喜べないのは何でなのかしらね……」
かりんと舞奈がそんな事を言っていると、
「ちなみに、その日の図書委員との接点とかは?」
という問いの言葉を桜満が投げかけた。
「いえ……。その日の図書委員は、上級生だったので接点もありませんね……」
そう返事をしてきた沙夜子に今度は弥衣が問う。
「学校の図書室にも、司書さんがいるはずだけど……。その日は司書さんがいなかった?」
「……言われてみると、見かけませんでしたね。まあ……司書の方は、毎日来ていたわけではなかったようなので、その日は単に来ない日だったのかもしれません」
「なるほど……」
沙夜子の返答にそう呟いて顎に手を当てる弥衣。
「えっと……。なんだかそこを深掘っているけど……何か気になる事がある……の?」
良く分からないといった感じでそう問いかけてくる綾乃。
その綾乃に対し、
「――沙夜子の身体に誰かが憑依して、動かしていたかもしれない。それで、もうひとつの疑問点である図書委員の方も気になった」
と返す弥衣。
「えっ? 憑依……?」
驚きの声を発する綾乃に、今度は俺が告げる。
「実は先日、俺たちは『他人に憑依して、その身体を自由に操る異能、あるいは術式』が使える奴と出会っていてな。沙夜子の話を聞いて、みんなその可能性が頭の中に浮かんだんだと思う。俺も同じ事を思ったしな」
「な、なるほど……。そうだったんだ……ね。でも、私たちがあそこに囚われる事になったのは、結構前だけど……その憑依出来る誰かさんは、その頃から裏で蠢いていた……の?」
納得しつつも、もっともな疑問を口にする綾乃。
それに対して、
「黒野沢や黒志田が、その頃からあれこれと動いていたフシがある事は、以前見つけた当時の資料などから分かっているからな。そいつも同じように、あれこれと動いていたというのは、十分考えられるというものだ」
と、そう返す俺。
「そうだね。多分……いや、確実に動いていたと思うよ」
頷きながらそんな風に言ってきた桜満に、
「うん? 何故そう言い切れるのだ?」
という疑問の言葉を返すギネヴィア。
たしかにそうだなと思っていると、桜満はギネヴィアに対して、
「その憑依の異能だか術だかを使う者が、『ここで昔あった殺人事件の再現』なんて事を言っていた……って、そう報告してくれたでしょ? だからあそこであった殺人事件について調べてみたんだけど……なんと、その事件のあった時期というのが、綾乃さんたち3人が例の場所に囚われた時期と一致するんだよ」
と、そう説明した。
「なるほど。その事件に関与していたのであれば、その頃から動いていたのは当然である……と」
「うん、そういう事」
桜満がギネヴィアに頷いてみせた所で、今度はかりんが問いかける。
「だけど、あそこで殺人事件があったっていう話くらいなら、ニュースや新聞なんかでも情報を得られるんじゃないかしら? 話に聞いている憑依の能力を持つ何者かが、関与していたとは言い切れないんじゃない?」
「ええ。『普通の事件』であれば、そうですね」
桜満に代わって『普通の事件』の所を強調しつつ、かりんに返事をする舞奈。
「さすがだね。もう全て分かったみたいだけど、一応話すよ?」
桜満はそんな事を肩をすくめながら言うと、
「――その事件で殺された人間は『地元の有力者』でね。『色々な理由』があって、報道が『控えられた』んだよ。それはもう『完璧なまでに』ね」
などと、舞奈のようにところどころ強調しながら言葉を続け、やれやれだと首を横に振ってみせる。
「――警察や犯人、その有力者とやらの周りの人間やホテルの従業員など、直接そこに関わった人間以外には、まず知られていない事件……。つまり、あいつは確実に『事件の関係者』だというわけか」
俺がそんな風に言うと、綾乃がそれに続くようにして、
「なんとも闇の深い事件があったもの……だね」
なんて事を口にして肩をすくめてみせる。
「なるほどねぇ。そうなってくると益々怪しさが増してくるというものよね。なにしろ、あの場所で行われていた実験には、その何者かの仲間――利用していただけかもしれないけど――黒野沢や黒志田も関わっているわけだし」
そう言ってくるかりんに対して俺は頷きながら、
「そうだな。……それにあの学校だが、ブルルンや花子……じゃなくてカナが言っていたが、かなり複雑な術式が校舎に張り巡らされていた。あれだけの規模のものを黒志田ひとりで作り出したとは到底思えない。黒志田以外の何者かの手が、かなり前から入っていたと考える方が自然だ」
と、そんな風に言った。
その俺に続くようにして、桜満が言葉を紡ぐ。
「それに……璃紗さんを異形化させた『術式』……。あれは、あそこで研究されていたものであり、あのホテルで死体となった黒志田に対しても用いられていたのは、皆の報告やこちらの調査で判明しているからね。これで無関係だなんて、到底思えないよね」
その言葉に俺は――
……ああ、言われてみるとたしかにそこもあったな。
なんというか、色々と『繋がり』が出てくるな……
なんて事を思うのだった。
色々と伏線が繋がる回となりました。もっとも、繋がっただけですが……
ま、まあそんな所でまた次回!
次の更新も予定通りとなりまして、7月13日(土)の想定です!
なお、来週は再びちょっと間が開くパターンになるかもしれません……
まだ未確定ですが……




