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第75話 精神操作と誘導と

 全てが最初から仕組まれていた可能性がある事に気づき、俺が呟くようにその事を言うと、

「はい。私はそう考えました。……あくまでも諸々の状況からの推測なので、絶対とは言えませんが……」

 と、そんな風に返してくる舞奈。

 それに対して、

「……舞奈の推測は外れる事の方がほぼ皆無。つまり、確定に等しい」

 なんて事を言ってウンウンと首を縦に振る弥衣。

 

 舞奈は、指で頬を掻きながら弥衣に言葉を返す。

「え、ええっと、たしかに私自身は確信を持ってはいますが、推測には不確定要素がいくつかあるので、全然違う可能性もゼロではないですよ……?」

 

「確信はあるわけね……」

 肩をすくめるかりんに続き、

「であるのなら、精神操作――思考の操作が行われていたと考えた方が良いのではないか?」

 と、そう言ってくるギネヴィア。

 

「まさか、そんな……」

 信じられないと言った様子で呟く美夜子。

 綾乃も言葉こそ発さないが、同じような表情をしている。

 

 まあ、奴らがそんな事をしていたのだとすると、あそこで起こった出来事――沙夜子を捕える事や綾乃たちの裏切りなど――は、どれも偶然や突発的なものではなく、全て『計画通り』に進められていたという事になる。

 つまり、美夜子や綾乃にとっては、自分の意志で動いていたつもりが、実は操られていた――奴らの手のひらで踊らされていたわけだ。

 もしそれが真実であったとしても、すぐに受け入れられるものではないだろう。

 

 綾乃は顎に手を当てながら、「うーん……。ううーん……」とひとしきり唸った後、顎に当てていた手を額へと動かし、

「……自分が操られていたとは思いたくない……けど、でも……たしかにそう考えると、あの頃の自分の言動に納得がいくのもたしか……ね」

 と言ってため息をついた。

 

 綾乃の言葉に美夜子は、「そう……ですね」と納得しつつ、疑問を口にする。

「ですが、全て仕組まれていたとしても、一体どこからなのでしょう……? 私が沙夜子とあそこを訪れるという所まで仕組むのは難しい気がします。私の話を聞いた沙夜子が同行をOKする所まで、思考を操れるとは思えませんし……」

 

 するとそれに対して舞奈が、

「いえ、その人にとって『一番効果のあるメリット』を提示すれば、NOと返される事は、ほぼほぼないと思いますよ」

 とそんな風に言った。

 そして、その発言に沙夜子が頷きながら返事をする。

「――そうですね。示された内容はたしかにふたつ返事でOKしたくなるものでした。別の予定が入っていない限りは、NOとは言わなかったと思います」

 

「そこまでして沙夜子を実験体として確保したかったのは、なんなのかしらね? 妖魔の因子への適合率?」

「状況的にはそう考えるのが妥当だろうな。ただ、どこでその『適合率』を測定したのかというのが気になるが」

 俺はかりんに対してそんな風に返しつつ、沙夜子へと顔を向け、

「それよりも前に、何かこう……検査とか試験とか、そういったものを受けたりは?」

 と、問いかける。

 

 沙夜子はしばし考えてから、

「……いえ、そういったものは特に何もしていませんね……。試験も学校のテストくらいしか……」

 と、そんな風に言ってきた。

 

「なるほど……。さすがに学校のテストじゃ適合率は測定出来ないよなぁ……」

 そう俺が呟くように言うと、

「まあ、さすがに無理だろうね。どういう『考え』を持っているのかとかは、上手くやればわかるかもしれないけどね」

 と、桜満が腕を組みながら返してくる。

 

 うーん、考え……か。

「その学校と奴らとの間に何らかの繋がりがあったのなら、沙夜子に対して『一番効果のあるメリット』を提示するための情報を得た可能性はゼロではないが……そもそも、沙夜子の学校ってどこなんだ?」

「月紋館ですね」

 俺の問いかけに対して沙夜子がそう返してくる。

 

 だが、どこだ……? と思っていると弥衣が、

「咲彩と紡の通っている学校、あそこは昔、女子校でそう呼ばれていた。共学化される際に名前が変わった」

 と説明してきた。

 

「そうだったのか。あの学校、結構昔からあるんだな」

 そう俺が返すと、弥衣がそれに対して頷いてくる。

「うん、それなりに古い」

 

「あ、今は共学なんですね。……1年目の途中までしか通っていないので、出来る事ならもう一度通いたいものです」

 そんな風に沙夜子が言うと、桜満が、

「あ、それなら編入の手続きをしておくよ」

 なんて事をサラッと言った。

 

「え? 可能なんですか?」

 可能だと思っていなかったのか、驚きの表情を見せる沙夜子。

 そんな沙夜子に対し、桜満は頷きながら告げる。

「もちろん。……まあ、夏休み前から通えるようになるか、それとも夏休み明けからになってしまうかは、ちょっと時期的になんとも言えない所だけど……。あ、そんなに難しいものにはならないはずだけど、編入試験はあるから、そのつもりでね」

 

「あ、はい。そこはちゃんと勉強します」

 そう沙夜子が返事をすると、美夜子がふと何かを思い出した表情で「あっ」と言って沙夜子の方を向き、

「そう言えば……沙夜子、試験勉強を学校の図書室でしていて、気づいたら夜まで寝ていた……なんて事があったわよね。あの時は大変だったし、ああならないように気をつけてね?」

 と、頬に手を当てながらため息交じりに言った。

 このため息には、またやらかさないかと心配する感情も混ざっている気がするな。

 

「そ、そうだね……。そんな事もあったね……。だ、大丈夫、もうあそこまでやったりはしないから」

 その時の事を思い出して恥ずかしくなったのか、少し顔を赤らめながら沙夜子がそう返すと、それに対して舞奈が少し驚いた表情で、

「え? 夜まで寝ていたんですか? よく誰にも気づかれませんでしたね……」

 と言った。

 

「それが……どうやら図書委員の人がいたカウンターからは、ちょうど死角になっていたらしく、私が寝ている事に気づかないまま鍵を閉めてしまったんですよ」

「夜になっても家に帰って来ないから、こっちは大変だったんですよ……。どうにか『図書室で勉強していた』という目撃情報が得られたので、当時はまだ存在していた『宿直の先生』に話をして、図書室へ行ってみたら、思いっきり寝ている沙夜子の姿がありまして……」

「な、なるほど……。それはたしかに色んな意味で大事でしたね……」

 沙夜子と美夜子の話に、舞奈がそんな風に返した所で、

「しかし、それほど深く寝入るとは、余程疲れていたのだな」

 と、ギネヴィア。

 

「まあ、その……。ひとつ前の試験――中間テストの成績が想定より少し良くなかったので、期末はもう少し良くしようと思って、少し根を詰めすぎてしまっていたという自覚はあります。なにしろ一度起きたのに、寝ぼけてまた寝ていたようですし……」

「え? どういう事?」

 沙夜子の話に首を傾げるかりん。

 すると、

「自分でも良く覚えていないんですが、座る場所を途中で変えていたみたいなんですよ。窓に背を向けて座っていたのに、お姉ちゃんが来た時には、窓の方を向いて座っていましたから」

 なんて言ってくる沙夜子。

 なるほどなぁ、そんな事があったのか。

 

 ……って、待てよ? なんだか今の引っ掛かるぞ?

 ……本当に『そう』……なのか?

ここまでの流れを考えれば、それは……という話ですね。


といった所でまた次回!

次の更新は予定通りとなりまして、7月10日(水)の想定です!

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