第74話 思考と感覚
「人形が……喋った?」
「私と同じように人形に魂が封じられている感じ……ですか?」
沙夜子と美夜子がそれぞれギネヴィアに対してそんな反応をする。
まあ、そういう反応になるよなぁ……
なんて思っていると、ギネヴィアが姿勢を正し、
「おっと、失礼。自分はギネヴィアと申す者。マイレディ――話が主、弥衣の使い魔をしている。以後、よろしく頼む」
と言って、深々と頭を下げた。
あ、そうだ。
俺たちも自己紹介しないと駄目だな。
というわけで、その流れのまま弥衣、俺、かりん、舞奈と自己紹介していく。
そして、自己紹介が一通り終わった所で、
「――魔法、符術、使い魔……。ああいった事を実際に経験すると、『実在している』というのが良く分かりますね……。そして、安易に手を出したり、足を踏み入れるものではないという事も」
「心霊スポットというのは、ああいった危険が潜んでいるものなんですね……」
と、美夜子と沙夜子がそんな風に言ってくる。
「まあ、あの一件が特大の『危険』だっただけで、ほとんどのモノや場所は、手を出したり足を踏み入れても害はないから大丈夫よ。せいぜいちょっと呪われるくらいで済むわ」
ふたりに対して、肩をすくめてみせながらそう軽く笑いながら言うかりん。
……安心させているつもりなのだろうか……?
と思っていると、
「それ、安心させてるつもりで、全く安心出来ない話になっていますが……」
という突っ込みを舞奈がいれた。
「うぐっ。そうは言っても、噂だけが独り歩きしているような『実際には何もない場所』なら別に問題はないけれど、『本当に幽霊がいる場所』とか『何かの儀式の影響が残っている場所』とかだったら、大なり小なり呪いはあるものだし、呪われませんとは言えないわよ。あ、でも、本当に大丈夫よ。放っておいても勝手に消えるような呪いの方が、圧倒的に多いから」
などと口にするかりんに対し、今度は弥衣が小首を傾げながら言う。
「そういうもの……なの?」
「うーん……。大きな害を被る事はないという意味では、『大丈夫』だと言えるんでしょうかね? とまあそれはそれとして……話を元に戻しますが、ギネヴィアさんが『視て』怪しいものを感じないのであれば、とりあえず大丈夫なのでは?」
「そうだな……。妖魔の因子がどういうものなのか、正確に分かっているわけじゃないから絶対とは言えないが、霊的に邪悪なものがなければ大丈夫だろう。以前の――千堂璃紗の時のように、ホムンクルス体そのものに何か仕掛けられていたら別だが、今回はこちらで用意したものだから、そんな事はあり得ないしな」
舞奈に対して、思考を巡らせながら俺がそう返事をすると、
「そうだね。何かを仕込むような真似はしないし、させないよ」
と、桜満が頷きながら付け加えるように言ってきた。
「それなら、まあ……ここはギネヴィアの感覚を信じておくしかない」
弥衣はギネヴィアを見ながらそう言った後、今度は美夜子と沙夜子を交互に見て、
「――ところで、美夜子が沙夜子を人質に取られて、仕方なく記事を書いたのは知ってるけど、そもそも……どうして沙夜子を一緒に連れてあそこへ?」
という質問を投げかけた。
「ああ……そう言われてみると、たしかに気になる点だね」
「そうですね。何の理由もなく一緒に行くような場所ではありませんね、あそこ」
桜満と舞奈が、弥衣に続いてそう言いながら美夜子と沙夜子を見る。
「あ、はい。それは編集長からのお達しというか……あの場所を訪れるのなら、ついでに『人』が写っている写真を取ってこいと言われまして……」
「人が写っている写真?」
美夜子の返答に対し、首を傾げる舞奈。
それに対して、
「はい。元々あの辺りはオカルトの特集で使う予定だったので、誰か『探索している人間』が写っている写真があった方が良いと。それで、ちょうど妹がいる私に、宿代と追加のボーナスを出すから、妹を撮影してきてくれと……」
と、そんな風に言う美夜子。
「お姉ちゃんからその話を聞いて、後ろ姿かつモザイクなどで隠すという前提での話だったので、それならまあいいかなと思いまして、OKしたんです。タダで温泉に行ける上に、お金も貰えるわけですし」
今度は沙夜子がそう言ってくる。
それに対して弥衣が頷きながら、
「なるほど。それはたしかに私も同じ立場ならOKしそう」
などと口にする。
「でも、それが『罠』だったという事ですよね?」
と言いながら、綾乃の方へと顔を向ける舞奈。
すると綾乃は、
「まあ、そういう事……ね。私も詳しくは知らない……けど、どうも美夜子さんの所の『編集長』は、『こっち側』の人間だったみたい……だし」
なんて返してきた。
「そして、ふたりで来た所で沙夜子を捕まえて、美夜子に記事の執筆を強制させた……? ……それ、なんだかおかしくないかしら?」
「そうですね。編集長ならばそんな回りくどい事をせずとも、美夜子さんに記事を書かせる事は出来るはずです。美夜子さんが断固拒否とかしなければですが」
首を傾げるかりんに対し、舞奈は頷きながらそう言って美夜子を見る。
「はい。当時の私は拒否するつもりはありませんでしたね。そもそも、そういった記事をあの当時は多く書いていましたし」
「ですよね。だとすると目的はそこではないのでしょう」
美夜子の返答に、舞奈が顎に手を当てながらそう告げる。
……うん? それってつまり――
「……最初から沙夜子を『捕らえさせる事』が狙いだった?」
と言いながら、舞奈と綾乃を交互に見る俺。
「……沙夜子ちゃんを捕らえたのは、そう指示されたから……よ。でも、その時はたしかに『記事を書かせるための人質として捕える』と説明された……わ」
「……その説明が嘘だった、と?」
綾乃に続くようにして、かりんがそんな風に言う。
さらにそこへ、
「綾乃は信用されていなかった?」
と今度は弥衣が続ける。
「そもそも、その説明になんで納得したのかが気になるわね。結局、最後は実験に反対する側に回ったのに」
「えーっと、それは……ね……」
かりんの問いかけに対し、綾乃はそんな風に返しつつ何かを考え込む。
「それは?」
「……。……?」
返答を促すかりんに対し、綾乃は顎に手を当てたまま首を何度か捻って、
「……何故なのか分からない……わ」
なんて事を口にした。
それに対して、『何を言っているんだ』と言わんばかりの表情で、
「ちょっと?」
と言って綾乃を見るかりん。
ついでに言えば、言葉こそ発さないものの、俺を含めて他の面々も似たような表情だったりする。
「そ、そんな顔しない……で。だ、だって、その……ね。自分でも良く分からないというかなんというか……あの時は純粋にそれが正しいと信じていたというか……盲信していたかのような……そんな感じなの……よ」
俺たちを見回しながら、そんな風に言ってきた綾乃に対し、かりんが肩をすくめながら返す。
「盲信、信じ込む……ねぇ。まさか、蒼生博士あたりにマインドコントロールされていたとでも?」
するとそこで、
「いえ、黒野沢……あるいはその仲間が何かそういった事をしていたのではないでしょうか? よくよく考えると、蒼生博士の研究を『乗っ取る』なんて事、簡単に出来るとは思えないんですよね。そういった精神操作――思考の操作をしていなければ」
という分析と推測を口にする舞奈。
うん? それはつまり――
「……全てが最初から仕組まれていた……?」
申し訳ありません、更新設定がミスっていた為、手動で設定しなおしました……
また、確認する時間がなかった為、気づくのが大幅に遅くなりました……
……ともあれ、次回からは通常どおりに戻りまして、7月6日(土)の更新予定です。




