第72話 リピーターとホムンクルス
――あれこれと話をしている間に、あやめたちの準備が出来たようなので、俺はいつものホムンクルスを扱っている研究室へとゲートを開いた。
「これはまたなんとも見た事のないものが並んでおるのぅ」
「まあ、宿には外から持ち込まれたもの以外の機械は、ありませんでしたしね」
あやめと美夜子がそんな感想を口にした所で、
「あの宿って普通に電気が使えたよね? コンセントもあったし。あれって最初からあったわけじゃないよね? 誰が持ち込んだの?」
という疑問を投げかける咲彩。
そう言われてみると、たしかに蛍光灯なんかが普通にあったな……
と思っていると、
「あれは以前、宿に迷い込んできた方の中に、電気に関わる仕事をされている方がいまして……それで、その方が自家発電とやらを可能にした方が良い仰ったんです。その時になかなか難しいという話をした所……後日、宿代の代わりにと、太陽の光を電気に変える機械などを外から持ってきまして、宿の中を色々と工事してくれたんですよ」
なんて事を言う雪江さん。
「ええ……? それもう『宿代』の金額で済むようなものではないような気が……」
指で頬を掻きながら困惑気味にそう口にする咲彩。
それに対し、紡が呆れ気味な表情と口調で返す。
「最初に突っ込む所、そこなんですか……?」
「咲彩の感想はともかく、あそこまでよくそんなに色々と持っていったと思う」
「ブッルルゥ。あそこは車では行けないブルゥ。物を運ぶだけで大変ブルよ。よくやるブッルねー」
そんな風に言ってウンウンと首を縦に振ってみせる弥衣とブルルン。
まあ、ブルルンは首ではなくて身体の半分を、だが。
ともあれ、そんな弥衣とブルルンの発言に、舞奈が「そうですね」と同意しつつ、
「というか、まず『もう一度訪れた』というのが驚きです」
と、顎に手を当てながら言った。
「そうねぇ……。逢魔時を過ぎれば入れるようになるとはいえ、普通はわざわざもう一度訪れたりはしないわよねぇ……」
「そうじゃな。『りぴぃたぁ』は、そのお客様だけじゃのぅ」
かりんに続くようにして、そんな風に言うあやめ。
リピーターの所の発音が妙に怪しかったが、まあいいか。
「リピーターって事は、それ以降も来てるのー?」
「はい。一度では工事は終わらなかった事もあって、何度か来られていますね」
セラの問いかけに対し、頷きながらそう答える美夜子。
そして、その美夜子に続くようにして、
「実は、その『工事の記録』があったからこそ、例の『リスト』に加える事にしたとも言うんだけどね。『存在を確認出来ない建物に対する工事』なんて、怪しい事この上なかったし」
なんて事を桜満が告げてきた。ああそういう事……って、ん?
「――桜満? わざわざ来たのか?」
「ゲートで来るのなら、それを使って従業員役を兼ねた警備要員を送ってしまおうかと思ってね」
振り向きながら問う俺に、桜満がそう返してくる。
なるほど……たしかに言った通り、桜満の後ろには和装の男女が10人くらい立ってるな。
そして……その半数は、前にあちこち連れ回されていた頃に何度か見かけた顔だ。
当たり前と言えば当たり前だが、全員『そちら側の人間』という事か。
正直、咲彩――ひいては草薙家の一件が、桜満に利用されたんじゃないか疑惑があるせいで、少しその点が気になってしまうが、まあ……もしあの宿を何かに利用する――例えば囮に使うとか――にしても、あやめたちには影響がないようにはするだろうし、大丈夫だろう。
なんて事を思っていると、桜満があやめたちの方へと向き直り、
「――皆様が例の宿の方ですね? 私は彼らに調査などを依頼している『千代田桜満』という者でして、宿の者たちの代わり……というのはおこがましいかもしれませんが、この者たちに宿の手助けを――基本的な宿の業務をさせたいと考えているのですが、許可していただけませんでしょうか?」
と、そんな感じで説明しつつ問いかけた。
「話は聞いておるぞい。こちらに断る理由などありはせん。むしろありがたいくらいじゃからのぅ」
「はい。当然許可させていただきます。……というより、こちらこそよろしくお願いいたします」
「とても心強いです。よろしくお願いします」
あやめ、雪江さん、美夜子の3人がそう返事をすると、
「ありがとうございます。では、早速――」
と言いながら後方へと顔を向け、視線を送る桜満。
それに対して一番前に立つ男性が頷いてみせた後、あやめたちに対し、
「皆様が留守の間も、我々がしっかりと対応させていただきます。安心してこちらにご滞在ください」
と告げた。
そしてそのまま俺の方を見て、
「ゲートの方を使わせていただきますがよろしいでしょうか? とりあえずの運用に必要となるであろう物資も運んできましたので」
と、言ってくる。
「ああ、もちろんそれは構わないが……何度かゲートで行き来する感じか?」
俺は彼らが持っている荷物を見ながらそう問いかける。
明らかにそれだけでは足りないように感じたからだ。
「あ、いえ、最低限の物以外は、のちほど古都から輸送するつもりです。既に『こちら側』に定着しているのであれば、宿と古都との行き来を妨げるものはありませんからね」
「ああなるほど。言われてみるとたしかにその通りだ」
「はい、なので佐伯さんのお手を煩わせるのは今回のみです」
「いや、むしろ手を煩わせるのはこちらの方だ。だからというわけでもないが、古都から運ぶのが大変なものがあれば言ってくれ。ゲートを開いて運べるようにする」
そんな風に俺が言うと、
「わかりました。わざわざありがとうございます。それでは何かありましたら、ご連絡いたしますね」
と言って頭を下げた後、ゲートをくぐっていく男性。
そして、他の者たちもそれに続く。
全員がゲートの向こうへと移動し終わった所で、今度は研究員の女性がやってきて、
「宿の皆様、諸々の準備が出来たましたので、ジェネレータールームまで来ていただけますでしょうか?」
と、そんな風に告げてきた。
「ジェネレータールームとはなんなのです?」
「ホムンクルス体を生成する為の部屋だな」
悠花の問いかけに対してそう俺が答えると、
「そんな部屋あったっけー?」
と言ってくるセラ。
「まあ、セラの時にはまだなかったしな」
「だよねぇー。ちょっと気になるー」
俺の返答に対し、セラがそんな風に返してくる。
そして、そこに悠花とオトラサマーが続くようにして、
「悠花も興味津々なのですっ!」
「トッラトッラー。興味深いでありますトーラァ!」
なんて言った。
その言葉に、やってきた研究員の女性は「どうしますか?」と言わんばかりの表情で、視線を桜満へ向けた。
すると桜満は、まずセラたちの方を見て、
「まあ、気になるなら見学してきたらどうかな? 許可するよ」
と、あっさり見学許可を出した。
そしてそのまま研究員の女性に、
「というわけで、案内とか説明とかは任せるよ」
と告げた。
研究員の女性がそれに対して、
「わかりました。では、おふたりと使い魔さんもご一緒にどうぞ」
と言うと、セラ、悠花、オトラサマーが、
「やったー!」
「ありがとうございますです!」
「トッラトッラァトッララー!」
と、それぞれ異なる喜びの反応をした。
「ギュムブルゥ!? 嬉しいのはわかるブルけど、強く締めすぎブルゥゥーッ!」
なんていうブルルンの声も、一緒に聞こえたが……
……ともあれ、そんな感じでジェネレータールームへと移動していく面々を見送った所で、
「――ところで、例の記者とその妹だが……どんな感じだ?」
という問いの言葉を、桜満へと投げかける俺。
「女性記者の方はそこまで大変ではなかったけど、妹の方は結構大変だったよ。一度あのロクでもない人間によって作られたロクでもないゾンビもどきの異形の肉体から、魂を引き剥がして霊体化する必要があったからね」
「なるほど……。って、よくそんな事出来たな」
「セラ君、ミイ君、カナ君、かりんさん、舞奈さん、璃紗さんといった多くの『データ』があったのと、ミイ君とカナ君が協力してくれたお陰だよ。それがなかったら、さすがにどうすればいいのやらって感じだったし」
俺の疑問に対し、そんな風に返してくる桜満。
「役に立ってなにより……だよ」
「うん、色々とした甲斐があった」
なんて事を口にするカナとミイ。
よくわからないが、いつの間にか色々と協力していたみたいだな。
「で、ようやくホムンクルス体に魂を定着させられてね。これから話を聞きに行こうと思っているんだよ。要するに、こうしてここへ来たのはそっちがメインって事さ」
「なるほど、そういうわけか。なら、早速話を聞きに行くとしよう。……っと、俺たちが同席しても構わない感じか?」
俺は桜満の発言に納得しつつ、そう問いかける。
「それはもちろん構わないさ。むしろ同席してくれた方がいいよ。……でも、この人数だとさすがに会議室かなにかを使わないと駄目かな?」
桜満はそう言いながら俺たちを見回す。
……言われてみると、全員でここに来たからかなりの大所帯だな……
そもそも全員同席する必要があるかというと、別にその必要はないし、単にふたりにプレッシャーを与えるだけだろう。
――ここは、同席する人数を絞った方がよさそうだな。
異様に長くなりましたが、他に区切れそうな所がなかったので、一気に行ってしまいました……
とまあそんな所でまた次回!
次の更新も予定通りとなります、6月26日(水)の想定です!
※追記
弥衣の「衣」が「生」になっている箇所があったので修正しました。




