表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
416/503

第69話 かりんと儀式

 鈴花とオトラサマーに連れられる形で庭に出ると、そこには簡易的とはいえ、それなりに整えられた祭壇が出来上がっていた。

 

 仕上げをしていた雅樹が、俺たちに気づき、

「お、来たか。とりあえず問題はないと思うが……一応確認してくれ」

 と、そんな風に言ってきた。

 無論、俺にはさっぱりわからないので、その言葉はかりんに対するものだ。

 

「ええ、わかったわ。まあ、見たところ問題はなさそうだけど。細かい所までバッチリな感じだし」

「そりゃま、涼太や悠花が細かく調整していたからな」

 かりんの言葉に対して雅樹がそう返すと、

「はいです。悠花は初めてやるですが、儀式そのものは知っていたのでしっかり調整したのです」

「古文書も参考にしたし、大丈夫だと思う。……でも、こんな古い儀式を知っているなんて、かりんさんは凄いね」

 なんて事を悠花と涼太が口にする。

 

「ま、まあ……私の家は、古い術式や儀式がメインだったから……」

 かりんが頬を人差し指で掻きながらそう答える。

 ……実際には、その『古い儀式』を普通に行っていた時代の人間だからなのだが。

 

「それにしても、こういう大掛かりな術は初めて見る。興味深い」

「うん、たしかに……ね」

「私は、ひとりひとり成仏させる方法しか知らなかった」

「たしかにそうですね。というか、普通はそうですし」

 弥衣、カナ、ミイ、紡の4人が祭壇を眺めながら、それぞれそんな事を言う。

 

「ひとりひとりやる方法だと、この宿に累積されちゃってる陰の気――霊気に邪魔されて手間がかかる……んだっけ?」

 そう口にして首を傾げる咲彩に対し、

「そうらしいですね。陰の気とか言われても見えないので分かりませんが」

 と言って、周囲を見回す舞奈。

 そこに鈴花が、

「私はなんとなく分かるんだよね。というか、前よりも分かるようになったっていうべきかな?」

 と、そんな事を言う。

 

「巫女の血という奴ですね。ううーん……私にもそんな血が欲しいです」

「……舞奈の持つ『凄まじい分析能力』なんていう異能じみた代物の方が、私は欲しいと思うんだけど?」

 羨ましそうな表情の舞奈に対し、鈴花がそう返して肩をすくめてみせる。

 

「チェンジ出来るのならチェンジしたいんですけどね……」

「ま、そうそう都合良くはいかないって事だねぇ……」

 そんな事を舞奈と鈴花が続けて口にした所で、

「まったくなのです。悠花もお兄ちゃんと資質をチェンジしたいのです」

 なんて事を言いながら、オトラサマーと涼太を交互に見る悠花。

 

 どうやら、オトラサマーが自分の力で動いているわけではない事に対して、いまだに思う所があるようだ。

 ……まあ、わからんではないが、こればかりは如何ともしがたいからなぁ。

 

「隣の芝生は青く見えるって奴だね」

「うーん、今ならその言葉が良く分かるよ、うん」

 紘都の発言に対し、鈴花が腰に手を当ててため息をつきながらそう返す。

 

「ほう、これはまた思ったよりも立派な祭壇じゃな」

 宿から出てきたあやめがそんな風に言う。

 見ると、その後ろには宿の者たちの姿があった。

 

「とりあえず、全員連れてきましたが……」

「……何をするのか説明しても駄目でした……」

 美夜子と雪江さんがそう残念そうな表情で告げてくる。

 

「そうでしたか……。でも、どうしてそうなるんでしょう……?」

 舞奈がそんな疑問を口にすると、

「……囚われている事を認識出来ない霊体というのは、言ってしまえば音楽の――『楽曲のデータ』と同じ。『再生』すれば実際の演奏と同じものを聞くことが出来る。だけど、違う曲が流れてきたりはしない。演奏と違って『僅かな音の差』すらもない。常に『同じ楽曲の同じ音』が流れる。それと一緒」

 なんていう説明をするミイ。

 

 ……う、うーん……

 例えがいまいちわかりづらいな……

 理解出来なくはないが……

 

 と思っていると、

「……えっと、ロボットで例え直すと……AIによる自己判断で動くロボットではなく、決められたプログラムに沿って動くロボット……みたいなもの?」

 なんて事を咲彩が言った。

 案の定というべきか、いまいち理解しきれなかったようだ。

 

「……そのロボットとかAIとかいう代物については、最近知ったばかりだから詳しくないけど……まあ、多分そういう事で良いと思う……」

 今度はミイの方が理解しきれていない。

 

 ……まあ、生きてきた『場所』『時代』が違いすぎるからなぁ……

 俺もそうだから、良く分かるというものだ。

 

 なんて事を思っていると、

「うん、問題ないわね。あやめたちも来たみたいだし、早速始める?」

 と、かりんがそんな風に言ってきた。

 

「そうじゃな。……皆の事、よろしく頼むぞい」

 そう返事をして頭を下げるあやめに、

「ええ、任せておいて」

 と答え、祭壇の中心に座るかりん。

 

 それに続くように、悠花と涼太が祭壇の左脇と右脇へとそれぞれ移動。

 そして最後に鈴花が、鈴が複数付いたハンドベルのようなもの――おそらくハンドベルではないと思うが、残念ながらそれがなんであるのか知らないので、そうとしか表現出来ない――を手にして、かりんの後方に立った。

 

「さて、それじゃ始めるわよ」

 そう言うなり、なにやら長い呪文のようなものを唱え始めるかりん。

 

 あやめがその様子を眺めながら、

「――囚われている事を認識しておらず、認識する事も出来ず、ただただ同じ日々を繰り返すだけの者たちとはいえ、長年……それはもう本当に長い年月、共に暮らしてきただけあって、こうして成仏させてしまう事には、少しこう……抵抗があるのぅ……。無論、ここに縛り付けておくのは良い事ではないし、解き放ってやるべきじゃと、そう思ってはおるが……」

 なんて事を口にする。

 

「そうですね……。私も同じような感じです」

 と雪江さんが続き、美夜子も言葉にこそしなかったが、頷いて肯定を示した。

 

 そんな3人に俺は、それはまあそうだよなぁ……と思いながら、何かを言おうとするも、どうにも良い言葉が出て来ない。

 

 他の皆も何も口にしないという事は、俺と同じなのだろうか?

 そんな風に考えつつ、結局無言のまま、かりんの行う儀式を眺めるのだった。

今回も想定以上に会話が長くなってしまったので、一度ここで区切りました……


次で収まるようにしたいと思いつつ、また次回!

次の更新も予定通りとなります、6月15日(土)の想定です!


※追記

誤字を修正しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ