第66話 看守兼守護者の影
「ゆ、幽霊……!?」
「いや、これは音を風に乗せる魔法――正確には術というべきか――の類だな。呪いのような邪なものは特に感じないから、現時点では単なる警告でしかないようだが」
「な、なるほど……そうでしたか。しかし……警告だとすると、これを本格的破壊しようとした瞬間、何かが襲いかかってくるという事ですよね? 確実に」
「ああそうだな。今の感じからすると、そうなるのは間違いないな」
俺が舞奈とそんな事を話していると、
「今の声の主は私たちを閉じ込めている牢獄の看守みたいなもの……という事なのでしょうか?」
そう言ってこちらを見てくる美夜子。
なるほど、牢獄の看守か……言い得て妙だな。
こいつが外にいたから、今までこの場所が破壊される事がなかったという事か。
そして、近づくと危険だから、誰も近づく事がなくなったんだろう。
そんな事を考えながら、俺は美夜子に対し、
「ま、そんな所――というか、牢獄の看守兼術式の守護者って所だろうな。これを生み出した者が何者なのかは知らないが、なんともまあ念の入った事をしているものだ」
と返事をして肩をすくめてみせた。
それに対して舞奈が、
「ですね。今までもここへ近づいた者は、全て先程の声の主が排除してきたんでしょうね」
なんて事をため息混じりに言うと、
「そうね。しかも、あの声の主と思しき存在とこの祠、霊的な鎖で繋がっているわ。どちらか片方だけ排除しても、もう片方が残っていたら復活すると思うわよ」
なんて事を告げてくるかりん。
「……万全すぎじゃないですかね……? なんですか、そのRPGとかSLGにたまにいる同時に倒さないといけない面倒なボスみたいな仕組みは……」
などと、ため息混じりに呟く舞奈。
俺は、よくまあそんな面倒くさい仕組みの守護者……というか、術式を生み出したものだと思いつつ、祠の放つ邪な魔力――いや、霊力を確認し、
「ま、たしかに面倒だが、そうは言ってもやるしかないからなぁ……」
と口にする俺。
舞奈はそれに対して、「それはまあそうですね……」と返してきた後、祠を指差してため息をつくと、
「……ここであれこれ言ってても仕方ありませんし、そろそろ姿を見せてもらいましょうか。これを壊せば怒って出てきますよね?」
なんて事を言った。
「ええ、そうね。間違いなく怒って出てくるでしょうね」
かりんが頷きながらそんな風に返してきた所で俺は、
「舞奈、待った。何もないとは思うが、念の為に俺が魔法剣で斬る」
と言って、早速祠を破壊しようとしている舞奈を静止し、魔法剣を生み出す。
そしてそのまま舞奈と入れ替わるようにして祠の前に立ち、祠を――正確には置かれている石を――たたっ斬ってみた。
邪な霊力が祠から噴き上がり、
「ヲヲヲヲヲヲ……ッ! 不届きなる者どもめ……。万死に値する……っ!」
なんていう声が響き渡り、人の形をした黒い塊がその姿を現した。
……まるで、影が実体化して黒装束を纏ったかのような感じだな。
それを見た舞奈が「まるで黒子ですね」と口にする。
黒子……。ああ、そう言えばこの国にはそういった者が存在していたな。
なるほど、たしかに言われてみると纏っている黒装束は、あれに似ている気がする。
「これを作り出した者の『影』……といった所かしらね」
と、かりん。
なるほど、向こうの世界で言うなら『ファントム』タイプの『リッチ』といった所か。
リッチは元となった魔道士と同等、あるいはそれ以上の力を持つ存在だ。
となると、こいつも元の術者と同等かそれ以上の力を持っている可能性が高い……と、そう考えた方が良さそうだな。
「しかも、1体だけ……ではないようね」
かりんがそう呟くのと同時に、最初に姿を現した『影』の後ろに何体もの『影』が次々に姿を現す。
「分身? それとも配下の『影』とかなんですかね?」
舞奈がそれらを見ながらそんな疑問を口にする。
うん? と思いつつ現れた『影』たちへと視線を向けてみると、先頭――最初に出現した『影』以外は、皆その手に刀や槍などを手にしていた。
という事は――
「見た感じ、刀とか槍とか持っている得物が違うから、配下、あるいは護衛の『影』なんじゃないか?」
と、そんな風に俺が言うと、舞奈は「あ、たしかにそうですね」と納得し、そこにかりんが続く。
「自身以外も『影』を生み出せるだなんて、なかなか高度な術ね」
向こうの世界で例えるなら、ネクロマンシーも使えるリッチって事だな。
リッチの中でも、高位のリッチだと言えるだろう。
「ど、どのように対処すれば……」
美夜子が少し焦り気味――というか少し恐怖の表情でそう言ってくる。
だが、やるべき事は単純だ。
「一掃するだけだな」
「一掃するだけね」
「多分、すぐ終わるのではないかと」
俺とかりんの返答は同じだが、舞奈だけ違った。
「残念ながら、私の魔法では霊体のようなものには大したダメージを与えられないので……」
と、即座にそう続けてくる舞奈。
それに対して、
「あれって、霊体の類なのかしらね……?」
という疑問を口にするかりん。
「わからん。案外殴っても効くかもしれんが、まあ試してる暇があったら、ふっ飛ばしてしまった方が早いな。――舞奈は守りと石の再破壊を頼む」
俺は祠を一瞥しつつ、舞奈にそんな風に告げた。
そう、俺がたたっ斬ったはずの祠――石は、既に再生していたのだ。
破壊の化身……魂の欠片が使われているのに、『破壊』とは真逆の『再生』が生じているというのも良く分からないが……なんらかの方法で反転させているのだろうか?
そんな事を思った所で、
「我が下僕たちよ……あの者どもを血祭りに上げよ……!」
という声が響き、鯨波と共に一斉に襲いかかってくる『影』たち。
……まあ、考えるのは後にして、まずはこいつらを一掃してしまうとしよう。
「――シグレードワイル!」
俺のその声と共に、いくつもの光の剣が地面から飛び出し、『影』たちを穿ち貫く。
「あれ? 地面から剣が出てきましたね?」
舞奈が不思議そうな表情でそんな事を言う。
まあ、この魔法を前に使った時は、『上から光の剣を降らせた』からな。
「これは紡の防御魔法や、かりんの武器生成魔法と同じで、使い手のイメージ次第で、ある程度効果を変化させられるタイプなんだ。だから、以前のように上から降らす事も、こうして下から突き上げる事も出来る」
「ああなるほど……それはまた便利ですね」
ちなみに、何故こんな悠長な会話が出来るのかというと――
「ば、馬鹿……なっ!? 一瞬で下僕たちが……っ!?」
と、親玉の『影』が狼狽した通り、俺の放った魔法『シグレードワイル』によって、下僕の『影』たちは既に大半が消し飛んでいたからだ。
その結果、躊躇したのか恐怖したのかは知らないが、『影』たちの動きが停止していた。
それを見ながら俺は思考を巡らす。
……なんだか思っていたよりも大分弱いような……
下僕だからと言えばそれまでだが、普通は親玉の力が強ければ、下僕も強くなってしかるべきだよなぁ……
親玉の力が下僕に伝わっていないのか、あるいは親玉自体があまり強くないのか……という話になるが、これだけの術式を構築したような奴だぞ? そんな事ってあり得るのか……?
と。
また大分長くなってしまったので、一旦ここで区切りました。
もう少し前で区切りたかったのですが、どうも良い感じに区切れる所がなかったもので……
同時に撃破しないといけないボスって地味に厄介なんですよね……
まあ……昨今は敵のHPが常時表示されているものが多いので、まだやりやすいですが。
とまあ、そんなところでまた次回!
次の更新も予定通りとなります、6月5日(水)の想定です!




