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第63話 幽霊宿を閉ざすモノ

「なるほど、こういう感じなのか。一見すると、普通の古い建物って感じだな」

 俺はゲートをくぐって周囲を見回しながらそう口にする。

 

 舞奈のお爺さんの家とあまり大差のない内装って感じだな。

 まあ、こっちの方があちこち古いけど。

 

「そうじゃろうな。宿の周囲も閉ざされておる以外は、いたって代わり映えのない山林の光景じゃしの」

 そんな風に言ってくるあやめに対し、

「その閉ざされているっていうのは、どういう感じだ? 壁がある感じなのか?」

 という問いの言葉を投げかける俺。

 

「妾は壁なぞ見えた事ないのぅ……。ただ、この宿からある程度離れると、また戻ってきてしまうのじゃよ」

「そういう感じなのか。まあ、ちょっと外へ出てみるとしよう」

「一番近い出口はそっちじゃ」

 俺に対してそう返しつつ、指で通路を指し示すあやめ。

 そして、

「おぬしが外を見てくる間に、妾は『ここに囚われておるという事を認識出来ておる者』を連れてきておくとしよう」

 と、そんな風に言った。

 

「ブッル! ブルルンは霊泉に興味があるブルッ! どこブル!?」

「トッラートッラー! 同じく興味がありますトラーッ! どこでありますトーラァ!?」

 ブルルンとオトラサマーがあやめに対し、詰め寄るようにしながら口にする。

 あやめは少し後ずさりながら、

「こ、こっちの棟にはないぞい。あるのは向こうの宿として使っている棟の方じゃ」

 と、そんな風に言った。

 

「……まあ、なんだ? 呼んでくるついでに、ブルルンとオトラサマーを霊泉に案内してやってくれないか?」

 俺があやめにちょっとだけため息混じりに言うと、

「う、うむ。承知したのじゃ」

 と、そう口にして頷いてみせるあやめ。

 

 するとそこでセラと悠花が、

「なら、私もブルルンと霊泉に行ってみるー」

「あ、悠花もなのです!」

 なんて事を言ってきたので、ふたりもあやめに任せる事にした。

 

「あ、ボクはみんなの所に行ってくるよ」

「でしたら、私も咲彩ちゃんと一緒に行きますね。宿の方も興味深そうですし」

 咲彩と紡がそう言うと、それに涼太と舞奈が続く。

「なら、外を見てこようかな。少し気になるし」

「あ、私も同じく外を確認したいです」


 どうやらこっちのふたりは俺と同じく外に興味があるようだ。 

 というわけで……俺はその場から去っていく面々を見送ると、床に印を刻んでから、あやめに指し示された通路へと顔を向け、「さて、こっちも行くとするか」と涼太と舞奈に告げる。

 ふたりが頷いたのを確認すると、俺は通路へと足を踏み入れた。

 そして、そのまま狭い部屋が並ぶクネクネと曲がりくねった廊下を進んでいく。

 

「随分と曲がりくねってますね……」

「限られた広さの中で狭い部屋を少しでも多く作ろうとした結果って感じだな」

「あ、なるほどたしかに」

「それだけこの宿で働く人が多かったって事なのかもね。さすがにこの狭さでは、客室としては使っていなかったように思えるし」

「一応、使えなくもないとは思うが、まあ……客を通すのなら廊下はもっと広くするか」

 そんな会話を俺たちがしていると、程なくして木戸が見えてきた。

 

「この木戸、霊的な力を感じるね」

 木戸を見ながらそんな風に言う涼太。

 それに対して俺は、

「そうだな。霊力を使って障壁化したり、それを解除したりしているんだろう」

 と答えながら、木戸を調べる。

 

「あ、なるほど。咲彩さんが『最初は閉ざされていた』と説明していましたが、そういう仕組みだったんですね」

 納得の表情でそんな風に言ってくる舞奈に、俺は木戸を調べながら返事をする。

「ああ。まあ、構造自体は大したものでもないから、壊せなくもないが……とりあえず、今は壊さずにおくとしよう」


「普通に開きっぱなしですしね。虫とか入らないんでしょうか?」

「そもそも、この空間に虫っているのかな……?」

「夕方から深夜にかけて『外』からも入れるのなら、夜行性の虫とかは入ってきてもおかしくはないが……まあ、霊的な力に当てられて近づけないのかもしれないな」

 ふたりに対して俺はそう肩をすくめて言いながら、建物の外へと出る。

 

「なるほど、どっからどう見ても普通の山林だな……。ちょっと飛んでみるか」

 俺はそう口にすると、飛行魔法を発動して浮かび上がる。

 

 すると、すぐに空に赤黒い紋様が広がっているのが見えてきた。

 そして、その赤黒い紋様は宿からある程度の距離のところにも広がっており、宿全体を取り囲んでいるような感じになっているというのが、一目で分かった。

 

 ……でもこれ、中心点がこの建物――幽霊宿じゃないな。

 宿よりも少し北――崖のある方とは真逆の方が中心点だな……

 この呪縛の格子とも言うべき代物を生み出している根幹――根源は、宿よりも北にあるって事か……?

 

「どうでした?」

 地上に戻ってきた所で舞奈がそう問いかけてくる。

 それに対して俺は、

「ああ。赤黒い紋様――呪縛の格子とでも言うべきものが、宿を囲んでいた」

 と告げる。

 

「あ、やっぱりあるんですね」

 と言いながら、舞奈はその場で真上に向かって大きく跳躍。

 あっという間に木々の先端よりも更に上へと到達した。

 

「相変わらず、とんでもない跳躍力だね……」

「自己強化魔法に関しては資質が段違いだからなぁ……」

 なんて事を涼太と話していると、舞奈が落下してくる。

 そして着地するなり、

「……残念ながら、私には見えませんでした……」

 なんて言ってきた。……見えなかったのか。

 まあ、さっきのゲートに発生していた格子も見えていなかったようだしな。

 

「ある程度、霊的なものや魔力的なものを感知出来ないと見えないようだな。まあ……だからこそ、迷い込む人間がいるんだろうが」

 俺はそう告げてから、北の方――建物の裏手――へと向き直りながら、

「宿を囲んでいたと言ったが、正確には少し歪でな。囲いの中心点はこの建物や宿のある場所じゃなかったんだ。こっちへ少し進んだ辺りが中心点だった」

 と、そんな風に続きの言葉を紡いだ。

 

「つまり、そこに何かがあるというわけですね。行ってみますか?」

「そうだな。ちょっとだけ見に行ってみよう」

 舞奈の問いかけにそう返し、俺たちはそのまま『囲いの中心点』の方へと向かう。

 

 ……だが、その場所は延々と鬱蒼とした森と背の高い茂みが広がっているだけで、特に何もなかった。

 

 何らかの力で隠蔽されている……のか?

 でも、これといって『そういったもの』は感じないんだよなぁ……

 これは一体どういう事なんだ……?

 

「おかしいな。この辺りが中心のはずなんだが……」

「うーん、これといって妙な力は感じないよね」

「そうなんだよなぁ……。隠蔽かもしれないと思って『探って』みたが、そういう感じでもないし」

「たしかに、何かを隠しているようなそういう感じはないかなぁ」

「だよなぁ。うーん……」

 涼太にそう返事をしつつ、改めて周囲を見回してみるが、やはり何も感じない。

 

「……ここは一度引き返して、あやめさんとかに詳しく話を聞いてみるしかないのではないでしょうか? 私も何も思いつきませんし」

「そう……だな。今のままじゃどれだけ調べても何も見つからなさそうだし、一度出直すしかなさそうだ」

 舞奈の言葉に対し、俺は頷きながらそんな風に答えると、その場に印を刻んで来た道を引き返す事にする。

 

 そろそろあやめたちが戻ってきている――というか、囚われている事を理解している宿の者たちが揃っている――かもしれないしな。

なかなか良い感じに区切れる所がなかった為、少し長くなりました……


とまあそんな所でまた次回!

次の更新も予定通りとなります、5月25日(土)の想定です!

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