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第57話 幽霊宿・肆

「なかなか美味しい料理だったね。量もそれなりにあったし」

 食事を終えて客室へと戻ってきた所で、ボクはそんな風に言う。

 ちなみに、食事は『大した物ではない』などと言っていたけれど、十分豪華だった。

 

「そうだね。まあ、山菜づくしというか、山でも採れる食材ばかりで、肉はなかったのが少しだけ残念だったけど」

「あの子――美夜子ちゃんが言うには、たまに肉料理が出てくる事もあるっぽいね。……迷い込んだ動物の肉……だよね? 多分」

 鈴花の言葉に対し、ボクがそう返すと、

「……まあ、そうでなかったら困るわね……。この宿を丸ごと浄化しないといけなくなるし」

 なんて事をかりんが言ってきた。


「そっちの心配なの!? いやまあ、たしかに悪霊が束になって襲ってきたとしても、別にどうという事はないけどさぁ……」

 ボクはかりんに対して呆れ気味にそう返しつつ、肩をすくめてみせる。

 そして、

「でも、美夜子ちゃんと話した感じからすると、この幽霊宿の成り立ちがどういうものなのか分からないけど、ボクら――というか、ここに迷い込んできた人に対する悪意や害意のようなものは持っていないと思うよ」

 と、言葉を続けた。

 

「そうね。どちらかと言うと、迷い込んできた人をもてなそうという感じよね」

「元々この山にあった宿なのかな?」

 かりんの返答に続くようにして、そんな疑問を口にする私。

 

「うーん……どうだろうね? そもそもこの山って、空間の歪み……だっけ? それの外にある山と同じ山なのかも良く分からないよね……?」

「あー……要するに、ボクが引き摺り込まれた例の空間みたいに、別の場所から引き寄せられたり、混在したりしている可能性もあるって事だね」

 ボクはその事に気づき、鈴花そう返事をすると、

「うん、そういう事。――どう思う?」

 なんて事を言いながら、かりんの方へと視線を向けた。

 

 鈴花に向けられた視線に対してかりんはというと、少し思考を巡らせてから、

「そうねぇ……。あの子――美夜子が、『ここに来る途中も崖があったと思うけれど、ああいう崖がまだある』みたいな事を言っていたじゃない? あんな風に言ってくるって事は、基本的には同じ山ではあるんじゃないかしらねぇ」

 と、腕を組みながらそんな風に言い、そこで一度言葉を切った。

 そして窓へと歩み寄って、外を眺めながら、

「というのも……ここはあの廃村や学校が封じられていた空間とは違って、なんらかの術式で作られているわけではない――要するに、あの空間から『山へ戻ってきた直後の廃村』みたいな感じで、『本来なら重ならないはずの現世と幽世が重なって、一種の異界と化している』だけだから、そんなに大きく理が変わるような事はない……と思うわよ。言い切る事は出来ないけれど」

 なんていう続きの言葉を口にする。

 

「あー……なるほど。あれと同じって事かぁ」

 ボクが顎に手を当てながらそう呟くと、かりんは肩をすくめながら、

「ま、なんにせよ明日の朝になれば分かると言うものよ。というわけで、私は温泉に入ってきて寝るとするわ」

 と、そんな風に言って部屋を出ていってしまった。

 いやまあ、たしかにその通りかもしれないけどさ……

 

「うーん……。なら、ボクはちょっと庭でも見てこようかな」

「え? 外に出るの? 大丈夫?」

 ボクの発言に鈴花がそんな風に問いかけてくる。

 

 ……個人的には、こういう所の方が夜も安全な気がするんだよねぇ……

 と思いながら、

「まあ、何かあっても転移魔法があるし。あ、一応この部屋に印を刻んでおこう」

 と、そう返事をして部屋の隅に印を刻んでおくボク。

 

 そして、ボクが印を刻み終わった所で、

「――待って……。私たちも行く……よ」

 というカナちゃんの声と共にガラッと障子戸が開かれ、カナちゃん……と、ミイちゃんが姿を見せる。

 

「え? そこにいたの? ずっと?」

「そう。廊下を歩いてたら咲彩たちの話し声が聞こえてきた。で、内容が気になったから立ち聞きしてた」

 ボクの問いかけに、しれっと――悪びれる事もなく――立ち聞きしていたと告げてくるミイちゃん。

 いやまあ……障子戸1枚しか、この部屋と廊下を隔てている物がない以上、たしかに丸聞こえかもしれないけどさ……

 

 ……って、さっきまでのボクたちの会話、この宿の人――というか幽霊――たちに、聞かれてないよね……?

 

「ちなみに……私たち以外は誰も聞いていないから大丈夫」

 ボクの思考を読んだかのように、ミイちゃんがそんな風に言ってきた。

 それならまあ……一安心かな?

 

 っていうか、ふたりとも庭に行くって、何か興味があるのかな……?

 

                    ◆

 

「庭に来たはいいけど……やっぱり暗いね」

「うん。でも、そーっと裏手に回るには丁度いい」

 ボクの言葉に対して、そんな風に返してくるミイちゃん。

 ……って、んん?

「え? そーっと裏手に回る? どゆこと?」

 

「……この宿がどうしてここにあって、どうしてあれだけの幽霊がいるのか、それが気になってる。……直接聞くのはさすがに避けたいから、こうして調べに行く」

「まあ、たしかにそれはボクも気になるけど、裏手になにかあるの?」

 ミイちゃんの発言に、ボクはそんな風に返す。

 するとミイちゃんに代わってカナちゃんが、

「宿の中に、開かない襖が……あった。その先……位置関係からすると……ちょうど裏手」

 と、言ってきた。

 

「あー……。そう言えば開かない襖の話、雅樹たちから聞いたなぁ……。まあ、それなら行くだけ行ってみようか」

 ボクがそう言うと、ミイちゃんとカナちゃんが無言で首を縦に振って、了承を示してくる。

 

 そして、ボクたちは慎重に音を立てないようにして、裏手へ向かうのだった――

幽霊宿編、全体の半分ほど来てはいるのですが、想定よりちょっと進行が遅かったりします……

というより、咲彩視点の部分が長くなっているとも……

(……『咲彩視点の部分』というのがどういう意味なのかはさておき)


とまあ、そんな所でまた次回!

次の更新ですが、所用によりGW後半1回分更新が出来ないので、間が空きすぎるのを避ける為、通常よりも1日遅らせて、5月2日(木)の更新を想定しています。

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