第55話 幽霊宿・弐
客室は全部で3部屋しかないらしく、ボクとかりんと鈴花、弥衣ちゃんとミイちゃんとカナちゃん、雅樹と紘都君でそれぞれ分かれる事にした。
まあ……幽霊宿だし、そうそうお客さんが来るわけじゃないから、3部屋でも十分と言えば十分だよね。
蛍光灯とか普通にあるけど、電気は自家発電しているのかな?
とりあえずコンセントにスマホの充電器を挿してみたら普通に充電されたし、電気に見える別物……という事はなさそう。まあ、スマホは圏外表示だけどね。
窓の外は……うん、もう完全に日が落ちてしまったから、真っ暗だね。何も見えないや。
そんな感じで部屋の中を見て回っていると、
「どうせだから温泉に行ってみない?」
と、鈴花が言ってくる。
「あ、たしかに気になる。行ってみようか。かりんは?」
私は鈴花にそう返しつつ、かりんの方へと顔を向け――
「……って、あれ?」
――かりんの姿がなかった。さっきまでそこにいたはずなんだけど……
まさか、消えた!?
「かりんなら、宿の中を見て回ってくるって言って出てったよ?」
「あれ? そうだったの? 聞いてなかったよ」
……消えたわけではなかった。単にボクが聞いてなかっただけだった。
まあ、かりんが消えるわけないよねぇ……
多分、悪霊とかゾンビとか呪われた何かとか、そういった霊的な存在に対しては、ボクたちの中では一番強いだろうし。
――というわけで、スマホが圏外である以上、メッセージは送れないので、かりんには書き置きを残して温泉へ行く私たち。
ちなみに部屋と廊下は、障子戸で区切られているだけで、鍵付きのドアとかそういうものはない。
まあ、障子だけだと廊下から薄っすらと部屋の中が透けて見えてしまうけれど、障子戸の手前に上げ下げ出来る簾があるのでそれを下ろしておけば、一応、廊下から部屋の中が見える事はなかったりする。
でも……うん、本当に昔の宿って感じだね。ウチも大昔は鍵付きのドアとかなかったらしいし。
……
…………
………………
「……この温泉、混浴みたいだね。入口がひとつしかないし」
「脱衣所まで共同ってのは、見た事ないけどね……ボクは」
鈴花にそう返事をしつつ、木戸を開けて脱衣所の中を覗いてみる。
……うん。誰もいないね。籠も使われていないし。
「まあ、雅樹も紘都君も入っていなさそうだけど」
「それはちょっとざんね……じゃなくて、良かった」
「……今、残念って言おうとしたよねぇ?」
ジトッとした目を鈴花に向けながらそう言うと、
「き、気のせいじゃないかな? さ、さあ、入ろう入ろう!」
なんていう、あからさまなごまかしをしてくる鈴花。
ボクはそれに対し、両手を広げてやれやれと首を横に振ってみせる。
と、そこで、
「……ん? ふたりも温泉に入りに来た?」
という弥衣ちゃんの声。
「あ、うん。……って、ギネヴィアも連れてきたんだ」
そんな風にボクが言うと、弥衣ちゃんはため息交じりに、
「連れて行けとうるさい。勝手に動かれると困るから仕方なく連れてきた」
なんて返してきた。
ギネヴィアはというと、まだこの場で口を開くのはまずいと考えているのか、無言のまま微動だにしない。
「なるほど……。あ、中は誰もいないから、入ったら喋っても大丈夫だよ」
ボクはギネヴィアにそう告げながら、脱衣所へと入る。
「ふぅ……。無言かつ動かないというのは、なかなか骨が折れるものだな……」
脱衣所に入るなり、そう言って動き出すギネヴィア。
そして、
「ゆえに! 全身をほぐすためにも、速やかに温泉に浸かるとしよう!」
などと声を大にして口にすると、一瞬で鎧とドレスを脱ぎ去り、籠にそれらを放り込む。
って! 今、どうやって一瞬で脱いだの!? 理解不能すぎるっ!
ボクがそんな感じで困惑している間に、髪の毛以外は素体の状態になったギネヴィアは、奥へと飛んでいった。それはもう『文字通りに』ね。
「……私たちはゆっくり脱いで入ろう。あれは無理」
「そ、そうだね」
ボクが弥衣ちゃんにそう返事をすると、
「まあ、出来たら便利そうだけどね。というか、家のお風呂でもあんな感じなの?」
と、鈴花。
「割とそう。しかも勝手に入ればいいのに、大体一緒に入らされる。そのお陰で1日に2回も湯船に入らされて面倒。正直シャワーだけでいい……」
「ま、まあ、わからなくはないけどね。うん」
弥衣ちゃんに対して鈴花がそんな風に返す。
そして、それに続くように、
「え? 湯船に入らないともったいなくない?」
と、問うボク。
「それ、自分の家が温泉だからだと思う……。普通のお風呂だと面倒」
「まあ、水を張るのってちょっと時間かかるしね」
そんな事を言ってくる弥衣ちゃんと鈴花。
う、うーん……。言ってる事はわかるけど、ボクには理解出来ないなぁ。
と、そんな風に思いつつ返事をする。
「なるほど? まあ、温泉も毎日洗う為に抜いてるから、浸かれるくらいまで貯めるのには、それなりに時間かかるんだけどね」
「あれ、洗うの大変そう」
「そうだね。めちゃくちゃ広いってわけじゃないけど、それなりの広さはあるから、結構大変だね。手を抜くわけにはいかないし」
弥衣ちゃんにそう返すと、続けて鈴花が、
「というか……あそこって、咲彩が洗ってたの?」
という問いの言葉を投げかけてきた。
「うん。毎日じゃないけど、結構な頻度でボクが洗ってるよ。まあ最近は、雅樹が夕食――たまに朝と昼もだけど――のお礼だって言って手伝ってくれるから、労力半分で済む事も多いけどね」
そんな風にボクが答えると、
「へぇ、ほぉ、ふぅん。『朝』と昼も……」
「これはあれだね。そこら辺も含めて、色々詳しく聞きたい所だね! ね、弥衣!」
「うん、聞きたい」
なんて事を、ニマニマしながら口にする弥衣ちゃんと鈴花。
……あっ。
ボク……また余計な事、言っちゃった……かも。
……なんというか、妙に進展のない回になってしまいました……
ま、まあ、そんな所でまた次回!
次の更新も予定通りとなります、4月24日(水)の想定です!




