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第54話 幽霊宿・壱

「なるほど……そうでしたか。この辺りは日が落ちてくると特に迷いやすいですからね」

 なんて事を微笑みながら言ってくる少女。

 そりゃまあそうだよねぇ。逢魔時にならないと通れない場所とかあるし。

 

「ところで、この辺りにアンティーク関連の商売をしている者が建てた施設――建造物があるはずなんだが、何か知らないか?」

 雅樹がそんな事を問いかける。

 

 そんなものはないはずなので、ボクの『この辺りにある施設を目指して歩いていた』を強調するための作り話って所だね。

 

「アンティーク関連……ですか? ……残念ながら聞いた事がありませんね。もしこの辺りだとしたら、もう少し山の上の方になるのではないかと……」

 当然知るわけがないので、少女はそう返してくる。

 

「上……となると、なかなか面倒ね」

「暗い中、山を登るのは……危険……」

 かりんとカナちゃんがそんな風に言うと、

「そうですね……。ここに来る途中も崖があったと思いますが、あのような崖がまだありますので、山の上の方へ行かれるのでしたら、明るくなってからにした方が良いかと……」

 と、そう返してくる少女に、

「でも、ここから一度引き返すにしても、暗いから危険だよね」

「そうだね。まあ、注意して歩くしかないね」

 と、鈴花と紘都君がわざわざ少女に聞こえるように言う。

 

「あ、その……もしよろしければ、ウチに泊まっていきますか? 今日は誰も泊まっていないので、部屋なら空いていますし……」

 少女がそんな風に告げてきた。

 

 やった! 上手くいった!

 なんて思いながらみんなの方を見ると、みんなもそんな雰囲気を醸し出していた。

 

「えっと……いいの?」

「はい。まあ、大したおもてなしは出来ませんが、それでもよければ……」

 ボクの問いかけに対して少女がそう返してくると、ボクよりも先に、

「そこは急だから仕方ない。むしろ、泊まれるというだけで十分」

 と、そんな風に言うミイちゃん。

 

「うん。泊まれるならそれだけでありがたい」

 弥衣ちゃんがギネヴィアを両手で持った状態でそんな風に言う。

 

 もちろんギネヴィアは、ただの人形を装っていて、微動だにしない。

 ……まあ、両手で持ってるのも、それはそれでちょっと怪しい感じがするけどね……

 

「わかりました。ちょっと話をしてくるので中に入ってお待ち下さい」

 そう言いながらボクたちを宿の中へと誘導する少女。

 

 ここまで話を進めている時点で、特に拒絶する理由もないので、ボクたちはそれに従うようにして、宿の中へと足を踏み入れた。

 何か危険な仕掛けとかあるなら、かりんが何か言うはずだしね。

 

「おー、これはなかなか……()()びのある……うん、見慣れた玄関……だね」

 宿に入るなりそんな言葉が自然と口をついて出るボク。

 

 普通なら古い宿特有の佇まいに感嘆する所なのかもしれないけれど、ウチの家もこんな感じだからねぇ……見慣れてるとしか……

 

「そう……だな。咲彩の家もこんな感じだな……」

「まあ、古い宿はどこもこういう雰囲気だと思うよ。うん」

 雅樹と紘都君がそう口にした所で、

「その感じ……もしや、お客様の家も宿を営んでいるのですか?」

 と、もっともな疑問を投げかけてくる少女。

 

「あ、うん。本州の北の端っこで、昔から続いている温泉宿をやってるんだ。ウチ」

「なるほど……ウチも温泉がありますし、見ての通り古い宿ですので、そういう意味では造りが似通るのかもしれませんね」

 ボクの話を聞いた少女はそう言うと、一度そこで言葉を切った。

 そして、玄関の左奥にある小上(こあ)がり――段差で区切られた畳の敷かれている小さい座敷みたいなもの。土間(どま)や居間に作られているのはよく見るけど、玄関の……それも、()がり(かまち)の先にあるのは、少し珍しいかも――を手で指し示しつつ、

「――あ、そちらでお(くつろ)ぎになってお待ち下さい」

 と、そんな風に告げて、奥へと消えていった。

 

 ……あ、いや、幽霊だからって本当に消えたわけじゃないよ?

 

 ボクは誰にともなくそんな補足を心の中ですると、

「まあ、とりあえず待っていようか」

 と、みんなの方を見て言った。

 

「そうだな。――温泉って言ってたが、この辺りに温泉ってあるのか……?」

「うーん……。温泉は温泉でも霊泉なんじゃないかしらね?」

 雅樹の疑問に対し、かりんがそんな推測を口にする。

 

「霊泉? それって入っても大丈夫なの?」

 今度は鈴花がそう問いかけると、かりんは顎に手を当て、少し考えてから、

「そうね……。見てみないと何とも言えないけど、基本的には問題ないはずよ。霊的な力が溶け込んでいるというか宿っているというか……まあ、そういう感じの温泉だし。むしろ、霊力や魔力が増したり、身体の傷や不調が治癒されるんじゃないかしらね?」

 なんて説明を返した。

 

「つまり、回復の泉?」

 ボクがそう言って小首を傾げてみせると、

「……まあ、ある意味そうね」

 と言って肩をすくめてみせる。

 

「うわぁ、チート温泉すぎる……。ウチも欲しい……」

 ちょっと羨ましげにボクが言うと、

「回復魔法を溶け込ませたら出来るんじゃ……?」

「それ……ただのイカサマ……」

 なんて事を弥衣ちゃんとカナちゃんが呟くように口にする。

 

 さすがにそれはイカサマすぎるし、そもそもプライドが許さないかなぁ……

 いやまあ、それ以前の話として、回復魔法なんてボクは使えないけどね。

 

 ……とまあ、そんな事を思っていると、少女――名前を知らないので仕方がない――が、少女に似た……母親……というよりはもう少し若い感じのする女性と共に戻ってきた。

 

 うーん……。幽霊宿の若女将(わかおかみ)といった所かな?

 少女に似ているのは、少女の姉だから……とか? 

 雰囲気的には、母親ではないよね、さすがに。

 

 ボクがそう推測していると、

「皆様、ようこそいらっしゃいました。私はこの子の母親で、この宿の女将(おかみ)をしている雪江と申します。大したおもてなしも出来ませんが、今日はごゆっくりお寛ぎください」

 と、そんな風に言ってきた。

 

「えっ!? 母親なの!? 若すぎてお姉さんかと思ってたよ!」

 ボクが驚きの声を発すると、

「お世辞でもそう言っていただけると嬉しいですね」

 なんて返してくる雪江さん。


「いやいや、お世辞でもなんでもないからっ!」

 

 う、うーん……。この人も幽霊なんだよねぇ……

 全然そんな風には見えないし、何も感じないけど……

 もしかして幽霊だから若く見える……とかだったりするのかなぁ?

 

 ボクはやってきた雪江さんを見ながら、そんな事を思うのだった。

女将さん(少女の母親)が、わざわざ名乗っていますが、そこまで出番はないです……


とまあそんな所でまた次回!

次の更新も予定通りとなります、4月20日(土)の想定です!


※追記

一部の漢字にフリガナを振りました。

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