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第53話 空間の歪みの先

 ――逢魔時(おうまがとき)になるまでの3時間の間に、一度市街地へ戻って別の所を調べてみたが、残念ながらそこは大ハズレだった。それはもう、妖怪もどきや怪しい人影の気配すら感じないくらい見事なまでの空振り。

 

 というわけで……再びゲートを開いて山の中へと戻ってきたボクたち。

 

「さて、もう良い感じの時間じゃない?」

「そうね。ばっちりだわ」

 ボクの問いかけに対し、真っ黒く変色した護符を見ながら、そんな風に返してくるかりん。

 

 真っ黒って、なんだか不気味だよねぇ……

 なんて事を思いつつも、懐中電灯代わりの大きめの光の玉を宙に浮かべると、先へと進むボク。

 

 すると、光球となって来た時には辿り着く事のなかった場所――つづら折りになった道がある崖が見えてきた。

 

「あ、たしかに今回は戻されなかったね。この崖、光球になって来た時は見なかったし」

 ボクはそう言いつつ崖を見上げる。

 するとそれに対して、

「ええ。空間の歪みをすり抜けたわ。そして、もう現世(うつしよ)幽世(かくりよ)の境界の領域に入った感じよ」

 と、そんな風に言ってくるかりん。

 

「え? そうなの? 何の代わり映えもない景色だけど……」

「そうだね。たしかに景色自体は何の代わり映えもない森だけど、ちょっと空気が異質……かも?」

 ボクの発言に対してそう返事をしつつ、上を向く鈴花。

 そしてそれを聞いたギネヴィアが、

「うむ。霊的な力が少しずつ満ち始めているのが分かるな」

 と、そんな風に言った。


 うーん……。そう言われても何も感じないなぁ……

 どうもボクは霊的なものに対する耐性のようなものが若干あるみたいだから、そのせいでむしろ逆に感じないとかなのかなぁ? まあ……そのお陰で、あの異空間から運良く出られたんだけどさ。

 

 なんて事を考えていると、カナちゃんが「たしかに……」と頷き、鈴花と同じように上を見た。

 そして、そのまま額絵の上まで続いているつづら折りの道を眺めながら、

「……これ、道はあるけど……登っていくのが……大変……そう」

 と、そんな風に言う。

 すると、それに続くようにして弥衣ちゃんが頷きながら、

「うん。これを普通に登っていくのは、正直面倒くさい。飛ぶ」

 と口にして、式神を周囲に展開して空を飛び始めた。

 

 うーん……。弥衣ちゃんの魔法、これはこれで便利だよねぇ……

 なんて思いながらもボクは、

「ま、いちいち登るの面倒だよねぇ……。ボクもショートカットしちゃおう」

 と言って光球化。崖の上へと一気に移動する。

 

「おっとと」

 直線にしか移動出来ない為、着地した場所が若干不安定だった。

 どうにか地面に手をついて体勢を立て直す。

 

 と、そこで正面を見たボクの目に、古い木造の建物が飛び込んでくる。

 思っていたよりも古めかしいというか……そこまで大きい建物ではないかな?

 ウチの宿より一回りくらい小さ――って、うん?

 ボクはそこまで思考した所でふと気づく。

 

 この建物の雰囲気……もしかして……宿?

 ――という事に。

 

「これは屋敷……いや、宿か?」

 連続大跳躍で崖を登ってきた雅樹がそんな風に言う。

 それに対して「やっぱりそう思うよね」と返すボク。

 

「宿の廃墟……という感じはしない。屋根とか普通に綺麗」

 と、いつの間にか頭上に移動していた弥衣ちゃんがそう告げてくる。

 

 なお、キュロットを履いている為、下から見上げてもパンツが見えたりはしない。

 っていうか……その服装、空を飛ぶ事が前提だよねぇ、絶対。

 いつの間にか、どこで手に入れたのか良く分からないけど、飛行機乗りが使っていそうなゴーグルまで装着してるし……

 いらないでしょ、それ……

 

 なんていう突っ込みを心の中でしている間に、他の皆もやってきた。

 そして、

「あれ、どうみても幽霊宿」

「そうね。まあ、この領域――現世と幽世の境界――にある時点で、それ以外にはあり得ないけれど」

「うん。こう……霊的な波動っていうのかな? あそこが普通とは違うっていうのをビンビンに感じるよ」

 と、ミイちゃん、かりん、鈴花がそれぞれ口にする。

 

「あ、やっぱりそういう類の宿なんだね」

 そんな風にボクが言うと、カナがそれに頷いてみせ、

「……うん、間違いない。幽霊っぽい存在も……感じ取れる……し」

 なんて言ってきた。

 

「んで、どうすんだ?」

 雅樹の問いかけにボクは「うーん……」と少し考えた後、

「あ、そう言えばここって転移魔法使えるのかな?」

 という疑問を口にしつつ、地面に印を刻んでから転移魔法を発動させてみる。

 

 すると、何の問題もなくゲートが開き、ウチの宿がその向こうに見えた。

 もちろんしっかりとゲートを通過する事も出来る。

 

「――いつでも外に離脱する事は可能みたいね。というか……空間の歪みを無視して、外からも普通にこの領域に入り込めるわね……これ」

 と言ってきたかりんに対し、ボクは頷いて見せながら返事をする。

「そうだね。さすがは魔法って感じだよ」

 

「なら、もうちょっと近づく?」

 弥衣ちゃんがボクの方を見てそう問いかけてくる。

 私はそれに、

「そうだね。いっそ宿の中に入ってみるのも――敢えて泊まってみるのもあり……かも? まあ、みんなの予定がなければ……だけど」

 と、そんな風に返事をしてみる。

 

 すると、みんなからは即座に『問題なし』という反応が返ってきた。

 まあ元々、ボクの家か舞奈のおじいさんの家に泊まる予定ではあったしね、今日は。

 

「じゃあ、こういう時の定番――『道に迷ってしまった』って事にして、宿に近づいてみようか」

「この人数で道に迷うって、なかなか怪しまれそうだけどな……」

「それは……うん、たしかにね。でもさ、他に良い感じの『理由』なんてなくない?」

「そう……だな。それに、結果的に迷い込んでるっつー事には変わりないか」

「でしょ?」

「ただ、この宙に浮かべてる魔法の明かりはまずくねぇか?」

「あ、そうだね。とりあえず消しとこう」


 ボクは雅樹の言葉に納得し、宙に浮かべていた光の玉を消し去る。

 そしてスマホを取り出し、それを懐中電灯代わりにして暗い道を宿の方へ向かって歩いていく。

 と、木々の合間から庭園――日本庭園が見えてきた。

 あまり大きいものではないけれど、なかなかしっかりしている。


 道といっても獣道よりちょっと広いくらいの幅しかないし、木々が多いせいで、さっきの場所からだと見えなかったから、急に現れた感じで少し驚きだよ。


 その庭園を見た紘都君と鈴花が、

「宿のまわりは、小さいけど庭園になっているんだね」

「あ、ホントだ。しかも、結構ちゃんと管理されている感じ? 放置されているようには見えないよね」

 という感想を口にした。

 

 たしかに鈴花が言った通り、放置されている感じはしないなぁ。

 だって、植木はしっかりと手入れされてるし、地面にも葉っぱが積もっていたりはしないし、雑草も生えている感じはしない。更に言うと、小さい瓢箪(ひょうたん)型の池の水も、淀んでいたりはしない。むしろ澄んでいるくらいだし。

 

 ……まさか、この宿の幽霊がそういった事までやってたりする……のかな? 

 人、滅多に来なさそうなのに良くやるなぁ……

 

 なんて事を思ったところで、宿の入口の扉が開かれた。

 そして、中からボクたちと同じくらい……あるいは少し下くらいの年齢を思わせる、腰の下くらいまである長い黒髪を持つ和装の少女が姿を現す。


 少女はボクたちに気づくと少し驚いた表情を見せた後、

「あ、あの……皆様がたは一体……?」

 と、ボクたちの方へと歩み寄りながらそんな風に問いかけてくる。

 ……一応、足はあるね。ちゃんと。

 

 閑話休題(それはさておき)――

 少女の問いに対する返答はというと、ひとつしかないわけで……

 

「あ、えっと、その……この辺りにある施設を目指して歩いてたんだけど、いつの間にか迷っちゃって……」

 ボクは少女に対し、そう告げたのだった――

というわけで、ちょっと……いや、だいぶ長くなりましたが、どうにか目的地まで辿り着きました……

山奥の定番(?)幽霊宿です。

まあもっとも、皆既にこれが幽霊宿だと分かっているという妙な状況ですが……


とまあそんな所でまた次回!

次の更新も予定通りとなります、4月17日(水)の想定です!

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