第3話 飛翔魔法、学校の塀を越える
「と、飛び越える……というのはどういう事ですか?」
「自転車のままジャンプして、あの塀を飛び越えてしまえばショートカット出来るだろ?」
舞奈の問いかけに対し、俺はさも当然だと言わんばかりにそう答える。
「いくぞっ!」
「えっ? えっ? えっ?」
なおも困惑する舞奈だったが、まあ……説明するよりも、実際にやってみせた方が早いよな。
俺はそう結論づけると、坂を無視して進み、学校の塀が下に見える場所まで行く。
都合のいい事に、土手に近い所に駐輪場があった。
ナイス! と、心の中で喝采しつつ、草の生えた土手をスピードを上げつつ勢いよく下る。
「ひゃあああああっ!?!?」
慌てふためく舞奈の声が聞こえるが、実際には下っているように飛翔しているだけだけから、安心して欲しい物だ。
さすがに、普通に土手をこんな速度で下っていったら危険極まりないからな。
「ジャーンプッ!」
俺は敢えて声を大にしてそう言い放ち、自転車を浮かせる。
これもまた言うまでもない話だが、本当にジャンプしたわけではない。
単に飛翔魔法の高度を上げただけだ。
だが、一応これでも魔法を使った事へのカムフラージュにはなるだろう。
「ほええぇぇええぇぇええぇぇええぇぇええぇぇええぇぇええぇぇーっ!?」
舞奈の驚愕の絶叫と共に、自転車は塀を飛び越え、そのまま駐輪場へと着地する。
「到着っと」
事も無げにそう告げた俺に、自転車から降りた舞奈が地面に手をつき、
「……っ!?!? ……っ!? は、はぁ、はぁ……はぁ……。……わ、わ……わけが……わかりま……せん……。し、死ぬかと……思い……ました……」
と、涙目になりながら息も絶え絶えといった感じでそんな風に言ってきた。
……もしかして、ちょっとやりすぎた……か?
なんて事を思う俺だった。
◆
「――ま、間に合ったから何も言えませんけど……もうあれをやるのは止めてくださいね……。さすがに毎度毎度あれをされたら身体が保ちません……」
何も言えないと言いつつ、そんな風に言ってくる舞奈。
「あ、ああ……わかった。次からは、ちゃんと校門を回って入るようにす――って、ん? 待てよ? それだと月城とあの道で出会う度に、今日と同じように俺が自転車を漕ぐって話にならないか?」
「……え? ……あっ!? ち、ち、ち、違います違います! あ、あまりの出来事に頭が混乱して変な事を口走りました……! あうぅぅぅっ!」
俺の投げかけた言葉に対し、慌てふためきながら、舞奈が弁明してくる。
「……いやまあ、俺としては別に構わないぞ? もっとも、そうそう毎日遭遇する事もないとは思うが」
「は、はへ? ……あ、いや、その、あの、えっと……そ……。……そ、そ……それはそうとっ! な、成伯さんは、このまま教室へ行くわけではないですよね? 職員室かどこかへ寄られるんですよね? 成伯さんのお陰で、まだ時間には余裕がありますし、案内しましょうか? いえ、しましょう!」
俺の言葉に更に慌てふためきつつ、強引に、そして捲し立てるように、話題を変えてきた。
若干気圧されつつ、強引も強引、ミラクルな話題転換の仕方だなぁ……なんて事を思う俺。
そこまでして話題を変えたい程に、恥ずかしいという事なのだろうか?
まあでも……実際、職員室に行く必要があるし、場所も良く知らないから案内してくれるとありがたいのはたしかだし――
「……じゃあ、すまないけど職員室まで案内してくれるか?」
と、そう告げる俺。
「はい! 職員室ですね! 案内します! ついて来てください!」
そう勢いよく大きな声で言って歩き出す舞奈。
良く見ると、顔が少し赤かった。
ああ、やっぱりさっきのは恥ずかしかったんだな……と思い、俺はちょとだけ苦笑するのだった。
本日は、もう少し投稿します!