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第48話 無駄と完璧

 見た目だけ禍々しい本は、どうやら魔法陣を主体とした魔法――本には魔術と書かれているが――の術式についてあれこれ書かれているもののようだった。

 

「うーん……。なんだか無駄が多い術式だな……」

 読みながらそんな事を呟くと、

「無駄……ですか? 舞奈さんも言っていましたけれど、どういう事なのでしょう?」

 と、紡が反応してきた。

 

「そうだな……例えばこれとかだが……」

 そう言いながら本を開いた状態で机の上に置く俺。

 そして、

「これは、魔法陣上の対象に闇の属性を纏わせて、擬似的に闇の力を帯びた状態にする魔法陣だが……魔法陣上の対象に闇属性を付与するだけで済む所を、わざわざ闇の力をあれこれと定義して、その上で結果的に単に闇属性を付与するのと同等の内容となる記述式で闇を『纏わせ』て、更にそれを対象に定着させる記述式を用いて纏わせた闇を固定、常時帯びた状態にしているんだ」

 と、そんな風に説明する。

 

「ええっと……? 『10+20=30』と書けば済む所を、『(1+9)×(2+4)÷(5-3)=30』としている……みたいな感じですか?」

 なんて事を言いながら、適当な紙に数式を記述していく紡。

 

「まあ、簡単に言えばそんな感じだな」

 そう俺が答えると、紡が本に記されている術式を眺めながら、

「なるほど……。たしかにそれは無駄ですね」

 と、納得の表情で口にする。

 

「しかも、闇の力をあれこれと定義したのなら、そこでどういう性質を持たせるのかも記述しておけばいいのに、何もしてないから付与される効果が中途半端になってるしな」

 そんな風に言って肩をすくめてみせると、舞奈がやってきて、

「だとすると、こっちに記されている術式もそんな感じなんですかね? これ、私には何がしたいのか分からないんですが」

 と、そんな問いの言葉と共に、本を開いて見せてきた。

 

「……これは無駄どころか、術式として成立してないな」

 顎に手を当てながらそう告げると、再び問いの言葉を投げかけてくる舞奈。

「という事は、これは誰かがそれっぽく書いただけのデタラメな代物……ですか?」

 それに対して俺は、推測をもとに説明する。

「いや、これに近い術式はあるんだ。で、この本だが……見た感じ手書きのようだし、『元になった術式』を見ながら手で写した時に失敗したんだろう」

 

「あ、なるほど。写し損ねたか、そもそも上手く写せなかったか……といった感じなわけですか」

 納得顔の舞奈に対して俺が、

「ああ。まあ……あくまでも俺の推測でしかないけどな」

 と言うと、舞奈は本をめくりながら、

「いえ、そう考えるとしっくりくる部分が多いので、おそらくそれで間違いないかと」

 なんて言ってきた。

 

「なんにせよ、ここにある本の中で『術式について記されている物』は、調べてもあまり意味がないというか……得られる物がなさそうだ。それ以外の本を探して、内容を調べてみる方がいいな」

 俺がそう告げると、舞奈と紡が「「たしかにそうですね」と、同時に返事をしてきた。 

 

 ……ふたりとも言葉遣いがほぼ同じだからか、見事にハモったな。

 なんて思った所で、

「うーん……。なんというか、ここは少し喋り方を変えてみましょうかね?」

 と、舞奈がそんな事を言い出し、コホンと咳払いをしてから、

「とりあえず、術式以外の事が書かれている本を探すといたしますわ。もっとも、これだけあると、どれがそういう本なのかがさっぱりですわね……」

 などという言葉を紡いだ。

 

 それに対して、なんだか貴族令嬢感があるなぁ……なんて思っていると、

「お嬢様っぽいー? というか、お嬢様だけどー」

 と、セラがまさに俺と同じような感想を言葉にした。

 

「まあたしかにお嬢様と言われるとそうかもしれませんわね。もっとも、大した事はありませんけれど。むしろ、セラちゃんの方が、どことなくお嬢様っぽい雰囲気がありますわよ?」

 舞奈はそこまで口にした所で言葉を切り、手を額に当てると、

「……うん、無理ですね。これ以上は無理です。この喋り方、疲れます! それより、本を調べましょう!」

 なんて言ってきた。

 

「自分で言い出しておいてーっていう突っ込み待ちー?」

「それもう突っ込んでるも同然ですよ!?」

「一体何をしているのよ……? さっさと本を調べるわよ」

 セラと舞奈に続き、そんな事を口にするかりん。

 

 ……って、かりんはこの場にいないよな?

 そう思い声のした方を見ると、そこにいたのは紡だった。

 

「凄いのです! かりんお姉さんそっくりなのです!」

「そうだね。ここまで似ているのは驚きだよ」

 悠花に続くようにして、頷きながらそう口にする涼太。

 そして更に、

「ブッル! 完璧なモノマネっぷりブルゥ!」

 と、ブルルンが言う通り、

「たしかに完璧すぎる声真似だな……」

 っとと、驚きで思考が口から出てしまった。

 

「ま、まあ、昔から話し方を真似するのは得意だったのよ……。ええ……」

 ちょっと照れ顔で頬を指で掻きながらそう返してくる紡。

 照れつつも、真似るのは止めないのか。

 

「これはあれですかね……? 紡さんの凄まじい記憶力が声真似に繋がっている感じですかね?」

「トッラ? 記憶力とはどういう事でありますトラー?」

 舞奈の呟きに疑問を抱いたオトラサマーがそう問いかけると、それに対して舞奈が紡の記憶力――誰かが話した内容を一言一句違わずに覚えていられるという事――について、説明する。

 

 それを聞きながら、舞奈の発言の意味を理解した俺は、

「ああなるほど……。声――話し方まで完璧に記憶しているから、それを再現する事もまた可能……と、そんな感じか」

 と、そんな風に言った。

 

「そういう事です。まあ、推測ですが」

「うーん……。たしかにそれは十分考えられる――というか、あり得る話だな」

 舞奈の返答に、俺は呟くようにそう返しつつ思う。

 

 まさか、紡にこんな特技があるとはなぁ……と。

……声真似の所、最初の想定ではもっと短い会話だったんですが、なんだかそれだと微妙だったのでアレコレ付け加えていったら、想定を遥かに超える長さになりました……

というか……実のところ、アレコレ付け加えた直後はもっと長かったのですが、さすがに長過ぎたので削ってコレです(汗)


とまあそんな所でまた次回! 次の更新も予定通りとなります、3月30日(土)の想定です!


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