第44話 猛攻と障壁魔法
「……ギゲッ!」
ゾンビが舞奈の接近に気づいて振り向きながら触手を繰り出す。
しかし、舞奈は「シバルア!」と発すると共に、スライディングで繰り出された触手の下を潜り抜け――「リスレア!」と更に魔法を発動しつつ、頭上に来た触手を切断。
その舞奈めがけて地面を這うように伸びてきた触手に左手のハルパーを投擲。
「フェリア!」
舞奈は口にしてアクロアから数えて4つ目となる強化魔法を発動。
そこから先程の投擲で突き刺さったハルパーを左手で掴み取る。
と、同時に右手のハルパーで触手を引き裂きつつ大きく真上へと跳ね、横から来た触手をそのまま回避。
クルッと前転しつつ、兜割りの要領で触手を真上からたたっ斬った。
「グゲ!? ゲゲ!? ゴガ!?」
一瞬にして触手の半分を切断されたゾンビが、目に見えて分かるくらいに混乱状態に陥る。どうやら、あまり知能はないようだ。
この状況で混乱に陥ったら、もう後は舞奈の勝ちというものだ。
「――うん、やっぱり出番はなさそうだな……」
俺がそう呟くと同時に、
「隙だらけですよ!」
なんて事を言い放ち、ゾンビの懐へと踏み込み……舞奈の姿が消えた。
いや、超高速でゾンビの脇をすり抜け、更に腕を斬って跳躍して斬って、斬って斬って斬って――『舞うように斬る』という言葉が適切な、そんな動きでゾンビを翻弄。
そして、
「ガ……グガ……ッ」
なんていう消え入りそうな声と共にゾンビが地面に倒れ伏した。
「思ったよりも強くなかったというか……遅すぎですね」
そんな事を口にした舞奈に対し、オトラサマーが興奮した様子で両手を上げ下げしながら、
「トッ、トラーッ! さすがでありますトォラーッ! 強すぎでありますトラァァッ! あまりにも疾すぎて、斬りまくっているのがなんとなく分かったくらいでありますトォラァァァッッ!!」
などと声を大にして褒め称えた。
「むむぅ。接近戦だと強すぎるぅー」
セラが喜んでいるのか不満なのか、どっちなのか良く分からない表情でそんな事を口にしたかと思うと、
「ブッルゥゥゥ!? ブルルンをそんなギュギューッとしても、接近戦には強くならないブルよぉー!?」
なんていうブルルンが声が続けて響く。
……やはり良く分からないままだが、それでもまあ……『どっちなのか』じゃなくて『両方』だという事だけはなんとなく理解した。
「自己強化魔法を4連続かつ重ねて発動させるとか凄まじいですね……。私なんて、最近3つ重ねて発動させられるようになったばかりですし……」
紡が障壁を解除しつつそんな風に舞奈に対して言うと、舞奈はそれに対して、
「え、えっと……そ、そんな事ないですよ? 紡さんも、障壁を3つ重ねられる時点で十分凄いと思いますよ……?」
と、頬を掻きながら返した。
しかしすぐに、
「……でも舞奈さん、4連続で終わりじゃないですよね? 絶対」
などと、何故か確信を持って問う紡。
「え? え、ええ、まあ……その、6連……いえ、7連で重ねるくらいまではいけますが……」
「ですよねぇ……。ううーん……まだまだですね……」
舞奈の返答に、紡は肩を落としてため息混じりにそんな事を言う。
……舞奈ほどではないが、紡も自己評価がやや低い気がするなぁ……
まさか、口調が似ているからそこも似た……?
……いや、さすがにそんな事はあるわけないな。うん。
なんて事を思いながら俺は、
「まあ……なんだ? 舞奈のは最早、支援に特化した魔道士並だが、この短期間で障壁を3つ重ねられるようになるも、かなり凄いと思うぞ?」
と、そんな風に告げる。
すると、それに対して紡が顔を赤らめて、
「そ、そう……ですか? そ、それは、その、あ、ありがとうございます……」
などと恥ずかしそうに言ってきた。
その直後、亮太が顎に手を当てながら呟く。
「ん……? そのゾンビの霊力に……乱れ……?」
すると、それに続くようにして悠花も小首を傾げながら、
「……たしかに、なにかおかしいのです……」
と口にし――たかと思うと、すぐに焦り始めた。
「って! あわわわっ!? こ、今度は急激に膨れ上がっているですぅっ!?」
……ん?
「トッ、トォラァァァッッ!? 爆発しそうでありますトッラァァッ!!」
「ブッルッ!? ほ、本当ブルゥゥッ!?」
オトラサマーとブルルンが慌てふためきながら、そんな事を叫ぶ。
俺はその叫び声が耳に届くと同時に、
「紡! もう一度防御障壁っ!」
と大声で告げながら、防御障壁を展開した。
しかしそれに対して紡はというと、
「いえ! 自分たちを防御するだけでは、洞窟自体の崩落の危険がありますっ! なので――!」
なんて事を言いながら、障壁魔法を『3連続』で発動。
ゾンビを囲むように『三角錐』の障壁が展開されたかと思うと、
「これで、大丈夫です!」
と、声を大にして告げてきた。
って、そんな事出来るのかっ!? 目の前の光景に驚かされる俺。
だが、たしかにこれはもっとも有効な手段だな……
なら、これも使っておこう。
俺はゾンビに向かって地面から闇の爪を発生させる魔法を発動。
と、その刹那、凄まじい炸裂音と同時にゾンビから黝い閃光が放たれた。
ふぅ……。ギリギリセーフって所か……
まあ、これは使わなくても大丈夫だったとは思うけどな。
そんな風に思った直後、ゾンビの姿が光と共に跡形もなく消し飛び、その場にちょっとした穴が出来た。
……だが、それだけだ。
そう……。爆発はしたが、紡によって爆炎も爆風も、完璧に障壁の中に押し込められた形だ。
結果、爆発は障壁の中と下方向にのみ、その力の全てが向いた。
そしてそちらには俺の魔法が発動しており、それと相殺された……というわけだ。
もっとも……相殺と言いつつも、爆発の威力が高すぎたので完全には相殺しきれなかったのだが。
でもまあ、ちょっとした穴が出来る程度まで力を削ぐ事が出来たのだから、及第点だと言っていいだろう。うん。
などという思考を巡らせていると、
「こ、こんな事も出来るですか……! 障壁魔法というのは凄いのです……!」
と、悠花がそんな感嘆の声を発した。
俺はそれに対して頷いてみせる。
「ああ、そこに関しては俺も驚きだ。よもやあんな事が出来るとは……」
いや、障壁魔法を極めればああいう事も出来るというのは知識としてあったが、よもやそれを実際にやってのけるとは……。まさに想定外という奴だ。
うぅーん……。なんというか皆、魔法の使い方の上達が早いな。
これもまた、この世界特有の『何か』だったりするんだろうか?
俺は舞奈と紡を交互に眺めながら、そんな事を思うのだった。
フィ◯・ファ◯◯ル・バリアになってしまわないよう気をつけました……(汗)
ま、まあそんな所でまた次回!
次の更新も予定通りとなります、3月16日(土)の想定です!




