第29話 隠れしものの正体
「なるほどブル……。近づいてみると、たしかに邪な魔力を感じるブルねー」
「この感じは……魂の欠片……か?」
オトラサマーが殺意のようなものと言い、ブルルンが邪な魔力と言ったそれは、破壊の化身――その魂の欠片に限りなく近いものだった。
若干ノイズのようなものを感じるのと、伝わってくる異形の感覚が今までと違うのが気になるが……もしかして、動物とかが異形化していたりする……のか?
「トッラー? 魂の欠片でありますトララー? それはなんでありますトラー?」
「ん? 悠花や涼太から聞いていたりしないのか?」
オトラサマーにそう問い返すと、
「むしろ、悠花たちも詳しく知らないのです」
と、言って首を横に振ってみせる悠花。
そして、
「そうだね。そういうものがあって人を異形化する性質を持っているというのは知っているけど、実際に見た事はないし……」
と、涼太の方もそんな風に告げてきた。
「なるほどそうなのか。なら、これ以上進む前に、ちょっとだけ話をしておくか」
そう返事をして立ち止まると、俺は2人と1体に破壊の化身と魂の欠片について説明する。
――そして、一通り説明し終えた所で、
「トッララー、なるほど『破壊』でありますトラか。それなら感じている『殺意』のようなものも納得出来るでありますトラッ」
と言ってウンウンと首を縦に振るオトラサマー。
オトラサマーはブルルンと違って、二足歩行のヌイグルミだから、首を振る動作が普通に出来るんだな。
ブルルンの場合は、わざわざ身体ごと振ってるし……
なんて事を思っていると、
「でも、オトラサマーが納得出来るって事は、この先にいるのって――」
「――魂の欠片によって異形化した人間……ですね」
と、セラと舞奈が口にした。
「いや、異形は異形だろうが、人間ではないかもしれないな。若干ノイズのようなものを感じるのと、伝わってくる異形の感覚が少し違うんだ」
「人間ではない……となると、野生の動物とかが異形化している感じですか?」
俺の返事を聞いた舞奈が顎に手を当てながらそう問いかけてくる。
「ああ、その可能性が高いんじゃないかと俺は思っている」
俺がそう頷きながら告げると、
「野生の動物が異形化する事ってあるんですね。てっきり、人間以外には無意味な代物だとばかり思っていました」
と、紡がそんな風に言ってきた。
「無意味というか、増幅しても人間ほどの劇的な変化が生じるわけじゃないってのが正しいな。元々、人間が無意識に抑制している『獣』の『衝動』を増幅する事で『破壊』へと繋げている面があるからな」
「なるほど……。野生の動物というのは、基本的に本能で生きているものが多いですからね。衝動の抑制という概念がほとんどない為に効きが悪い……と、そういう事ですか」
俺の説明に対し、紡が納得の表情でそんな風に口にした所で、今度は涼太が疑問の言葉を紡ぐ。
「それはつまり、良く躾けられたペットとかは、野生の動物よりも効く……と?」
「まあそうだな。衝動の抑制という概念を強く持っていればいる程、変化も強く生じやすくなる場合が多いからな」
「でも、こんな所にペットがいるものなのです? 誰かが逃してしまったとしても、こんな山奥にまで入り込むとは思えないのです」
俺の返答に続くようにして、今度は悠花がそんな疑問を口にする。
「野生の動物でもそういった概念がないとは限らないし、何かに対して強い『憎悪』や『怨念』のようなものを抱いている場合は、それが満たされない事で『衝動の抑制』と同等となる事もあるからな」
「ほえー、なるほどなのです」
「トラットラー、悠花ー、とりあえず行ってみるでありますトラー。ここであれこれ推測しているより早いでありますトララー」
納得した悠花に対し、オトラサマーがそんなもっともな事を告げる。
たしかにその通りだという事で、早速廃屋へと近づいていく俺たち。
すると、誰もいないはずの廃屋からガタガタと物音が響いてくる。
「トッラァ……。間違いなく何かいるでありますトラァ」
小声でそう言ってくるオトラサマーに続くようにして、
「……これ、もしかして気づかれていません? あからさますぎる物音ですし……」
と、そんな推測を口にする舞奈。
「――警戒と威嚇って所だろうな」
「ですよね。ちょっと試してみましょうか」
俺の返答に舞奈が妙な事を言う。……試す?
意味が分からずにいると、舞奈は近くの少し大きな岩を持ち上げ……勢いよく廃屋へと投擲した。……って、いきなりそれかい!
突っ込むよりも先に、岩は廃屋の外に放置されていた農耕具らしきものへと激突。
激しい粉砕音が響き渡り、農耕具どころか、廃屋の外壁の一部に穴を開けた。
「グゥヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲンンッッ!!」
遂にそんな咆哮が発せられた。
こんな咆哮を発する動物はいないので、廃屋に潜むのは、間違いなく異形化した存在だ。
「これで飛び出してくるか逃げるかするでしょう」
なんて事を言う舞奈に、
「……し、身体能力を強化する魔法というのは、あんな大きな岩すら持ち上げて、更に投げつけられるくらい強化出来るもの……なのです?」
と、驚きの表情のまま問いかけてくる悠花。
「あー……。舞奈の『自己』身体能力強化魔法の資質は凄まじく高くてな。最高位クラスの強化魔法まで使えるんだよ。で、まあ……最高位クラスっていうだけあって、引き上がる身体能力も段違いなんだ」
俺は頬を指で掻きながら、自己の所を強調しつつ、そう返事をする。
「ほ、ほぇぇ……」
「トッラトッラー、舞奈殿は優れた戦士でありますトラねー」
悠花の言葉に続くようにして、何故かオトラサマーがちょっと尊敬気味にそう言った所で、廃屋から凄まじく膨れ上がった憎悪と殺気が放たれた。
「来るブルよーッ!」
ブルルンが警告の声を発すると同時に、凄まじいまでの憎悪と殺気の塊が、こちらへと急速に接近してくる。
そして――
「ド……ドラ……ゴン?」
セラが飛び出してきたそれを見て、そんな事を呟いた。
なにやらドラゴンらしきものが現れたようですが……?
とまあそんな所でまた次回!
次の更新も予定通りとなります、1月24日(水)の想定です!
※追記
同じ用語が連続してしまっていた箇所を修正しました。




