第36話 透真、魔法を教える
「――ああ、本当はな」
と、告げる俺。
それに対して、「本当は?」と、小首を傾げてくる舞奈。
俺は人差し指をピッと立て、そして説明する。
「ここで再び師匠の出番――正確に言うと、師匠の生み出した『術式』の出番だ」
「術式……ですか?」
「ああ。魔力連結術式という物があってな。これを用いて月城に擬似的な魔力回路を刻み込み、俺の魔力回路と連結する。そうする事で、俺を――俺の魔力を介して魔法が使えるようになるんだ」
「えっと……要するに、成伯さんのMPを使って魔法を使う感じですかね?」
「ま、簡単に言うならそういう事だな」
バフと言ったりMPと言ったり、ゲーム――RPGが好きなのだろうか?
ちなみにRPGというのは、『ロールプレイングゲーム』の略だ。
だから、間違ってもRPGゲームなどと言ってはいけない。
それだとロールプレイングゲームゲームになってしまうからな。
……なんて事を桜満が言っていたっけなぁ、そういえば。
――閑話休題。
舞奈は俺の返答を聞き、困惑した表情で何かを言おうとしていた。
……うーん、擬似的な魔力回路を刻むという点に不安があるんだろうか?
そう考えた俺は、
「ちなみに擬似的な魔力回路を刻むのは、特に何もする必要はなくて、詠唱ひとつで終わるからすぐ終わるし、痛くもない。それと、刻んだものが目に見えるような事もないぞ」
と、そんな風に説明してみる。
「あ、いえ、痛いとか目に見えるとかは別にいいのですが――痛くなくて見えない方が嬉しいですけど――成伯さんの魔力を借りるのは何だか悪い気がしまして……」
「ああ、そっちか。――俺の魔力……MPは無限とまではいかないが、かなり多い方でな。月城が使う程度では枯渇したりはしない。だから、心配する必要も遠慮する必要もない」
「そ、そうなのですか? それはなんというか……凄いですね。でも……それでしたら遠慮なく使わせていただきます」
「そうしてくれ。ってなわけで、サクッと術式を使うから動かないでくれ」
俺はそう告げると、すぐに術式を発動するための詠唱を行い、舞奈に擬似的な魔力回路を刻み込む。
「――よし、完了だ」
「え? あれ? もう終わりですか? 何も変わったように感じませんが……」
「もう終わりだ。詠唱ひとつで終わると言っただろ? それと、何も変わったように感じないのは、使おうとしていないからだ」
「な、なるほど……そういうものなのですね」
「ああ、そういうものなんだ。……で、その一番肝心な魔法の使い方についてだが――」
とまあそんな感じで、舞奈に使い方――幾つもの魔法の効果とその発動方法――を教え始めてから約2時間が経過した所で……
「なかなか上手くいきません……。理解はしているのに先に進めないこの感じ……なんだか古武術を思い出します……。もしかして、魔法の才能がないとかだったりするんですかね?」
などと、肩を落としながら言ってくる舞奈。
「いや、普通だと思うぞ。魔法は発動方法を理解したからといって、そんな簡単に使えるようになったりはしないからな。まあ……コツを掴めば割とすぐだったりするが……そもそもそこまでが結構時間がかかる。そして、そこはもう練習するしかない。俺だってそうだったし」
「あ、そうなのですか。であれば、まだまだ全然ですね! 何かをひたすら練習するのは慣れているのでがんばります!」
俺の話を聞いてやる気を取り戻した様子の舞奈が、再び練習を開始する。
が……
「……あ、あれ? なんだか急激に眠気が……」
程なくしてそんな事を言ってきた。おっと……これは疲労の蓄積だな。
「あー……。魔力は俺の物を使っているが、肉体的、精神的な部分は、あくまでも舞奈に依るからな。魔法による肉体疲労と精神疲労が極度に蓄積した状態になったんだろう。何しろ、魔法を使うのは今日が初なわけだし」
「なるほど……そうだったの……ですね……」
そう答える舞奈はかなり眠そうだった。
魔法による疲労って、普通の疲労と違って限界寸前まで気づきづらいんだよなぁ……
「今日はここまでにして、続きはまた明日にするといいぞ」
「はい……。そうですね……そうしま…………すぅ……。………………」
って、おい!?
今回の話、やや長くなりましたが、どうも上手く区切れる場所がなかったので、ここまで行ってしまいました。
さて……明日も本日同様、12時更新の予定です!




