第13話 二手に分かれて西へ
例のアンティークショップでファイルを発見してから約1週間後の土曜日――
咲彩や紡たちが再びこちらにやって来て、皆で先日の仕切り直しという事で、都心を巡っていると、桜満からの連絡が入った。
都心巡りが一段落した所で、桜満のもとへと向かい話を聞く俺たち。
「――というわけで、複数の要素をもとに調査を行ったのだけれど、どうしても1ヶ所に絞り切る事が出来なかったんだ。ここかここ、どっちかに黒志田は潜伏しているはずだよ。――無論、錬金術師たちや『企業』の手の者たちも、ね」
そう言いながら日本地図上の2点を指差す桜満。
それは日本海沿岸と、関西のやや東よりの内陸部の2ヶ所だった。
どっちも一度行った事がある場所ではあるし、転移で簡単に行けるな。
「片方は、この国の始まり――創世の地とも言うべき所ね。まあ……この国の神話に於いて重要な場所であり、古の霊的な力に満ちた地域だし? あいつらが潜伏していてもおかしくはないわね」
かりんがそんな風に言いながら、日本海沿岸の方の候補地点をじっと見つめる。
……そう言えば、そんな話を桜満から聞いた記憶があるな。
10月になると、この地にある大きな社にこの国の神々が集う事で、他の地域では神無月と言われる10月だが、この地だけは神在月になるとかなんとか。
「もう片方は……うんまあ、霊的な力と言ったらここだよねって感じだね」
もうひとつの地点へと顔を向けながらそう口にする咲彩。
それに続くようにして、
「ま、かつてのこの国の首都だかんな。昔は陰陽術やら風水術やらがガンガン使われていたわけだし、霊的な力で満ちていて当然っちゃ当然だよな」
「だね。黒志田やその他の連中が潜んでいそうな感じはあるよね」
「大きな都市だから、隠れるにもちょうどいいしね」
と、雅樹、鈴花、紘都の3人。
「今も部下たちが全力で調査を行ってはいるけれど……魔法や術といったものが絡んでくると、どうしても『直接的に』それらを感知出来ない彼ら彼女らでは、厳しいものがあってね……」
桜満は腕を組みながらそう言うと、首を横に振ってみせた。
俺はそれに、
「つまり、『直接』感知出来る俺たちにも現地で調査して欲しい……と」
と、そんな風に腕を組みながら返す。
正確に言うなら、全員が感知出来るというわけではないが、まあそこはいいだろう。
「まあそういう事だね。無論、タダとは言わないし、放課後や休日の余裕がある時だけで構わない」
「俺は構わないが……転移を使う事が前提になると、同時に2ヶ所は無理だな」
桜満の返答に対し、俺がそう告げると、
「ちょっとちょっとー、ボクの事忘れてないー? もう片方はボクが転移で調査しに行くよ!」
なんて事を咲彩が言ってきた。
ああ、まあたしかに咲彩の転移を使えば、二手に分かれる事も出来はするな。
問題は魔法や術といったものをキッチリ感知出来るかどうかという点だが……
「霊的なものの類なら私でもある程度は感知出来るけど、透真ほどの感知能力はさすがにないわね」
頬に手を当てながらそうかりんが言うと、
「……私とギネヴィアで補助すれば少し補える?」
と、小首を傾げながら問う弥衣。
そこに更に「あ、私も」と手を上げながら告げる鈴花。
「ええそうね。ふたりがいればかなり補えるけど……でもまだちょっと足りないわ」
「――それなら……私たちも同行する……よ」
かりんの返答に対し、ドアの開く音とともに、そんな声が唐突に聞こえてくる。
「はっかりとミイちゃん?」
「み、妙な略し方しないで欲しい……。今は……名前がある……から」
セラの発言に『はっかり』と略された霊体がそう返す。
はっかりって、花子さんカッコ仮の略……か?
って、それはそうと霊体が霊体ではなくなっているな。
しかも、名前がある? それはつまり――
「あ、ホムンクルス体が定着したんですね? それと、名前決めた感じですか?」
俺が口にするよりも先に、舞奈が問いかけると、
「定着した……。壁をすり抜けられなくなったのが少し……残念……」
なんて返事をする霊体。……霊体ではないので『はっかり』としておくか。
「ああうん、それはなんとなくわかるわ」
かりんがぼそっとそんな事を呟くが、聞こえたのは近くにいる俺と舞奈くらいだろう。
「それと……名前だけど、ようやく決めた……よ。――私は、カナと名乗る事にした……」
なんて事を言ってくるはっかり――いや、カナ。
しかし、その名前とはな。
「その名前……ミイさんのお姉さんの名前ですよね?」
紡のその問いかけに、カナに代わる形でミイが頷きながら答える。
「そう。私の姉の名前。……私がそれがいいんじゃないかって言った」
「なるほど、そうだったんですか」
紡が納得の表情でそう返すと、
「で、本題。私とカナもそういうのを感知出来る。……無論、透真ほどじゃないけれど」
なんて事を言いながら俺の方を見てくるミイ。そして、カナ。
「となると……僕は鈴花と行動するとして、雅樹もこっちだよね?」
「ん? ああまあそうだな。その方が良いだろうな。ってか紘都、部活はいいのか?」
「ああうん、そっちはどうにかするさ」
紘都と雅樹のそんな話を聞きながら俺は、いやいやなんか俺の感知能力過大評価しすぎじゃないか? あくまでも、俺のは魔法とブルルンの補正込みだぞ……
などと思ったが、敢えて言うのもどうなのかと考え、とりあえずスルーし、
「なら、咲彩のパーティは、咲彩、雅樹、鈴花、紘都、かりん、弥衣、ミイ、カナか」
と告げる。
「でしたら、透真さんの方は、私と舞奈さんと……あと、セラさんも……でしょうか?」
「うん! もちろん私も行くよー!」
紡とセラがそんな風に言ってくる。
「……物凄く人数に偏りがあるような気がするが、まあ仕方ないか」
俺がそう口にすると、桜満が、
「ああ、それなんだけど……月城さんのお祖父様が『協力』を申し出てきてね。ひとり、『そっち系』の人が手伝ってくれるそうだよ」
なんて事を腰に手を当てながら言ってきた。
……心なしか声に嘆息が混じっているように感じるのと、顔に『如何ともし難かった』とでも言いたそうな感じがにじみ出ているな。
多分、拒否したかったけど出来なかったんだろう……
「舞奈のおじいさんってあの辺りに住んでるの?」
「あ、はい。あそこから少し離れた――最古の温泉のひとつと云われる温泉街の近くに、お祖父様のお屋敷があるんですよ。でもまさか、お祖父様の方から動いてくるとは予想外でした……」
鈴花の問いかけに対し、そう答える舞奈。
「まあなんにせよ……。そういうわけだから、とりあえず向こうへ行ったら、月城さんのお祖父様に『会いに行って』くれるかい?」
と、桜満がサラッとそんな風に俺を見ながら言ってくる。
……そ、そう来たか。
いきなりとんでもない人物と会う事になったな……
西へ……行く前に二手に分けないといけなかったのですが、思ったよりも会話が長くなってしまい……かと言って、これ以上区切るのもあれだったので、『向かう直前』まで無理矢理今回の話にいれてしまいました。結果、今回の話は結構な長さに……
ともあれ……そんなこんなで次からは『おおやしろ』がある神話の地と、『古都』と呼ばれている風水都市が主な舞台になります(もっとも、本作は透真視点の話がメインなので、古都の方の話はそこまで多くはないですが……)
そして、次の更新も予定通りとなりまして、11月29日(水)を予定しています!
※追記
『日本海沿岸と瀬戸内海沿岸』と書いてしまっていたので、後者を正しい場所に修正しました。
……正直言うと、そこを書いている際に『思考が先へ行き過ぎて』しまっていました。現時点では、まだそこには行きません(汗)




